反響の大きかった2023年の記事を厳選、ジャンル別にトップ10を発表してきた。今回は該当ジャンルがなかったが実は大人気だった記事を紹介する!(集計期間は2023年1月〜10月まで。初公開2023年10月13日 記事は取材時の状況です) *  *  *

 現在、大きな社会問題となっている中高年のひきこもりでも特に多いのが40代。しかし、兄弟が実家でニート状態の場合、盆や正月であっても帰省するのをためらってしまう人は多いのではないだろうか。

 都内のIT企業で働く川野暁美さん(仮名・38歳)は、9歳と7歳の2児の母親。実家は新幹線で1時間半ほどの場所だが、「下の子が生まれてからは一度も帰省していません」と話す。

◆赤ん坊の我が子に怒鳴るひきこもり兄に絶句

「その理由は兄です。上の子がちょうど1歳になった頃、子供と2人で実家に戻ったんです。ただ、まだ赤ん坊だから泣くじゃないですか。そしたら兄が私たちが居る1階に降りてきて、『うるさい! 静かにしろ!』って怒鳴ったんです。本人はすぐ2階の自分の部屋に戻りましたが、それからは子供が泣くたびに床や壁を殴ったり蹴ったりするんです。そんなことをされたらますます泣き止まなくなりますよね。

 さすがに頭に来て兄に文句を言いに行こうとしたら『お願い、それだけはやめて』って。おかげで実家にいる間は泣き始めたら玄関先に出てあやしての繰り返し。父は昔から空気みたいな人で母や兄に何も言わないし、イライラするだけだから本当は5日間滞在するつもりでしたが予定を前倒しして3日で帰ってきました」

 ちなみに暁美さんは2人兄妹で、兄は現在43歳。大学卒業後は新卒採用で健康食品メーカーに就職したそうだが厳しい営業ノルマを課せられたうえ、日常的に上司からの罵詈雑言などのパワハラに苦しんでいて1年半で退社してしまう。

◆「今は休んでいるだけだから」と言い続けて18年…

 ただし、彼女は大学進学後は寮生活をしており、実家に戻ってひきこもっていた兄とは一緒に住んでいた時期はない。それでもたまに顔を出すと、兄は部屋に閉じこもってゲームやインターネットをしてばかり。そんな彼に毎月7万円の小遣いを渡す母親にも違和感しかなかった。

「昔から母が兄を溺愛しているのは薄々感じていましたが、ニートになってからもそれは変わりませんでした。むしろ、前よりひどくなった気がします。私がこのままひきこもり続けると取り返しがつかなくなると訴えても、『今は休んでいるだけだから』と言い続けて18年経っているんです」

◆ひきこもり支援のNPOや自治体への相談を提案するも…

 何度かアルバイトを始めたことはあったがどれもすぐに辞めてしまい、働いていた期間を全部合わせても3年に満たない。それも最後にアルバイトしたのは10年近く前の話で、それからは引きこもっているだけだ。

「最後に会った8年前の時点で、スリムだった身体も100キロ前後の肥満体型になり、髪もボサボサで髭も伸び放題。正直怖かったですし、子供を兄に近づけさせたくないと思い、実家に帰るのをやめたんです」

 両親に自分たちの孫である子供を会わせるのを拒んだわけではないため、彼女の家に来る分には問題なかったが母親は「お兄ちゃんが心配だから……」と泊まらずに毎回日帰り。ひきこもり支援を行うNPOや自治体の専門窓口に相談してみることを何度も勧めたが頑なに拒否したという。

◆「両親が亡くなった後」を託される…

「兄は買い物や食事で外に出ることはあるようですが、ひきこもってからは身内の冠婚葬祭には一度も出ていません。最初はいろんな親戚から兄のことを聞かれましたが、両親も私はそのたびに話を濁していたので今では誰も兄については触れてきません。ひきこもってることはみんな知ってるみたいですけど」

 母親に言っても兄に関することは何ひとつ聞き入れてくれず、「2人きりの兄妹でも今後は積極的に関わるつもりはありません。私はすでに夫の家に嫁いだ身ですから」とはっきりもの申した暁美さん。だが、そんな気持ちを知ってか知らずか母親は彼女に“とんでもないお願い”をしてきたそうだ。

「『私とお父さんにもしものことがあったら……』と亡くなった後、兄の面倒を見るように頼まれました。でも、申し訳ないけど、それはできないってハッキリと断ったんです。すると、普段怒ることのない母が『それでも家族なの!』って声を荒げ、私を責めましたが考えを変えるつもりはありませんでした。こんな言い方もアレですが、せめて普通のひきこもりだったらこうは思わなかったはずです。実家に行っても挨拶することもなければ、赤ん坊だった息子にあんな態度を取った人間の世話をする気にはとてもじゃないですがなれません」

◆相続放棄しても兄と関わりたくはない

 父親に母親の件を相談しようとも「それは母さんに直接言ってくれ」となしのつぶて。こんな両親にも嫌気が差し、本気で縁を切りたいと考えるようになった。

「その後も母は諦めきれないのか電話で何度も同じ話をしてきました。だから、ある時夫から『社会復帰を望んでいるならできる範囲でお手伝いしますが、生活の面倒を見ることはできません』と伝えました。その際、死んでも遺産は渡さないと言われましたが、相続放棄の意志があることも伝えました。これも夫と話し合ってきめたことですが、最悪実家という住む場所さえあればなんとかなりますから。薄情者と思われても構いません。冷たいようですがそこから先は兄自身の問題です」

「8050問題」にも代表されるようにひきこもりが長期に及んでいる以上、彼らとそれを支える両親の高齢化は避けられない。もしかすると親の介護よりも厄介な問題なのかもしれない。

<TEXT/トシタカマサ>



【トシタカマサ】
ビジネスや旅行、サブカルなど幅広いジャンルを扱うフリーライター。リサーチャーとしても活動しており、大好物は一般男女のスカッと話やトンデモエピソード。4年前から東京と地方の二拠点生活を満喫中。