子どもが保育園を卒園し、小学校に上がるのを機に今までの生活がガラリと変わり、親たちはさまざまな対応に迫られる。そんな中で、仕事と育児の両立が困難になることを「小1の壁」と呼ぶ。
 小1の壁は、ある程度は事前に予測できるが、想定外の「まさか」の事態も多々起きる。昨年度、無事に小1の壁を乗り越えた筆者(新田ミキ)のケースを紹介する。

◆ケース①勤務時間と小学校・学童の時間が合わない

 今までは自分の仕事の時間に子どもを合わせていたが、小学生になるとそうもいかない。朝、子どもの登校時間によっては、親が先に家を出なければならないのである。

 もちろん、子どもを置いて家を出るわけにはいかないため、出勤時間や勤務時間を調整する必要も出てくる。実際に小1の子を持つママ友は、子どもよりも早く家を出ないと始業時間に間に合わない状況であったため「子どもの登校時間に合わせて勤務時間を変更した」と言う。

 地域によっても異なるが、放課後児童クラブ(以下、学童)を利用できる時間は保育園よりも短いケースも少なくない。

 例えば、わが子が通う学童は18時閉館。今はフリーランスになったので問題ないが、以前の会社に勤め続けていたら、お迎えは完全に間に合わなかった。

 この問題は、会社の就業規則などで決められた勤務時間によるものなので、夫婦で協力しても対応できないことも多いだろう。近所に両親がいる場合は、お迎えをお願いしたり、夫婦どちらかがパートや6時間勤務となる“短時間勤務”に変更したりするなどの調整が不可欠だ。

 ただし“時短勤務”は注意が必要だ。法律で定められた「短時間勤務制度」は子どもが3歳未満までとされており、それ以上の年齢を対象にするかどうかは、企業によって異なる。2023年の厚生労働省のデータ(「仕事と育児・介護の両立支援対策の充実に関する参考資料集」)によると「短時間勤務制度」を導入している会社の約70%は、小学校就学前までを対象としている。つまり小学校に入学したら「フルタイム勤務に戻らないといけない会社が多い」ということだ。

 また短時間勤務は就業時間が減るため、必然的に収入も減る。時間の調整が必要とはいえ、物価高の昨今においては家計的にも悩ましい。

 さらに夏休みや冬休みなどの長期休みに学童を利用する場合は、開館時間が変わることもあるので注意が必要だ。わが子が通う学童は8時開館であり、会社勤めの親にとっては、なかなか微妙な時間である。長期休み中の朝の学童は、バタバタする親子で溢れかえっている。

◆ケース②長期休み前後の半日帰宅

「連休前後の数日間は盲点だった」

 私だけでなく、周囲にもそう言う親は少なくない。夏休みや春休みなどの長期休みの前後は、子どもが給食の前に帰ってくる「午前帰宅」が数日間ある。

 これも①同様に両親が近くに住んでいる場合は協力してもらったり、半日勤務やリモートワークなどにして、自分の働き方を調整したりする必要があるのだ。

 学童は長期休みがある月だけ申し込めるケースもあるが、地域によっては学童の定員オーバーで受け入れてもらえないことも……。長期休みだけでも学童の利用を検討している人は、いまのうちに確認しておくと安心だ。

◆ケース③緊急時の対応

 想定外の小1の壁には、急なアクシデント・トラブルへの対応も含まれる。

 わが子が通う学校でとくに多かったのが「学級閉鎖」。インフルエンザやコロナウイルスなどの感染症の風邪が流行し、一定期間登校を控える措置のことだ。学校から連絡があった翌日から数日間休みになるケースが多く、加えて学童の利用もNG。すぐに仕事の調整をしなければならなかった。

 そのほか、不審者情報や事故、自然災害の影響による早期のお迎えや付き添いの要請など、突発的な連絡もあるのだ。

◆ケース④環境変化に戸惑う子どものケア

 環境の変化に戸惑うのは親も子どもも同じ。わが子の場合は、保育園時代は積極的で天真爛漫、登園しぶりもなくスムーズだったが、小学生になると、毎朝涙を流しながら家を出るようになった。この状態は秋ごろまで続いた。

 しかしこの変化について、担任の先生は「入学後の子どもの反応としては珍しくない」という。友だちの有無も関係ないようだ。

 新しい環境、友達、生活リズム。さまざまなことが重なる中で、子どもなりに対応する力が求められるわけだが、親のサポートは必須だ。

 親が思う以上に子どもは大きな影響を受けてストレスを感じているため、寄り添える時間と心の余裕を持てるかが試される。

◆ケース⑤PTAや保護者会など親のイベントは基本平日

PTA役員 ここ数年はコロナウイルスの影響もあり中止されていた保護者の集まりも、昨年度あたりから復活してきた。

 現在6年生の子どもがいるママは「PTAやイベントの準備はほぼ平日の夜だった」という。これに参加するため、仕事を早退したり、夕食がつくれなかったり……。どちらかの親が対応できなければ、子どもだけを家に残して出かけることもできず、やむを得ず欠席することも。任されている業務があるときは、別の人に頼んだり、別日にやったりしていたそうだ。

 役員ともなればさらに活動が増え、集まりのほか資料作りのような事務的な作業も地味に負担になる。とはいえ、共働きの時代、どの家庭も夫婦そろって働いているため、自分たちだけ「時間がない」と言って断るわけにもいかない。

 多くの親が「保育園よりも小学校のほうが、周囲の協力や仕事の調整が必要」と口を揃える。

 小1の壁への対応は、情報収集と事前準備が大切だ。筆者は、入学予定の小学校に通う子どもがいるママやパパから話を聞いたり、職場に勤務形態の変更ができるかどうかを確認したりしていた。

 結果的に家庭と会社の双方の事情を踏まえ、対応が難しいと判断し退職。フリーランスとして家で働く手段を選んだため、難なく対応できた。

 小1の壁を厚く感じるかどうかは、子どもの性格や会社の対応、家庭環境による。問題なく乗り越えられた人もいるだろうが、それはあくまでも結果論。小学校への進学により、生活が変化することは明らかである。

 来年、子どもが小学校に上がるという人は、今のうちから情報収集をして対応できるかどうかを夫婦で話し合っておくとよいだろう。

<文/新田ミキ>



【新田ミキ】
フリーライター。1987年、埼玉県生まれ。山梨在住2児の母。子どもが小学生に上がるタイミングで正社員からフリーランスに転身。X(旧Twitter:@mikifreeeee)ではフリーランスママのありのままを発信中。2023年に“小1の壁”をテーマにした電子書籍『小1の壁×在宅ワーク』を出版。