―[モラハラ夫の反省文]―

 DV・モラハラ加害者が、愛と配慮のある関係を作る力を身につけるための学びのコミュニティ「GADHA」を主宰しているえいなかと申します。コミュニティではさまざまな悩みが共有されるのですが、共通するものがたくさんあります。
◆パートナーが疲れていそうだったので、休ませたら迷惑そうにされた

「パートナーが疲れていそうだったので、『自分が子どもを見ているから、たまには外で気晴らしをしてきたら?』と外出を勧めたんです。でも、せっかく自由時間をプレゼントしてあげたのに、パートナーは何だか浮かない顔で早々に帰ってきて……。少しはリフレッシュしてまた頑張ってくれるかと思っていたのに、ちっともそうじゃなかったんです。疲れてイライラして帰ってくるだけなら、自分の頑張りや気遣いは一体何だったのか」(Cさん)

 今回はこのセリフの背景に迫りたいと思います。

 Cさんは子育て世代。パートナーと共に2人のお子さん(未就学児)の育児と仕事に奮闘中です。そんな折、パートナーとの関係危機をきっかけにGADHAに参加しました。

 GADHAに参加してみて、自分がパートナーに対していかに加害的だった(ケアをしてこなかった)のかに気づいたCさん。

 早速パートナーのケアをしようと、自分の仕事の休みの日に、自分から子守りを申し出たそうです。しかし、その結果は冒頭のとおり、残念なものとなってしまいました。

 僕は、Cさんにその時のパートナーの様子を聞いてみました。

「確かに、今、思い返してみれば、自分の申し出に対して、それほど嬉しそうな様子ではなかったような気がします……。せっかく自由時間をプレゼントしてあげようと提案していたのに、自分の期待とパートナーの実際の反応が違って、がっかりしたのを覚えています」と、Cさんは答えてくれました。

◆「良かれと思って」気遣ったことが相手の負担に

 そこで、僕は重ねて聞いてみました。

「『自由時間のプレゼント』は誰のニーズですか?Cさんのパートナーは、本当にそれを望んでいたのでしょうか?」

 すると、Cさんは少し驚いた様子で、次のように答えてくれました。

「え……。育児のしんどさって、自分の時間が持てないことなんじゃないですか? 自分も、自分の時間が持てないのはストレスなので、なるほどと共感・納得していたのですが……。確かに、雑誌の記事や知人の話に出てきただけで、自分のパートナーに明確に確認したわけじゃないですけど……」

 どうやらCさんは、自分がたまたま目にした雑誌の記事や知人の話などから、自分のパートナーのニーズを「勝手にわかったつもり」になってしまっていたようです。確かに、そうした情報通りのニーズがある人は多いのかもしれませんが、Cさんのパートナーのニーズも必ずしもその通りであるとは限りません。

 そもそも人の価値観や感じ方などは多様であり、どんなに似た者夫婦であったとしても、自分の価値観や感じ方などとは一致しないことの方が多いはずです。また、Cさんの普段からの育児などへの関わり方や役割分担、体調など、様々な状況やタイミングなどによっても刻々とニーズが変わっている可能性も十分にあります。

 そのため、どんなにCさんがパートナーのことを考えて提案していたとしても、パートナーがそれを望んでいなければ、残念ながらパートナーのケアにはならないのです。

◆「自由な時間を持てることが嬉しかったので、相手もそうだと思った」

 後日、Cさんはパートナーにニーズを確認してみた結果を教えてくれました。

「パートナーに、疲れている時には自分に何をしてほしいのか、それとなく聞いてみたんです。そうしたら、外食や外出などの『プラスアルファの提案』よりも、やらなきゃいけない家事を先回りしてやっておく『マイナスをゼロに戻す手助け』の方が嬉しいと言われました。

 私自身は、自分の自由な時間を持てることが何よりうれしいので、すごく意外でした……。パートナーにしてみると、私から『自由にしていいよ』と言われても、私と子どもだけを残して外出するのも不安だし、帰宅したらやらなきゃいけない家事もいっぱいあると思うと、今は全く楽しめないみたいです。

 自分としては、相手に良かれと思って精一杯やっていることが、逆に相手視点で見てみると、ズレていたり、全然だったりで……。自分の思い込みのひどさに気づき、愕然としました」

 Cさんは、浮かない顔で話してくれました。

 それを受けて、僕はCさんに言いました。

◆良かれと思ってやっても、相手がそれを望んでいなければ意味がない

「なるほど。Cさんのパートナーの今のニーズは、Cさんの予想とは違っていたのですね。確かに残念ではありますが、でも、パートナーのニーズや価値観などをこの機会にきちんと学び直すことができれば、これからパートナーを適切にケアできる機会も増えますね!」

 すると、Cさんは

「そうですよね。今回、私はパートナーのニーズを読み間違えてしまいましたが、そのことを素直に認めてパートナーに謝罪し、この機会に学び直したらいいんですよね。今回の失敗と反省を生かして、またパートナーのケアにチャレンジしてみます!」

 と、少し晴れ晴れした表情で力強く語ってくれました。

<被害者かもしれないあなたへ>
 相手がどれだけあなたのことを思って行動していたとしても、あなたが「嫌だ」とか「やめてほしい」と感じるのであれば、そうした自分の気持ちを相手にシェアすること(自己開示)自体には何の問題もありません。むしろ、あなたの反応が相手の期待していたものと違っていた際に、急に不機嫌になり、「なんで?」と問い詰めてくるような人たちは高確率であなたを傷つけます。

 以前の記事(「パートナーを傷つけてまで優先される“正論”はない」)にも書きましたが、パートナーを傷つけてまで許される”正論”はありません。

 何度も相手にフィードバックしているにも関わらず、相手があなたの感じ方や価値観を全く尊重せず、一方的に相手の価値観や感じ方を押し付けてくるだけなのであれば、一度、(自分の周りの人ではなく)専門家に相談してみることを強く推奨します。

 さまざまな専門機関や相談窓口がありますので、ぜひ「モラハラ 被害」「DV 被害」などで検索してみて下さい。

◆大事なのは相手と自分のズレを認め、学び直すこと

<加害者かもしれないあなたへ>

 そのプレゼントやサプライズは、誰のニーズに基づくものですか?

 相手は、本当にそれを望んでいるのでしょうか?

 相手の価値観や感じ方は、必ずしも自分と同じとは限りません。むしろ、自分とは違っていることの方が一般的です。自分としては、相手の立場や価値観などを尊重しているつもりでも、知らず知らずのうちに、つい相手の立場で「自分の価値観や感じ方」で考えてしまっているがために、ズレが起きてしまっていることも少なくありません。

 人は誰しも間違いを犯します(参考:「パートナーに理想や成長を求めるのは愛ではない。不幸になる構造の正体とは」)。人間関係において、絶対の正解というものはありませんし、チャレンジすれば、失敗したり、間違えたりしてしまうことも当然あり得ます。

 自分が(自分自身を含む)相手のニーズを読み間違えてしまった時に大切なことは、自分の失敗や過ちを認めない(無かったことにする)のではなく、素直に失敗や過ちを認め、相手に謝罪し、そこから学び直すことです。(ただし、「俺が納得するように話せ」は加害です。十分にお気をつけ下さい。)

 安易に自分を正当化(=相手を非難)したり、不機嫌になって相手をコントロールしようとしたりするのではなく、まずは、目の前の相手が感じていること、考えていることを尊重することからぜひ始めてみて下さい。

 僕は、人は変われると信じています。

―[モラハラ夫の反省文]―



【えいなか】
DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:えいなか