華やかなイメージのあるアナウンサーという職業ですが、テレビに出演し人気を獲得できるのはほんの一握りだけ。特に厳しいのが放送局に所属していないフリーアナウンサー。テレビの仕事が少なく、イベントや結婚式のMCなどで生計を立てている人も珍しくありません。売れないフリーアナウンサーたちは、芸能事務所に所属していない人も多く、思いがけないトラブルにあったという話を良く聞きます。
神戸雅美さん(仮名・29歳)は、大学卒業後にとある地方局にアナウンサーとして採用されましたが、25歳の時に独立。フリーで働くようになりました。彼女が語ってくれたのは、現場の人間だけが知りうる残酷な現実でした。

◆独立して事務所に所属するも…

「民放キー局のアナウンサーとは違い、地方のテレビ局で働く女子アナは全く華やかではありません。取材現場に一人でカメラを担いで行くこともあるし、新人のうちは能力が仕事量についていかないのでほとんど休みがない。私は新卒から3年ほど働き、地方版のニュース番組でキャスターも担当していましたが、給料も安いし激務で未来が全く見えず……。そんな時に、東京の大学時代の後輩から誘いがあって、芸能事務所に所属できることになったんです」

売上も悪い地方局は、離職率が高い環境にあるそうです。神戸さんのように事務所に所属する道を選ぶ人が驚くほど多いようです。

「その後輩は、いきなり事務所に入ってフリーアナウンサーとして全国放送でも活躍していました。事務所が業務拡大するということで、全国的には知られていない私にもお声がかかったんです。ただ、地方局で学んだことは全く役に立たず、結局2年ほどすると事務所から仕事も来なくなって……。やむなく事務所を辞めて、個人事業主としてアナウンサー業を続けることにしたんです」

◆地元の人脈が活きて仕事に繋がるように

神戸さんがラッキーだったのは、地方局に勤務していた時に地元で人脈ができていたこと。県庁や市役所の職員をはじめ、県内を代表する企業や商工会のスタッフの連絡先もゲットしていたそうです。事務所を辞めてから局アナ時代に過ごした地方に出戻り、知り合いに仕事を斡旋してもらいながら人脈を広げたそうです。

「事務所を辞めた時にコロナも徐々に落ち着きはじめ、イベントなどが再開し始めたことはラッキーでした。田舎でもいろいろなイベントを行うようになり、その司会を任せてもらえたんです。端役ですが、ニュースにも出ていた時期があったので地元では多少の知名度もありますし、意外と仕事は順調に回っていました」

◆“打ち上げ”でセクハラ三昧の洗礼を受けることに

しかし、仕事が広がっていく中でセクハラに悩むこともしばしばあったとか。

「役所が管理する仕事の場合はいいのですが、商店街のイベントやお祭りなどは、自治会やそのエリアの権力者が仕切っている場合が多い。そういう仕事では、イベントが終わった後には、打ち上げと称した飲み会が絶対にあるんです。酒の席では下ネタやセクハラ発言も多く、彼氏はいるのか、からはじまり、下着を覗こうとする人やボディタッチをしてくる人も。マネージャーがいれば注意してもらえるのですが、個人で仕事していて立場が弱いこともあって受け入れるしか無かった。そういった境遇を知っていて、みな私を標的にしているのがミエミエなんです」

◆50代手前の男性に「愛人になれ」と言われ…

立場を利用したセクハラに悩まされていた神戸さんですが、生活費を稼ぐためにグッと我慢をして、コンパニオンのような仕事も受け入れていたそうです。ただ、中には我慢の限界に達することもあったそうです。

「信じられないのですが、金銭で肉体関係を要求してくる輩もいました。とある企業の忘年会の司会をした時、私にオファーをしてきたのは50代手前の専務でした。打ち上げは3次会までつきあわされ、最後は2人きりでスナックに行くことを要求。さすがに、2人きりはまずいと思い、スナックに入って1時間もしないで所用があるからと帰ろうとすると、ホテルに行こうと誘ってきたんです。やんわり断ると『こんな仕事してても未来は無いから、愛人になれ』と暴言を吐いてきた。さすがに我慢の限界でお店を飛び出して家に帰りましたが、情けなくて悔しくて、部屋でずっと泣いていましたね…」

そんな神戸さんに追い打ちをかけるかのように、そのセクハラ専務は嫌がらせをしてきたそうです。

「何件か入っていた企業関連の仕事で、そのセクハラ専務と仲の良い会社の案件がいきなりキャンセルになったんです。理由を聞いても教えてくれないし、もう司会を頼むこともできないとの話でした。その専務が嫌がらせをしたのは明らかで、“田舎ネットワーク”の怖さを身をもって思い知りました」

◆セクハラ専務の父に直訴した結果…

田舎のセクハラ親父たちに、ほとほと愛想が尽きていた神戸さん。もう、このエリアで仕事ができなくてもいいと、市役所の友人に思い切って相談したそうです。

「友人も協力してくれて、セクハラ専務の会社の社長さんに直訴できる機会が持てたんです。社長さんというのはセクハラ専務の父親で、一代で自分の会社を県内有数の起業にしたやり手。役所の人間と一緒に行ったのも効果的だったのか、社長さんは専務のセクハラの内容をしっかり聞いてくれて、処分はきちんとしますと約束してくれました」

背水の陣で勇気ある行動を起こした神戸さんでしたが、直訴を行った社長に気に入られ、現在も変わらず仕事が続けられているそうです。

「社長さんに直訴した数日後に会社に呼び出され、セクハラ専務から直々に謝罪を受けました。社長さんも頭を下げつつ、専務の役職を解く降格人事をしてくれたんです。その上で、その会社のイベントには、変わらずに司会として参加して欲しいと約束してくれた。その一件があったからか、他の現場でもセクハラ行為がグッと減ったようです。私が仕事しやすいように、どうやら社長さんが地元で啓蒙活動をしてくれたようなんです。雨降って地固まるではないですが、セクハラ専務に嫌な思いをさせられた分、楽しく仕事をすることができています」

田舎には、いまだに信じられないような男尊女卑文化がまかり通っていると神戸さんは話します。女性が仕事しやすい社会の到来は、まだまだ先のことなのかもしれません。

<TEXT/高橋マナブ>

―[令和のセクハラ事件簿]―



【高橋マナブ】
1979年生まれ。雑誌編集者→IT企業でニュースサイトの立ち上げ→民放テレビ局で番組制作と様々なエンタメ業界を渡り歩く。その後、フリーとなりエンタメ関連の記事執筆、映像編集など行っている