◆広告規制改正も「出ます、出します、取らせます」はダメ 
 広告規制改正も「出ます、出します、取らせます」はダメ。年も押し迫った昨年の12月23日、多くのホールがクリスマス時期からの年末年始営業(=回収)体制に入る頃、行政から「ぱちんこ営業における広告及び宣伝の取り扱いについて」という通達が発出されました。この文章が実際に行政のホームページにアップされたのは年明けになりましたが、多くのホール関係者の気持ちをざわつかせる内容だったため、年明けに複数の店長と話をした際には開口一番、この話題が出てくるという感じでした。
 
 そもそもホールにおける広告宣伝は風営法の理念に基づき、「風俗営業者は、その営業につき、営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない(風営法第16条)」とされています。そのうえで行政は「広告及び宣伝の内容が、著しく射幸心をそそるおそれのある行為が行われていること又は風営法違反の疑いのある行為を行っていることをうかがわせる場合、同条による規制の対象となる」としており、簡単に言うとしたら「射幸心を煽るような広告宣伝はダメ」というのが大前提になっています。
 
 それでも実質的なギャンブルであり、射幸心を煽ってナンボと言えるのがパチンコ・パチスロ。一番効果的な広告宣伝文句になるのは、そのものずばりの「出ます、出します、取らせます」的なもの。
 
 まあ、昔からのファン、特にこの言葉が店内のマイク煽りの決まり文句であり風物詩であった頃を知っている人なら眉唾に聞き流してしまいますが、射幸心を煽るからまかりならんと言われたらそれはそうだなと納得せざるを得ません。

◆射幸心を煽れば客が来たパチスロ4号機時代
 
 ただこんな眉唾を軽くスルーできていた牧歌的な時代ならいざしらず、ホール間競争が熾烈になりつつ遊技機の性能もアップしていくと、いつしか客寄せイベントとして実際に出玉がちゃんと期待できるような時代に突入します。
 
 パチスロで言うなら20年前、4号機の中盤頃からでしょうか。万枚、等価交換なら20万円という出玉が当たり前になり、しかも高設定ならほぼ確実に勝てる。そんな機種が揃っていて高設定が実際に入ることが期待できるイベントをホールが競い合っていたわけで、イベント前日にはまだ閉店前のホールに客が並ぶなんていう光景も珍しくはありませんでした。
 
 もちろん期待外れのガセイベントも普通にありましたが、いずれにしてもホール側は地道に信用を積み上げなくても、射幸心を煽りさえすれば比較的簡単に集客できることを知ってしまったわけです。その結果、ホールの役職者の仕事はイベント立案がメインになり、さらに会社としてもイベントを全面に押し出していくことに。

 ある大手チェーンではテレビで特定の数字をアピールするCMを大量出稿したり、また別の大手チェーンではそれぞれの店名に数字を付けて、その数字の日はアツいという刷り込みも行うほど。

◆広告規制は東日本大震災が引き金に……

 そんなイベント全盛時代に水を差したのが2011年の東日本大震災、そして当時の東京都知事の発言に端を発したパチンコバッシングでした。行政というものは世論に対して極めて敏感に反応するもので、2011年の6月には、「ぱちんこ営業における広告、宣伝等に係る風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律違反の取締り等について」という通達を発出します。

 この通達の最初の部分に書いてあるのが、前述の射幸心を煽ったらダメという趣旨の文言で、「営業競争の激化を背景に、隠語を用いて巧妙に規制から逃れようとするなど表現方法の悪質化が進み、依然として善良の風俗及び清浄な風俗環境を害するおそれのある広告、宣伝等がまん延している状況にある」とホールの広告宣伝を断罪しています。

 そして具体的に違法となりえる広告宣伝の実例を列記しつつ、最後には各都道府県警に「厳正な指導及び取締りを推進されたい」と結んでいます。
 
 これを受けて業界団体では何が駄目で何ができるのかを記したガイドラインを行政と相談しつつ作成、そしてイベント頼みの営業が表立っては禁止となりました。

◆ホールが規制の抜け道を探った結果……
 
 ただ通達やガイドラインは事実なら問題ないという表現があり、何かしらやらないと集客できないという危機感……というか、長らくのイベント頼みでしか集客できなくなっていたわけですから、ホール側はその部分を抜け道としてこれまでどおりの広告宣伝を模索します。
 
 そして新台入替なら堂々とチラシを撒けるからと入れ替えペースが急増、また有名人の来店も事実であるからとギャラの高い芸能人を呼んでみたり。もっと安く呼べると同時にファンとの親和性も高いパチンコ・パチスロライターの来店営業も急増しました。ちなみにライターではない人もライターと呼ばれるようになったのもこの頃からですね。

◆晒し屋が急増した背景
 
 ほんの少しだけ内装を変更しただけで大々的にリニューアルと謳ってみたり。要は「ファンに何かあるんじゃないかと思わせればヨシ!」ということですが、ちょっとやりすぎちゃって行政から怒られたという話もしばしば。
 
 怒られるだけならいいとしても、最悪営業停止や取り消し処分が下されるホールも実際にあっただけに、広告宣伝はより巧妙な方法へとシフトしていき、ここ最近では熱心なファンなら必ずチェックしているであろうSNSで出玉情報を淡々と報告している通称・晒し屋が最近の主流になっています。
 
◆緩和を受けて出玉情報を出すホールも登場
 
 少し話は逸れましたが、要は広告宣伝を規制したところでホール側がやろうと思えばステマを請け負う代理店が存在したりする以上、いたちごっこが正直なところ。誠実な営業をしているホールの店長は、特にステマを苦々しく思っているようですが、それでも集客できればやったもの勝ち。
 
 ホール団体側も当然ながらこのことは認識しており、より現状に即したルールにしたいという熱意から行政と折衝を続けて昨年12月の「ぱちんこ営業における広告及び宣伝の取り扱いについて」に落ち着いたのではないかと思われます。
 
 今回の通達、業界の努力を認めるような表現になっているため、ほとんどの店長が「緩和された」という印象があるようです。ただ緩和といっても射幸心を煽らないという原則が大前提であり、「いつもより回ります」とか「高設定を使っています」といった、かつてのようなイベントはできません。でもあくまで事実である過去の出玉の表示が可能になり、早速店内に出玉をランキング形式で掲示しているホールもちらほらと見かけるようになっています。

◆緩和されたが違反には行政指導も
 
 また「出ます」とは言わなくても、例えばグランドオープンした日をアピールすることも可能で、そこをいわゆる特定日にして集客に使うことだってできるようになりました。さらに通達を受けてホール団体が作成したガイドラインには、ステマについても対象とすると明記されています。
 
 SNSを使ったステマ自体、現状はかなり‟濃いグレー”な状態なので、それを知った上で許容しているホールは今後もステマを使った営業を続ける可能性も高いです。しかし、ステマの主戦場となっているTwitterだけでなく、消費者庁もステマについては規制する流れである以上、いつまでも抜け穴を探して他を出し抜くことはできないはずです。かつてイベント全盛時代にイベント頼みの営業が功を奏して「強い」と言われたホールも、規制後はサッパリ……になったところも多く、前例を見れば早めに方針転換することをおすすめしたいものです。

◆ファンも悪質ホールを見極める機会に
 
 今回の、緩和の方向である通達の最後では「広告及び宣伝に関する取組」として、ホール団体での自主規制や違反が疑われるホールへの行政指導もはっきりと明文化されています。スマパチ・スマスロによって機械性能が向上し、広告宣伝も緩和されるなどいい方向へと動き出している今だからこそ、一部の悪質なホールや業者の存在はこの動きを逆行させて自らの首を絞めるようなもの。ファンとしてもそこはしっかり見極めるべきではないかと個人的には考えます。

文/キム・ラモーン



【キム・ラモーン】
ライターとして25年のキャリアを持つパチンコ大好きライター。攻略誌だけでなく、業界紙や新聞、一般誌など幅広い分野で活躍する。