不景気&値上げのご時世では、コスパ&タイパが重視される。だが、それでは「一点豪華主義」の男の欲望は満たされない。今回、週刊SPA!では1万円でラグジュアリーな気分を満喫できる至高の大人買いを追求した。
◆何でもできるようで、何にもできない「1万円」の使い方

中年にもなると身に染みついた価値観や行動パターンはなかなか変えられないもの。小説家の羽田圭介氏は、雑誌の連載で新しい体験を重ね、こんな気づきを得たそうだ。

「連載をまとめたエッセイ本『三十代の初体験』でも触れましたが、企画でボルダリングをした際、体力と時間は有限だと気づかされました。試行錯誤し正解ルートがわかっても、そのときには体力や欲望が追いつかず、共感してくれる友人も少なくなる。新しい経験をするなら、若いうちから全力で、という残酷な事実です」

◆数字のゲームに洗脳されているだけ

そして37歳の今。同年代の友人と顔を合わせれば、節約、貯金、ポイ活、投資の話題ばかりを耳にするそう。

「自分は投資で周りを出し抜いていると思っている人は多いですが、資産の増減を指標とする数字のゲームに、洗脳されているだけ。数字は簡単に失われるものだから、そこに頼りきりだと、自殺する可能性があり危ない。お金を積み立てるより、ちゃんとお金を使うことで自分の体験という本質に変えていかないと」

◆1万円の有意義な使い方とは?

深夜バスでは、羽田氏が考える1万円の有意義な使い方とは?

「1万円って、何にもできない額でもあるし、何でもできる額でもある。自動車の車検代行料やオイル交換で1万円なんかすぐに飛んじゃうし、そこに感動もない。

一方で、夜行バスに乗れば、1万円で日本全国のかなり遠くまで行ける。日常圏内でも良い食材を探し自分で調理すれば、食材の旨みを存分に楽しむようなご馳走にはありつける。

楽しいことを主体的に探して自分なりの工夫を加えることで、人生は豊かになるのではないでしょうか」

1万円という「通行手形」を使い、まだ見ぬ自分の外の世界に一歩踏み出そう。

◆★体力・欲望・共感してくれる友人は減っていくのだから、カネは今使い楽しむべき

【羽田圭介氏】
小説家。芥川賞作家。レジャーや習い事など、初めてのことに挑戦するエッセイ『三十代の初体験』(主婦と生活社)が発売中

取材・文/松嶋千春(清談社) 
※3月28日発売の週刊SPA!特集「1万円で叶う[男の贅沢]13選」より

―[1万円で叶う[男の贅沢]]―



【松嶋千春(清談社)】
様々なメディア媒体で活躍する編集プロダクション「清談社」所属の編集・ライター。商品検証企画から潜入取材まで幅広く手がける。