こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。
雨で靴が濡れるほど気持ちの悪いものはありません。今日は降雨量のレベル別に足の中を守る防水靴・防水対策についてご紹介します。

◆レベル1 街履きでふつうの雨レベル

雨がしとしとという程度であれば、完全防水の特殊な靴でなくても、防水スプレーで十分ガードできます。「完全防水靴」にありがちな、「中からの蒸れ」も一切ありません。靴売り場に売っている「アメダス」は、スプレーした際の霧が濃くておすすめ。前日と翌朝の「二度掛け」で、効力はさらに高まります。とくにスエードなどの起毛素材の靴だと雨をバチバチにはじくので、おすすめです。

例えばスニーカーであれば、アディダス「サンバ」と、いきたいところですが、世界的な流行で入手困難のため、ド定番の「ガゼル(ガッツレーはドイツ語読み・モノは同じ)」がお勧め。リーズナブルで比較的入手もしやすく、大人が履いてもサマになります。表面が天然革のきめ細かいスエードで、防水スプレーをかけるとへたな防水靴より雨をはじきます。

これはなぜかというと、スエードの表面積はスムースレザー(つるつるした革)の数十倍あるので、フッ素がとりつきやすいからです。オールシーズン使えて、クラシックなデザイン、無駄を省いたシルエットなので、ジャケットスタイルから短パンまで幅広く合わせやすいので、コスパは抜群といっていいでしょう。

防水スプレーが面倒、仕事上長く歩くという方は、パトリックの名作「マラレイン」がお勧め。そもそも1970年代のマラソン用に開発されたスニーカーなので、歩きやすさはお墨付き。ベーシックなモデルはナイロンメッシュですが、こちらはなめしの段階で防水処理を施した牛革を使用しています。どう見ても「スニーカー」ですが、スーツやジャケットスタイルに合わせると、途端に革靴に見えてくるから不思議なものです。紐にまで防水処理が施されているので、防水スプレーをかける手間も要りません。お手入れも汚れを水拭きするだけでよく、色が抜けたら黒の靴クリームで補色すればOK。表面の革と裏地の布の中に何も入っていないので、意外と蒸れません。

◆レベル2 街履きでハードな雨なら

梅雨の土砂降り、ゲリラ豪雨、台風レベルの降雨であれば、街履きでも完全防水のゴアテックス製品を履きましょう。このレベルだと「生活防水」では追いつきません。朝から濡れてしまった靴で一日を過ごすのは拷問です。

個人的一推しはニューバランス「2002R GTX J」。ニューバランスのショップに行くと、必ずノーマルの「2002R」と並べられていますが、外から見ても違いがわかりません。それもそのはずで、ノーマルモデルの表と裏の素材の中に完全防水のゴアテックスの生地を入れただけの超優秀モデルなのです。

案外知られていませんが、真夏のゴアテックス製品は蒸れます。とくにこれからの季節は、せっかく外からの雨を防いでも中が汗でびっしょりと濡れてしまっては意味がありません。ゴアテックス商品の表示を見ると、「中からの蒸れは逃す」みたいな表現が目立ちますが、日本の夏はもはや熱帯。夏は蒸れるので、少しでもメッシュ素材を採用している靴がベターです。そうなると途端に「横チャック」のシニアモデルになってしまうので、あえてNBの高級路線に投資することをおすすめします。コーディネートもサマになりやすく、「実はゴアテックス」という所有感も満たされます。冬は風も冷気もシャットアウトするので、長い目で見ても本当にコスパのいいモデルです。

ゴアテックス製品を選ぶとき、サイズには注意が必要です。基本的には普段のサイズよりハーフサイズアップが無難です。なぜかというと、ゴアテックスはまったく伸びないからです。メッシュや革なら履きこむと馴染みますが、ゴアテックス製品は「買った時」と「3年後」のサイズがまったくと言っていいほど変わりません。可能なら試し履き、ネット購入ならハーフサイズアップしましょう。

ビジネスシーンで革靴しか履けないという場合は、テクシーリュクス(アシックス商事)の出番です。この見た目で、完全防水。定価も1万7000円前後とゴアテックス製品の中では安価。しかし繰り返しますがこれからの季節は、蒸れが避けられません。そこで裏技をご紹介します。コロンブス社のヌメ革インソールと組み合わせます。左右入って1650円とお値段も安い。

かなり薄い製品なのでサイズ感もきつくなったりしません。これがあるのとないのとでは大違い。やや大げさですが紙オムツ並みに水分を吸います。タンニンという超絶に殺菌力のある茶渋を革に使用しているので、匂わないだけではなく、靴の中でたっぷり汗をかいても、一日終わって「ちょっと湿ってるかな」程度に強力。私もゴアテックス製品には自作のヌメ革インソールを入れていますが、3年ほどフルに使用して効果はまったく減っていません。

◆レベル3 完全カジュアル、アウトドアシーン

夏です。キャンプです。バーベキューです。いつも黒や茶色の靴を履いてるなら、いっそ派手にいきましょう。サロモン「スピードクロス6・ゴアテックス」なら実用的でやんちゃ感も皆無。

デザイナーのラルフローレン氏や川久保玲氏がプライベートで好んで履いているのがこちら。アウトドア用とはいってもファッションとしても世界的に流行しています。ぬかるみやオフロードを想定しているので底の返りはやや硬いですが、だからこそケガをしづらい。軽い登山でも問題ありません。靴紐を都度ほどいたり結ばなくても、ループに通ったコードで簡単にアジャストもできるのは便利です。世の中の靴は全部こうなればいいのにと、ひそかに思ってしまいます。アウトドアでは寒暖差も激しく、濡れたままの足では夜めちゃくちゃ寒いこともあるでしょう。これなら中に水も油も入ってきません。

土砂降りの雨の中でゴム長も悪くはないのですが、いかんせん動きづらく、歩きにくい。フットワークを軽くするならスニーカーが無敵です。なかでも防水加工の靴は技術レベルが高い工場でしか製造できないので、総じて長持ちします。雨用に、と使い古した靴を履くのはやめましょう。底も減っているので滑るなど危険でいいことがありません。快適さとおしゃれは、両立します。じめっとしたシーズンも快適な足元で軽く乗り越えましょう。



【シューフィッターこまつ】
こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。HPは「全国どこでもシューフィッターこまつ」 靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ」