国家資格「宅地建物取引士」(通称:宅建)は不動産取引に関する専門家であることを示す資格。毎年約20万人が受験するものの、3〜5万人程度しか合格せず、合格率は15〜18%。難関試験ともいえるが、史上最年少で合格した少年が大阪市に住む水落孝心くん(10歳)だ。なぜ宅建の資格取得を目指したのか、また普段どんな生活をしているのか、本人と父である水落孝行さんに話を聞いた。
◆「法律」に興味を持ったきっかけは…

子供が興味を持つイメージの薄い「法律」を勉強しようと思ったきっかけを孝心くんは次のように話す。

「ちっちゃい頃に買ってもらった『こども六法』(弘文堂)って本を読んで法律が好きになりました」(孝心くん)

法律のどんなところに惹かれたのだろうか。

「民法というのは、すべての人を平等にするためのものなので、それを覚えたり考えるのが好きです」(孝心くん)

司法書士である父・孝行さんは、『こども六法』を書店で偶然に見かけ購入したというが、そこにはどんな思いがあったのか。

「職業柄、法律関連の本は目につくので気になって手に取ったんです。『こども』と『六法』という相反するものがくっついていることに興味を持ちました。法律関連の仕事に就かなくても、法律を知っていると大人になってから身を守れることもあるので、知っておくのはいいことだと思って」(孝行さん)

◆夏休みは「1日6時間」勉強した

法律関連の資格の中から宅建の受験を志したのは、孝行さんの勧めだったという。「宅建の試験科目には、多くの国家資格や公務員試験にも含まれている『民法』があるんです。そのため、将来的に他の資格や試験へのステップアップもしやすいと思って勧めました」

大人でも難関と言われる同資格に合格するため、平日には学校の後に2時間、夏休みは1日6時間もの勉強をした孝心くん。好きな法律の勉強は辛くなかったかと思いきや……。

「しんどかったです。でも、途中でやめたらここまで勉強して来たことがもったいないと思ったから頑張って続けました」(孝心くん)

やはり、好きなものでも長時間の勉強は大変。勉強時間とカリキュラムは孝行さんが決めたというが、嫌がることはなかったのか。

「不思議と嫌がらなかったんです。逆に、私が疲れている時でも『ほな、勉強部屋いこか』みたいな感じで誘ってくれました。本心はしんどいと思うんですが、休まなかったことに感心しています」(孝行さん)

◆「専門家の父」を負かす勢いだった

父の孝行さんは孝心くんの成長を目の当たりにしていた。

「最初はもちろん、私が教えていたんですが、最後の1〜2か月は私が孝心に教えてもらうこともたくさんありました。模擬試験も、8回受けたんですが後半は私の方が点数が低いことも多かったんです。そして、わからないところを『なんでこんな解答になんの?』と、私が息子に聞いていました」(孝行さん)

とてつもない吸収力で、専門家である父をも超え始めていた。これほどまでに頑張ることができるのは、彼の性格からきていると孝行さんは考えている。

「孝心は、生まれた時から本当に負けず嫌いでした。兄弟で何かをやるにしても絶対に負けたくないという思いがあるようです。もっと言えば、法律の専門職の私にも絶対に負けないという思いで臨んでいますね。とても頼もしいです」(孝行さん)

◆合格のご褒美は「阪神タイガースの年間チケット」

猛勉強の末、いよいよ受験。緊張もあったというが、結果は見事合格。その時の気持ちを振り返ってもらった。

「試験の帰り道、歩いて帰りながら答え合わせをしたんですが、お父さんと僕の解答がほとんど一緒だったので、受かったかなと思っていましたけど、実際に合格と分かった時はやっぱりホッとしましたね」(孝心くん)

数年前に夏の甲子園を見てから野球に興味を持ち、2021年から阪神タイガースの大ファンだという孝心くんは「好きな選手は大山(悠輔)選手です。一生懸命にプレーする姿が好きです」と話す。部屋には大山選手をはじめとした阪神グッズが飾られ、試験当日も阪神のユニフォームを着て臨んだという。そして、合格祝いにも最高のプレゼントを用意していた。

「阪神タイガースの年間チケットです。一番アツい甲子園のライトスタンドの席です。抽選だったんですが、運良く当選したので良かったです」(孝心くん)

孝行さんは、自身も法律の専門家である司法書士の仕事をしているが、どんな部分に仕事の魅力とやりがいを感じているのか。

「万人が善人なら法律はいらないと思うんです。でも、そうではないので、できるだけたくさんの人が暮らしやすい社会にするというのが法律です。ですので、それを知らない人に伝えていけるのが、この仕事の魅力かなと思います」(孝行さん)

◆将来は父と同じ司法書士に

宅建に合格後、同じく国家資格であるFP(ファイナンシャルプランナー)の資格試験への受験勉強をスタートさせた孝心くん。試験は取材日の前の週に終わっており、自己採点では合格の手応えだという。FPとは、収支や資産、家族構成などの情報提供を基に、住居・教育・老後など将来のライフプランニングに即した資金計画やアドバイスを行う職業で様々な法律に精通が必要だ。こうして見てみると、孝心くんは父の背中を追っているようにも見えるが、憧れているか聞いてみると……。

「憧れは……普通です(笑)。でも将来は司法書士になりたいと思っています」(孝心くん)

孝行さんは苦笑いではあったが、同じ職業を目指しているのは嬉しいことだろう。取材への返答もしっかりしていて、朗らか。

サボらずに目標に向かっていける孝心くん。どうやってその人格が形成されたのか。最後に教育方針を聞いてみた。

「勉強ばかり詰め込まないというのは心がけていますね。体が資本なので、お友達と外でたくさん遊んで欲しいと思っています。それから、礼儀としつけは他の家庭よりきっちり教えているかなと思います」(孝行さん)

今年は、勉強部屋と甲子園ライトスタンドを何度も往復することになりそうな孝心くん。改めて「好きになること」の強さと「継続は力なり」という言葉の意味を、彼から思い知らされた気がした。

<TEXT/Mr.tsubaking>



【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。