1987年に第1シリーズの放送が始まったTVアニメ『シティーハンター』。シリーズ放送終了から約20年ぶりの復活を遂げ、観客動員100万人を超える大ヒットを記録した前作『劇場版シティーハンター 』から4年を経て、最新作『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』が公開になった。
説明不要の主人公、冴羽リョウ(正しくは犭(けものへん)に尞)の声は、もちろん神谷明さん(76歳)。冴羽リョウをはじめ、『うる星やつら』の面堂終太郎、『キン肉マン』のキン肉スグル、『北斗の拳』のケンシロウといった誰もが知るキャラクターを生み出してきた声優界のレジェンドは、「いまも戦い続けていますよ」と笑顔で語った。
◆これぞ『シティーハンター』の世界
――いい意味で、冴羽リョウらしいものすごい昭和感に始まり、最後はこれまたリョウらしい“鬼かっこよさ”にしびれました。観終わって、とてつもない振り幅の作品だったなと。
神谷明(以下、神谷):冴羽リョウというのが、もともと振り子のようなキャラクターですからね。僕自身もそれを楽しんできましたが、今回、その振り幅が本当に大きくて、「大丈夫かな」という思いはありました。でも作品的に、とっても上手に、気が付かないうちに笑いからシリアスなほうに引きずり込んでいくんですよね。そこに何の不自然さもない。すごいなと思いました。
前半部分に関しては、「よっしゃ! いつものリョウちゃん」という感じで演じさせていただいたのですが、途中からは自分も作品の中に取り込まれていくような感じでした。これぞ『シティーハンター』の世界です。シリアスなほうに向かってぐんぐん加速していった。もちろん間にはクスっとさせる部分があったりして。全ての演出が上手いと思いました。
◆ちょっとしか出ないのに「賢雄、ずるい!」
――本作は“最終章”のはじまりだと謳われていて、北条司さんの原作コミックにも登場するリョウの過去を知る男・海原神が、アニメにおいてついに初登場しました。
神谷:いよいよ「その核心に分け入ってくるんだ」との思いはありました。ただ、確かに重要なポイントではあるんだけれど、今回の物語の依頼者はアンジーという女性で、でもそのアンダーグラウンドに実は、海原のことも流れています。ファンはもちろん、一般の方が見ても見ごたえのある、とっても上手なストーリー作りになっていると思いました。
海原神に関しては、原作を読んでいるファンにとっては、登場の仕方も本当に「これ、これ!」という感じで出てきます。また堀内賢雄さんの声がもうぴったりで、ちょっとしか出ないのにみんな持ってかれたような感じなんですよ。「賢雄、ずるい!」と思いました(笑)。本当に見事に演じられていて、「やられたな」と。素晴らしい演技でしたね。
今回、ほかにもアンジー役の沢城みゆきさん、ピラルクー役の関(智一)くんやエスパーダ役の木村(昴)くんはもちろんのこと、ゲストで出てくれた世界くん(EXILE/FANTASTICS from EXILE TRIBE)や山ちゃん(南海キャンディーズ・山里亮太)に至るまで、みなさん本当に素晴らしいキャスティングでした。スタッフが作品のすべてに手を抜いていないのが伝わってきます。小室(哲哉)さんも改めて素晴らしい曲を作ってくれて。この4年間で、何回か小室さんにお会いしてるんですが。
◆TM NETWORKとの距離が縮まって「やった!」
――そうなんですか。
神谷:シリーズをやっているときにはお互いに会うチャンスがなかったんですけど、UTSUくん(宇都宮隆)とも、彼のコンサートに呼んでいただいておしゃべりする機会があったりと、(前作劇場版からの)この4年間で一気にTM NETWORKの皆さんとの距離が縮まって、「やった!」って感じです(笑)。
――神谷さんは、数多く演じてきたキャラクターの中でも、冴羽リョウをもっとも好きなキャラクターだと公言してきましたが、それは今でも変わりませんか?
神谷:そうですね。僕の演じてきたキャラクターの中での集大成ですから。
◆個人事務所はメールアドレスにも遊び心が
――事務所を立ち上げられた際に、「冴羽商事」と名付けたことが知られていますが、そのときにも迷いはなかったのでしょうか。
神谷:自分が独立して会社を作るとなったときに「さて、どんな名前にしようか」と、いっぱい考えたんです。でもなかなか浮かばなくて。そのときに「そういえばリョウちゃんの事務所が『冴羽商事』だったなと思って、(原作者の)北条司先生のところに電話したら『(使って)いいよ』と軽く言っていただけたんで付けたんです。先生は冗談だと思ってたみたいですけど(笑)。
僕としては『冴羽商事』に決めてからは、迷いなくここまで来てます。ちなみに、仕事のメールをいただくときのアドレスの頭は(リョウと香が仕事を請け負う暗号と同じ)“XYZ”から始まるんです。
――おお!
神谷:そんなところまでちゃっかり利用させていただいて、遊んじゃってます(笑)。
◆目標を持ち、なにくそと思ってぶつかる
――神谷さんご自身についてもお聞きします。さまざまな活動をされてきましたが、声優歴は53年になります。そんな神谷さんが、“ホンネ”と聞いてパッと浮かぶことを教えてください。
神谷:じゃあ、僕の自分自身へのホンネ、演技に対する向き合い方ね。それは、真っ向からぶつかること。自分の思い通りにいかないこともたくさんありますけど、それで負けたとしても、目標を持って、なにくそと思ってぶつかっていくこと。そうしてひとつひとつ超えていった先にこそ、未来がある。
逆にいえば、最初の自分は小さかったかもしれないけれど、そうやってすべての仕事に、若手で走り始めたころからだけでなく、いまだに戦い続けているからこそ、今がある。ホンネでね、今も戦い続けていますよ。
――今もなお、ですか。すごいですね。ちなみに社会に対するホンネ、向き合い方はありますか?
神谷:社会に対しては、自分のホンネをすべて言うことが正しいとも思わないです。そこはケースバイケースですよね。現実の幅が広ければ広いほど、自分自身のホンネからは遠ざかるかもしれない。そういう意味では、ホンネって難しいですよね。
◆一般論もちゃんと見えてないとダメ
――そういった意味では、自分自身が、自分のホンネと向き合えていればいいということでしょうか?
神谷:同時に、一般論もちゃんと見えていないとダメだということです。こうして社会の中で生きているわけですからね。
――最後にリョウから、読者へひと言お願いします。
神谷:今回も香(伊倉一恵)、冴子(一龍斎春水)、海坊主(玄田哲章)、美樹(小山茉美)と一緒にとっても面白いストーリーを作り上げました。ぜひ劇場に足を運んで観ていただきたいと思います。もっこり期待は裏切りません!
<取材・文・撮影/望月ふみ>
【望月ふみ】
ケーブルテレビガイド誌の編集を経てフリーランスに。映画周辺のインタビュー取材を軸に、テレビドラマや芝居など、エンタメ系の記事を雑誌やWEBに執筆している。親類縁者で唯一の映画好きとして育った突然変異 Twitter:@mochi_fumi