経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は株式会社銀座ルノアールの業績について紹介したいと思います。
同社は「喫茶室ルノアール」の直営展開を主な事業としています。大正/昭和をコンセプトとしたレトロな喫茶店として知られ、近年では数少ないフルサービスかつ「タバコが吸える喫茶店」として存在感を示してきました。そして“立退料”も収益源とする特異なビジネスモデルを確立していますが、近年では業績が悪化しており、V字回復を狙うべく新業態を模索中です。ルノアールの業績と近年の施策について探ってみました。

◆1964年に1号店をオープン

銀座ルノアールは1964年、煎餅屋が喫茶事業独立のために設立した花見商事をルーツとし、同年に喫茶店1号店を日本橋にオープンしました。規模を拡大しながら1979年には組織変更を経て現社名となり、89年に店頭売買銘柄として日本証券業協会に株式を登録します。

1999年には低価格業態のセルフ業態カフェ「NEW YORKER’S Cafe」をオープンしました。ちなみに99年はドトールが「エクセルシオールカフェ」を始めた年でもあり、低価格セルフカフェ業態を始めた背景には、96年に日本に上陸したスターバックスの台頭があると考えられます。

◆繁華街と郊外でブランドを使い分ける

2000年にそば事業を始めていますが、同事業は2004年に撤退しています。12年には新業態店の「ミヤマ珈琲」をオープンしました。従来の「喫茶室ルノアール」は都内の駅前・繁華街を主な出店先としていますが、ミヤマ珈琲は郊外のロードサイドに出店しており、現在では国内で数店舗展開しています。直近の24年3月末時点で同社は100店舗を展開し、そのうち喫茶室ルノアールはおよそ8割を占めます。ほとんどが直営店のようです。

◆他と一線を画す「フルサービス」と「喫煙席」

スタバやドトール、タリーズなど、セルフ方式のカフェが台頭するなか、喫茶室ルノアールはフルサービスの喫茶店として存在感を示してきました。店内の内装も昔ながらのレトロな喫茶店スタイルです。「大正ロマン」をコンセプトにしていますが。

2016年から「昭和モダン」の店舗も表れ、現時点でそれぞれ45/32店舗を展開しています。看板メニューの「ルノアールブレンド」は1杯700円台(店舗によって異なる)で、コーヒーの他、紅茶やミルク、ソフトドリンクも取り揃えています。古い喫茶店らしく、トーストやケーキメニューが充実しているのも特徴です。

喫茶室ルノアールはタバコが吸える喫茶店として愛煙家に愛されてきました。公式サイトによると禁煙席と加熱式たばこが吸える喫煙席の「分煙」タイプは75店舗、紙たばこ専用の「喫煙ブース」を構える店舗は56店舗あるようです。フルサービスかつ喫煙可というように、「喫茶室ルノアール」は近年では珍しいタイプの喫茶店と言えます。

ちなみに会社全体では「受取補償金」も収益源としています。受取補償金はビルオーナーからの立退料の事で、コロナ前の数年間は税金等調整前当期純利益に対して受取補償金がおよそ三割を占めていました。継続して利益を確保していることから、出店の際は立退料の事も考慮しているのでしょう。

◆「店舗の立地」が原因で大きく苦戦することに

コロナ禍では都内の駅前・繁華街という立地が業績悪化につながりました。20年3月期から24年3月期における会社全体の業績は次の通りです。

【株式会社銀座ルノアール(20年3月期〜24年3月期)】
売上高:80.5億円→41.7億円→45.6億円→61.2億円→73.5億円
営業利益:4.1億円→▲19.6億円→▲12.4億円→▲4.1億円→1,500万円
最終利益:0.5億円→▲23.7億円→3.5億円→▲2.9億円→5,900万円
店舗数:117店→102店→101店→102店→100店

休業や時短営業の他、もともとビジネス利用が多かったこともあり、都心という店舗立地が業績悪化に拍車をかけた形です。22年3月期こそ助成金や店舗ビル売却による固定資産売却益(5.8億円)で最終益は黒字を維持しましたが、前年度の赤字は甚大で、自己資本比率は80%台から50%台へと大幅に減少しました。不景気下で立ち退きの要請も減り、前記の受取補償金についても23年3月期はゼロ、24年3月期は4,700万円とコロナ禍以前と比較してかなり減少しています。

◆「女性客」をターゲットにした店舗が続々登場

銀座ルノアールは、近年従来の喫茶業態以外を模索する動きが見られます。店舗に併設する形で会議室やワーキングスペースを整備する他、2018年には「Cafeルノアール」をリブランディングし、女性客をターゲットにしたであろう内装やメニューに変更。

加えて、業績悪化が進むコロナ禍の21年にはベーカリー「BAKERY HINATA」の1号店をオープンし、22年からはフランチャイジーとして洋菓子チェーン「シャトレーゼ」の店舗を構えています。ベーカリーや洋菓子店をオープンした背景には、やはり喫茶業態以外の収益源を確保したい狙いがあるとみられます。

今年4月には南フランスをテーマとした新業態カフェ「Aline café et sucreries」を府中市にオープンしています。フランスの家庭料理をイメージした料理や伝統菓子を提供し、こちらも内装からして明らかに女性客をターゲットにしているように見えます。

従来の男性客メインの業態から幅広い客層をターゲットにできるのか、新業態の動きに注目したいところです。

<TEXT/山口伸>



【山口伸】
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_