ガールズケイリンの人気筆頭格として、1つの時代を牽引してきた高木真備さん。一昨年の末に開催された「オッズパーク杯 ガールズケイリングランプリ2021」で見事に優勝。年間賞金女王の称号を獲得し、「やり切った!」という気持ちで昨年5月に選手を引退。現在は保護犬・保護猫活動を行なっている。

 そんな高木真備さんに元ガールズケイリン選手としての、さまざまな裏話を聞いていく当連載企画。5回目となる今回は、元選手目線で見る「オッズ」についての話を聞いた。自分のファンの人たちのお金と直結する世界にいる競輪選手は、その数字に対してどのような思いでいるのだろうか。

◆競輪選手は出走前に自分のオッズをチェックするのか

 最終的にグランプリを獲得するほどの実力者であったため、通常開催では1番人気になることが多かった高木さん。出走前に自分のオッズをチェックすることはあったのだろうか。

「競輪場によって違いますが、直前控え室にオッズと締切時刻が表示されているテレビがあって、そこの時間を見ながらレース前の準備をします。だから時間を見ながら、オッズも同時にチェックしていた感じですね。そこで10倍を切っていると色が変わるんですけど、何倍かまでは気にしませんが、1番人気かどうかは見ていました。

 私、デビューして1年目くらいは予選で1番人気なんて全然なかったんですけど、一般戦となると1番人気になっていて、その状況に『一般戦は絶対に勝たないといけないんだ』と、プレッシャーに感じていました。『これで負けたらお客さんの気持ちを裏切ってしまうじゃん……』とか考えていましたね。特に調子が悪い時に1番人気だと不安でした」

◆1番人気にならないと「悔しい」と思うように

 デビュー当時はオッズを見てプレッシャーに感じていたという高木さんは、デビュー3ヶ月後に初優勝を記録したことで、人気になることが多くなった。しかし「徐々にプレッシャーに感じることは少なくなっていきました」と語った。それは、デビュー当時から掲げていた「グランプリ優勝」という目標があったからこそ、オッズに対する考え方が変わっていったようだ。

「私は最初からグランプリ優勝を目標にしていたので、『普段のレースから1番人気になっていることが当たり前にならないといけない』と思ったことを覚えています。勝てるようになり、最後の方は1番人気になることに慣れていました。ただそうなると、逆に1番人気になっていないと悔しくて『1着になって見返そう!』と思うこともありましたね」

◆選手がオッズを見て思うこと

 オッズとは、ある意味「お客さんからの評価」と言っても過言ではない。では、実際に走る選手から見て、お客さんの評価であるオッズに対して思うことはあるのだろうか。

「基本的には選手とお客さんの評価は同じで『なんでこの人が売れてるの?』ということはなかったです。でも、自分でも勝てるかわからない相手と走るときに、私がダントツで売れていたりすると不安になりました。そういうときは、人気が二分している方が『お客さんもどっちが勝つかわからないんだ……』と思って、ちょっと安心じゃないですけど、変なプレッシャーを感じずに走ることができましたね。オッズはその時の対戦相手や自分のコンディションによって、いろんなことを考えさせられました」

◆1番人気での着外は「頭を上げられませんでした」

 また、高木さんは圧倒的に1番人気となったレースで失格となったことがある。2015年8月のレースでは、高木さんが失格となったことで3連単車券が135万円となり、ガールズケイリン史上2番目の高配当車券となった。そのレースのように、圧倒的に1番人気となったレースで着外となってしまったときの心境を聞いた。

「1番人気で着外になったり失格したときは、『買ってくれたお客さんに申し訳ない』という気持ちになりました。競走後にヤジが飛ぶなか、私は顔を上げられなかったですね。走る前にオッズをみて、1番人気だとわかっていたからこそ、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました」

◆オッズを見て「逆にチャンス」と感じることも

 通常の開催では1番人気となることが多くなっていた高木さんも、優勝した2021年のグランプリは1番人気ではなく、結果的に3連単の払い戻し額は37090円となった。このときは、小林優香選手と児玉碧衣選手の2人が人気を分け合う形となっていたが、このオッズを見た高木さんは「逆にチャンスだ」と思ったようだ。

「一昨年のグランプリは、小林選手と児玉選手が人気になっていて、2人のオッズだけが10倍を切っていたんですよ。そのオッズを2人は見ていたと思うし、より一層2人がお互いに意識すると思ったので、注目されていない方が警戒されにくいなと。他の選手に警戒されていない方が走りやすい時もあるので、逆にチャンスだと思いました」

◆引退してから見るオッズは

 最後に、引退後に見たオッズについての話を聞いた。現役時代とは全く異なる見方をして、新たな発見があったようだ。

「現役時代は1番人気と自分のオッズしか見なかったですが、引退してからは高配当のオッズを見るようになりました。例えば1人強い選手がいるときに『どの選手が後ろをとってついていったら高配当になるのかな』とか考えるようになりましたね。いわゆる普通の競輪ファンというか(笑)。

 それで現役時代を振り返ると、同じ自力型の選手がいなかったとき、後ろにどの選手がつくか気にしていなかったんです。だから競走得点順に車番が決まるミッドナイト開催のときは、私が1番車で1-7だと配当が良くなることあったと思うんですけど、当時は全然気にしていなかったので、改めて自分が走っていた時のレースのオッズを振り返って見てみたいですね」

 オッズは、競輪ファンが車券を購入するうえで常に戦っていかなくてはいけない重要な数字。ただアスリートである選手としては、その数字を見たことでのプレッシャーや反骨心など、それぞれの感情が生まれる。そこでどういった想いになるのかまで考え、予想に組み込んでみたら、競輪という競技がより一層面白いものになるだろう。

文/セールス森田

【セールス森田】
Web編集者兼ライター。パチンコライター・動画編集者を経て、現在は日刊SPA!編集・インタビュー記事の執筆を中心に活動中。全国各地の取材に出向くフットワークの軽さがセールスポイント

―[高木真備のガールズケイリントーク]―