秋ドラマが終盤に差し掛かろうとしている。全体的な傾向として良作が多いが、期待外れの作品もあり、その格差が大きい。16本あるプライム帯(午後7〜同11時)の作品を中間採点し、現時点でのベスト3を決めてみたい。
◆①TBS『日曜劇場 下剋上球児』
(毎週日曜よる9時〜)

 テーマは「許し」と「再生」。このテーマを表すストーリーを紡ぐため、不器用だが純粋な球児たちが配された。許しと再生をテーマにしたドラマは過去に数え切れないほどあったが、高校球児たちを通じてそれを伝えた作品はない。斬新な舞台設定だ。

 三重県立越山高校の社会科教員で野球部監督だった主人公・南雲脩司(鈴木亮平)はニセ教員だった。大学で単位を取り損ね、教員資格が得られなかった。起訴こそ免れたものの、もちろん失職。物流会社への再就職までには苦労を重ね、面接を28社も受けた。

 それよりも南雲を苦しめたのは周囲の冷たい目。自分を買ってくれていた丹羽慎吾校長(小泉孝太郎)は当初、対面での謝罪にすら応じてくれなかった。エース・犬塚翔(中沢元紀)の祖父で野球部の後援者・犬塚樹生(小日向文世)からは「金輪際、野球部に近づかないで!」と突き放された。

 やむを得ない反応だろう。罪を犯した者に世間は厳しい。半面、そのまま許さないことが正しいことなのか。考えさせられた。罪に対する許しは創作物にとって永遠のテーマだ。

 南雲の場合、まず許しに導いてくれたのは球児たち。減刑嘆願署名を集めてくれた。さらに南雲に「県大会予選で1勝したら、戻って来てほしい」と頼み、実際に勝ち、復帰の環境を整えてくれた。南雲がどの教師よりも自分たちに親身になってくれたことを肌で知っていたからだ。

 リリーフ投手・根室知廣(兵頭功海)が続けて学校を休むと、南雲は2時間かけて家を訪ねた。そこで根室家の家計が苦しく、知廣が硬式用グラブを買えないことを知ると、のちに黙って自分のグラブを差し出した。

◆手塚治虫作品にも通じる裏テーマ

 主将だった日沖誠(菅生新樹)と弟で捕手になった壮磨(小林虎之介)たちが乱闘騒ぎを起こすと、怒らず、嫌がらず、相手側に頭を下げ続けた。ほかの教師たちが「これでまたザン高(越山高の略称)の評判が悪くなる」と、まるで他人事だったのとは対象的だった。

 丹波や犬塚樹生ら大人たちに許しを与えさせたのは意外や元野球部監督の横田宗典(生瀬勝久)。定年を過ぎ、情熱を失っていたが、生徒思いの南雲と接し、熱意を取り戻した。再生した。

「南雲脩司は自分の背中を子供たちに見せようとしています。みっともない、情けない背中です。それ蹴飛ばして、何が教育者や!」(横田)

 この作品は間接的な手法で「教育とは何か」も問うている。無免許の天才外科医を登場させることにより、医学とは何かを問い掛けた手塚治虫氏の『ブラック・ジャック』に通じる。

 今後は自尊心や自信を一度失った南雲の再生が描かれる。それは廃部寸前だった野球部の再生劇と重なり合うはずだ。

◆②NHK『大奥 Season2』
(NHK総合 毎週火曜よる10時〜)

 3代将軍・徳川家光(堀田真由)から8代将軍・吉宗(冨永愛)までの時代が描かれた『大奥』(今年1〜3月)の続編。若い男子のみかかる伝染病・赤面疱瘡の流行により、男子の数が激減し、男女の役割が逆転した江戸時代が舞台となっている。Season2は10代将軍・家治(高田夏帆)から15代将軍・徳川慶喜(大東駿介)までが映し出されている。

 テーマの1つはジェンダー問題。これをドラマで扱おうとすると、理屈っぽくなったり、硬くなったりしがちだが、男女逆転下という特性を生かし、しなやかに表している。

 一例は通算18回(続編8回)。海外勢の脅威にさらされていた13代将軍・家定(愛希れいか)は、御台所の胤篤(福士蒼汰)にこう語り掛ける。胤篤は史実では薩摩藩主・島津斉彬の養女だった篤姫だ。

「西洋の国々は確かに強い。しかし、どこも主たるは男。女の力は認めぬという。実は、ワシはここが勝ち目じゃと思うておるのじゃ。おなごにも力のあるものは大勢おる。身分、さらには男女の別もなく、人を取り立てると思えば、倍の中から人を取り立てられる」(家定)

 短いセリフの中にジェンダー問題の重要な一部分が集約されていた。

 仲間由紀恵(44)が演じていた幕府の最高権力者・一橋治済の怪物ぶりが話題をさらったが、これは善玉を輝かせるため。よく計算されている。ベテランの仲間は自分に求められていることが分かっていたはずだ。

 治済は邪魔者や気に入らない人間を次々と殺した。罪悪感は微塵もなかった。吉宗の孫同士である松平定信(安達祐実)から「人の皮をかぶった化け物」と言われたくらい。

◆視聴者を納得させるリアリズム

 その分、虐げられた側のヒロイン、ヒーローがより輝いた。たとえば大奥内の蘭方医・青沼。赤面疱瘡の予防接種「人痘」を開発しながら、不測の死亡事故の責任を取らされ、打ち首になった。

 それでも青沼は泣き言を言わなかった。逆にうっすらと笑みを浮かべ、弟子たちにこう言い残し、刑場へ向かった。

「いつか必ず世が再び人痘を求めるときが来ます。そのときは皆さん、よろしくお願いします!」(青沼)

 世の役に立てて満足だったのだ。また、差別に悩まされることなく研究に打ち込めた大奥の日々に幸せだったのだろう。

 青沼はオランダ人の父と遊女の母の混血だったため、故郷の長崎では不当な差別を受けた。大奥でも当初は周囲から疎まれたが、真摯に研究に打ち込むうち、打ち解けた。差別についても考えさせた。

 全体的には時代劇の有利性が最大限に生かされている。『水戸黄門』などを振り返ると分かるが、時代劇は際立って汚い人間や美しい人間に真実味を持たせやすい。欲の塊のような治済や犠牲心に満ちた青沼を現代劇に登場させたら、ウソっぽくなる。

 大奥総取締役の瀧山(古川雄大)が家定の前で決して立ち上がらないなど所作が重んじられているところもいい。江戸時代に格下の者が格上の人間の前で立つことはあり得ない。所作をないがしろにしないから、男女逆転であろうが、リアリティが生まれている。

◆③平手友梨奈の好演が光る『うちの弁護士は手がかかる』
(毎週金曜夜9時〜)

 回を追うごとに面白くなってきた。ドラマは小難しい作品や実験的作品ほど評価される傾向が昔から強く、TBS『半沢直樹』(2013年、2020年)ですら大きな賞には恵まれなかった。しかし、こういう軽い娯楽先もより認められるべきだ。

 弁護士事務所を舞台にしたコミカルなリーガルドラマであるものの、明確なテーマもある。それは「人は誰かによって支えられている」ということと「プライドを持って仕事に臨んでいる人の代わりはいない」である。

 主人公・蔵前勉(ムロツヨシ)は女優・笠原梨乃(吉瀬美智子)のマネージャーを30年に渡って務め、大物と呼ばれるまでに成長させたが、突然理由もなくクビになる。その際、梨乃はこう言った。

「あなたの仕事は誰がやっても変わらない」

 痛烈な言葉だ。深く傷ついた蔵前は駅のホームから電車に飛び込む素振りを見せたが、新人弁護士・天野杏(平手友梨奈)が落とした書類袋を拾ったので、「香澄法律事務所」に届ける。そこで所長の香澄今日子(戸田恵子)に見込まれ、天野のパラリーガルを務めることになる。

 当初の天野はとんでもなかった。書類袋を拾ってもらった蔵前に礼の1つも言わず、遺失物拾得者の権利を放棄する念書を不躾に書かせようとした。頭はいいが、社会性はゼロ。おまけにビックリするほど自分勝手だった。

 そんな天野だから、蔵前もパラリーガルになることを躊躇したが、心を動かされたのは香澄の言葉。「彼女、ダイヤモンドの原石かもよ。磨いてみない」。弁護士のマネージメントを託されたのである。

◆平手友梨奈の好演が光る

 この時点ではどう原石なのかピンと来なかったが、徐々に分かってきた。天野は正義感が図抜けている。非正規ドラマスタッフへのパワハラを止めさせようとテレビ局に乗り込むわ、練習中のボクシング部員のケガの責任を認めない大学側に食らいつくわ。

 そんな天野を蔵前は全力でサポート。天野は温かく穏やかな蔵前と過ごすことにより、自分も性格が柔らかくなってきた。

 ただし、2人は一度だけ大ゲンカ。天野が蔵前に対し「あなたの代わりはいくらでもいますから」と言ったからである。心にもないことだったが、これでは梨乃と一緒である。

 この件は天野が謝罪し、一件落着した。天野は梨乃とは違う。梨乃が戻って来て欲しいと頼もうが、蔵前は天野から離れないだろう。

 ベテランで芸達者のムロがうまいのは当然として、平手がいい。天野役を好演している。天才的で気が強いが、内面は繊細という難役である。女優に転じてからのベストプレイではないか。

<文/高堀冬彦>



【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞東京本社での文化社会部記者、専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」での記者、編集次長などを経て2019年に独立