◆読者のライフイベントに常に寄り添う媒体に
昨今、メディアの在り方が大きく様変わりしつつある。
デジタルコンテンツがメディアの主流となり、オールドメディアとの連動はもちろん、広告収益型からサブスクリプション型に移行する媒体も増え始めた。
多くのメディアが生き残りをかけてしのぎを削るなか、ひときわ躍進しているのが「みんかぶマガジン」だ。2022年5月の創刊から約2年で累計プレミアム会員数約2万人と順調に拡大を続けている。
同媒体の鈴木聖也編集長に、これまでの軌跡とメディア運営の秘訣を聞いた。
――みんかぶマガジンとはどのようなメディアなのでしょうか? 編集方針、目指している姿について教えてください。
みんかぶマガジンは、金融情報サイト「みんかぶ」の有料プレミアムサービスの中の一コンテンツです。
多くの記事は、有料会員にならなければ読めません。編集方針は特に大きく設けていませんが、あくまでも読者が「お金を払ってでも読みたい記事」を出すことを第一にしています。みんかぶマガジンでは株・投資・資産形成の記事は全体の4割程度に抑え、残りの記事はお金の使い先に関する記事を出しています。
なぜ読者が投資に興味あるかといえば、何かにお金が必要だからですよね。息子の中学受験のために塾代300万円が必要だ、家を買うために頭金を1000万円用意したい、老後のために2000万円貯めておきたい、婚活のため、推しに全力だから金が必要などなど……それらは、基本的にライフイベントとなぞられるものです。
みんかぶでは、お金の使い道と資産形成の仕方の両方を記事として提供しています。さらに、転職→婚活(結婚)→不動産購入→子供の受験→老後というようにライフイベントごとに特集をつくることによって、読者に長くプレミアムサービスを利用してもらえるような姿を目指しています。
――以前は雑誌『プレジデント』の編集部におられましたよね。ウェブメディアであるみんかぶマガジンの編集長を任されたときに、志したことは何でしょうか?
みんかぶマガジンを任された際、あまりルールや編集方針は決めずに、とにかくどうやったら会員数が増えるのか、持続可能な事業にするのかということを考えていました。
「ジャーナリストを支援したい」「良質な調査報道を掲載したい」などと、大きな目標をたてたところで事業が成立しなければ、周りの人を不幸にするだけだと思っていたので、まずは安定してメディアを回せるようにしようと。
その上で、いつかはウェブ上の「文藝春秋」のような媒体にしたいとは思い浮かべていました。その媒体に寄稿したり、インタビューされたりすること自体が、作家らにとって誉であるような存在になってほしいな、と。
◆伸び悩むPVを救ったのは「米中危機」
――登録者数が伸び始める少し前の時期に心がけていたことはなんでしょうか?
無料メディアの場合は、乱立によりPVの上げ方のノウハウはもはや研究しつくされているようにも思います。一方で有料メディアの場合はまだ成功事例が少なく、手探りでやる必要がありました。つまりトライアンドエラーを続けることです。最初のほうは記事を出してもほぼ無風で、数字を見るのが心底辛かったです。
一時期は、成功しているサイトをそのまま模倣しようとも思っていました。しかし、それをやってもなかなか数字に繋がらなかった。
そんな中、2022年8月に米国のナンシー・ペロシ米下院議長が台湾に電撃訪問した際、政治アナリストの識者に、最悪の結果として米中摩擦激化による戦争、戦争に日本が巻き込まれる可能性などを解説してもらって記事が初めて”跳ね”ました。自分の身に危険が迫っているからこそ、読者としてはそれが会員になるインセンティブになったのかなぁと思いましたが、そういった形で何か数字に動きがあれば分析し、深堀していく、ということを続けました。
――数を打ち続けてPDCAを回すことが奏功したと言えるのでしょうか。
通常のPDCAとは違い、「無駄な記事」を作らず、一つの記事のアベレージを上げていくことを心がけていました。つまり、ダメだった記事の改善にコストをかけるよりも、PVの良かった記事をさらに発展させていく。これがWEBメディアの場合は大事であることに気づきました。
――読者はみんかぶマガジンにどんなことを求めていると思われますか?
みんかぶマガジンは色々な見え方がされていると思います。中学受験特集で入会した人もいれば、投資の記事で入会した人もいますし、羽生結弦さんといった”推し”の記事を読みたくて入会した人もいるでしょう。そんな中で、大切なのは今お金を払っている人に対して裏切らないということだと思っています。
吉田豪さんの短期集中連載「私が愛した松本人志」をきっかけにみんかぶを購読してくれた読者も、たくさんいらっしゃいます。彼らの期待を裏切らないためにも、彼らが読みたいと思えるような記事を継続して出していきたいと思いっています。
一方で、人は生きるためにはお金が必要なので、ぜひお金に関するコラムも読んでいいただきたいですし、会員になったら使える資産管理ツール「アセプラ」も利用していただいて、みなさんのお悩みや推しのために仕えるお金を増やしてもらいたいです。
いずれにせよ、みんかぶマガジンとしてこだわっているのは本物の声です。投資に関する記事ではとにかく第一線で活動する投資家さんの声を重要視しています。経済アナリストよりも投資家の感覚や哲学、自分なりのルールなどを記事にしています。中学受験の記事でも、中学受験した子どものお父さんの記事は大変読まれます。そういった本物の声をこれからも大切にしていきたいです。
◆総理大臣から西成の労働者までが肩を並べて登場するメディアになりたい
――みんかぶマガジンは金融に捉われず、芸能から夜の街の事情まで幅広いジャンルの記事を取り扱っていますね。記事のテイストとして、今後どこまで攻めていく予定でしょうか?
実は、そんなに攻めているつもりもないんです。あくまでも、読者は「この識者」の「こういう企画」だったらお金を払ってでも読みたいのではないかという仮説のもと動いているため、世間をビビらせてやろうというような攻撃的思考のもとやっているわけではありません。そういう意味では、誰でも取材対象者にはなります。大阪の西成や公園などで一生懸命生きている方と、いわば総理大臣のようなアッパー層を同列に扱うようなメディアになりたいです。
――鈴木さん自身が普段、編集長として行っている自己研鑽について教えてください。
ヤフーニュースのランキングやX(旧ツイッター)のトレンドなど、今の時流をリアルタイム教えてくれるものは、とにかく毎日数時間置きにチェックするようにしています。また注目されている本は読むようにしていますし、流行りの映画やドラマも見て音楽もききますし、街をあてどもなくフラフラ歩くようにもしています。ほとんど趣味ではありますが、そのインプットの繰り返しが、読者のみなさまから”奇抜”と呼ばれる企画の源泉かなぁとは思います。
前述のとおり、編集方針は特に設けていません。また編集会議も行っておりません。編集部員との日々の会話の中で、企画はバンバン決めていきます。現場から提案された段階では微妙でも、これまでに培った課金してもらうノウハウをもとに、どうやったら企画として成立するのかをその場で一緒に考えて方向性だけ決め、あとは現場に任せます。
◆読者がなぜ課金したのかというストーリーを想定する
――フットワークの軽さが、刺さるコンテンツを生み出している要因なのかもしれませんね。ところで、有料記事と無料記事のつくり方に違いはありますか?
有料記事の作り方は、オンラインの無料記事とも、新聞記事とも、雑誌記事とも違うと思っており、新たなフォーマットがあると考えています。新聞なら、最初に大切なことをもってくる逆三角形型、無料ウェブ記事ならページネーションで「次へ」をクリックさせ続けさせるために大切なことを最後にもってきます。
有料記事はペイウォールを意識して、前半と後半で記事のテンションを変える必要があります。そこらへんの考え方や、読者がどうやってその記事にたどり着き、なぜ課金することになるのかというストーリーを現場と共有した上ですすめています。
――今後、課金制サブスクメディアはどうなっていくと思われますでしょうか? そのなかで、みんかぶはどんな立ち位置にいたいでしょうか。
紙のメディアが厳しい状況にあるのはいわずもがなですが、無料ウェブメディアも数年前の絶好調の時期からかなり陰りが見えています。無料メディアを支えてきたアドネットワークの広告単価は下落しており、かつての収益力はなくなっています。ネットワーク広告の単価については今後も下がりそうです。
そんな中でサブスクに切り替えるメディアは今後も増えるだろうと思っています。新規参入者が増えてくる中、われわれは読者との信頼関係を築けているメディアでありたいとは思います。
【鈴木聖也】
みんかぶ編集長。1988年前橋市生まれ、慶應義塾大学法学部卒。共同通信社記者、プレジデント社編集者・デスクなどを経て、2022年より現職。2019年雑誌ジャーナリズム大賞デジタル賞受賞。
<構成/安羅英玉(本誌)>
2年で有料会員2万人の「みんかぶマガジン」編集長が語る快進撃の秘訣「読者の人生に伴走するメディアであること」
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