4月、新入社員が今年もやってきました。そこで「すぐ辞めた新入社員」の記事の中から、反響の大きかったトップ10を発表。第6位の記事はこちら!(初公開2021年4月12日 集計期間は2018年4月〜2023年12月まで 記事は取材時の状況) *  *  *

 4月を迎え、今年も新入社員や中途社員が入ってきたはずだが、職場環境や人間関係によって、今後の社会人生活が有意義なものになるのか、彼・彼女らにとっては非常に気になるところでもあるだろう。そこで「自分とは合わない」と感じてしまうこともある。今回は入社後、すぐに退職してしまった新入社員のエピソードを紹介する。

◆入社3か月で揃って辞めた同期4人

 とある人材派遣会社に採用され、人材コーディネーターとして働いていた湊洋輔さん(仮名・20代)。新しい支店の立ち上げメンバーとして、同期4人が配属された。当初はやる気に満ち溢れていたが、約1か月が経った頃、「ブラック企業なのではないか」と疑い始めたという。

「僕たちの仕事内容は、派遣として働く人たちを募集して面接をし、派遣先に案内をする業務のはずでした。ある日、別の支店へヘルプに行ってくれと急に言われたんです。電車で1時間半以上かかる支店へ毎日電車で通いました」

 支店での業務は、以前応募してきたが、その後連絡が滞っていた人たちに“掘り起し”の電話をかけることだったそう。

 ひたすら電話をかけ続けヘトヘトの毎日だったと湊さんは振り返る。ヘルプ業務は1か月程で終了したが、元の職場に戻ってからも試練は続いた。

「ようやく元の支店に戻ることができ、通常業務をこなしていました」

 しかし、湊さんが勤務する派遣会社には少し変わった派遣希望者が多いようで……。いったい、どんな人たちなのか?

◆支店長のデスク前で退職記念写真

「カップルで面接に来て『一緒に働けなきゃ無理ですー』とか、『趣味は?』と尋ねると『コンパっす!』と答える人などがいました。それでも派遣先を紹介することが仕事なので断ることができません」

 このような発言をする人たちの仕事への態度はお察しのとおりだった。根気が感じられず、挙げ句の果てにバックれてしまうことがあるという。そして、湊さんを退職へと追い込んだ、ある事件が勃発する。

「とある携帯会社のお仕事で、真冬の寒い中、海に近いショップで看板を持って立っているという仕事でした。数名の派遣を予定していたのですが、派遣日1週間前に全員と連絡がつかなくなってしまったんです」

 困り果ててしまったが、支店長からは「1週間で派遣できる人材を集められなければ、湊さん含め同期4人で働いて来い」と告げられた。湊さんたちは断った。だが、聞き入れてもらえず、「それなら辞めます」と言っても受け入れてもらえなかった。

「1週間が経ち、そのときは同期4人とも辞める覚悟ができていました。みんなで話し合い、支店長のデスクに名札・保険証・書類等を4人分綺麗に並べ、記念写真を撮り、4人笑顔で会社を後にしました。なぜだか、清々しい気分でした」

 こうして、湊さんたち同期4人は、3か月という短い人材コーディネーターとしての仕事に幕をおろした。

◆「前職の経験を活かしたい」気持ちはわからなくもないが…

介護 山本文乃さん(仮名・30代)が勤めていた高齢者施設では、当時、夜勤のみ勤務可能な人を募集していた。山本さんが、そこに応募してきた男性Tさんについて話す。

「ラフな服装で面接に来る人が多いなか、Tさんはきちんとスーツを着ており、話し方も礼儀正しくて好印象でした。介護に関しては未経験で資格はありませんでしたが『人の役に立つ仕事がしたい』という志望動機で採用はすぐに決まりました」

 夜勤の仕事は主に見守り(※高齢者のそばにいて、いつでも援助ができる状態でいること)で、朝食の準備や翌日の昼食の下準備などが業務内容だという。

「朝食は日勤の食事担当の方が作ったものを、夜勤者が利用者の食事形態に合わせて提供することになっています。高齢者なので、例えば、一口大、刻み食、ミキサー食など決められた献立がそれぞれの方にあり、希望に沿って作るような感じでした」

 初めはTさんも決められた通りに作っていた。しかし、前職が料理人だったTさん。次第にそのプライドが現れるように……。

◆元料理人のプライドが暴走

「介護食は、柔らかく食材も小さくしなければなりません。しかし徐々に見かけと味重視になっていったのです。野菜の切り方も花びらの形になり、『安い調味料だと味が落ちるから』と、勝手に調味料を持参してきたのには驚きました。規則で使用できないことになっているにも関わらず、ですよ」

 料理人としての熱は上がる一方だったようで、フルーツも“見栄え”よく切れるようにフルーツ専用包丁を持参したり、料理も“出来立て”を最優先にしたかったのか、蒸気が出ているような熱々の状態で提供したり……とにかく自分が作った料理を「これで良し」と満足できるまでこだわっていたようだ。

「この状況は、さすがに良くないので施設長が直接指導したのですが『こんな劣悪な環境の施設、公表してやる』と激高し、1か月も経たずに退職となりました」

 そんなに料理が好きなら料亭で働けばいいのに……と内心では思っていた山本さん。

 職場にはそれぞれルールがある。「より良くしたい」と思う気持ちは間違っていないが、その仕事の“本来の目的”を見失ってはいけない。Tさんが料理人として活躍していることを願うばかりだ。

<取材・文/chimi86>



【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。