3G回線を使用している携帯電話、いわゆるガラケーの命も残り少ないものとなってきました。それでもなお、いまだに使用しているシーンを時折見かけます。皆それぞれの理由があるのでしょう。今回話を聞いたのは、ガラケーに初めて触れた新入社員のエピソードです。
◆名前だけは知っていたガラケー

 内山健太さん(仮名・24歳)は昨年、法学部を卒業し、都内の司法書士法人に就職しました。入社してしばらくの間は、先輩に帯同して顧客を訪問することが主な仕事でした。

「先日、先輩から『一応これ持っておいて』と、ガラケーを手渡されました。もちろん法人名義のものです。ネットや動画ではその存在を知っていたのですが、実際に手に持つのは初めてでした。私が入った司法書士法人では、いまだにガラケーが社用端末のようです」

 ガラケーを使い続ける理由にはいろいろあるそうですが、この司法書士法人の代表が、以前コンサルタントから「OS依存ではない3G回線の方が情報漏えい防止にも効果的」というアドバイスを受け、それがきっかけで長年、社用携帯として君臨しているそうです。

◆訪問先で起きた緊急事態

 その日も先輩に同行して顧客先を訪問していた内山さんですが、2か所目へ移動する際に登記関係の別案件で緊急事態が発生しました。本来ならば、専任担当者が対応するのですが、夕方までに書類を作成する必要があったため、上長の判断で先輩が急きょ向かうことになりました。

「先輩は、かなり焦っている様子で、2カ所目の訪問を私に託し、別れ際に『2か所目の業務が完了したら、この前渡した携帯電話で事務所までメールを送って』とだけ言って、慌てて緊急案件先まで社用車で向かいました」

 2カ所目の訪問先では、先輩から預かった書類を渡すだけだったので、問題なく業務を完了することができました。

◆ガラケーでメールが打てない

 内山さんは、先輩の言う通りに業務完了のメールを送るため、カバンに忍ばせておいたガラケーを取り出しました。しかし――。

「携帯の使い方が全く分かりませんでした。かなり年季の入った端末だったので、ボタンの文字もところどころ見えにくくなっていて……。ようやく手当たり次第にボタンを押していると電源が入ったんです。起動にこれだけ苦労したので、メールの打ち込みなんて気が遠くなるような気がしました」

 訪問先の近所にある公園のベンチでガラケーと格闘。1時間経過しても無理だったので、自分のスマホで連絡しようとしたのですが、なんとバッテリー切れ。

「先輩には『携帯電話で連絡して』と言われていたので、起動しないスマホは諦めて、再び公園のベンチでガラケーを触り始めたんです」

◆終電時刻も迫る大騒動に発展

上司 部下 依然としてメールを送ることができない内山さん。生真面目な性格からか、とにかく指示通りガラケーから完了報告を送ることだけで頭はいっぱいだったそうです。一方、緊急案件を片付けて帰社した先輩は、まだ完了メールが届いていないことに驚き、スマホに連絡を入れますが全くつながりません。

「公園に何時間いたでしょうか。心のどこかで『ここから歩いて帰ったら何時間かかるかな』なんて思いながらガラケーを眺めていたら、公園の前に1台の車が停車し、中から先輩が出てきました。先輩は『おまえ何やってるんだ。ガラケーの使い方が分からなかったらスマホでも公衆電話でもいいから、まずは一報入れろよ』と怒り口調。注意されたのですが、それよりも、僕が延々とガラケーと格闘していたことに驚きを隠せないようでした」

 先輩は、ひとまず事務所に無事確保の連絡を入れ、少しあきれた様子で内山さんを乗せて事務所に向かいました。今回のことを受けて、先輩の提案もあり、社用の携帯電話は全てスマートフォンに置き換えることになったそうです。

<TEXT/ベルクちゃん>

―[とんでも新入社員録]―



【ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営