月間の最高売上が6500万円を記録した人気ホストの叶成(かのう・せい)さん(30歳・@Sei_Kanou)。ホストになる前は、中学校の体育教師として働いていたという異色の経歴を持つ。
 本気でプロ野球選手を目指した高校球児、クラスを受け持っていた体育教師ーー成さんはどのような道を歩んで、ナンバー1ホストになったのだろうか。

◆本気でプロ野球選手を目指すも、身長が伸びず挫折

 シングルマザーだった母だけでなく、祖母、姉と女性に囲まれて育った成さんは「家の中にいてもつまらないから」と、物心ついた頃から外で活発に遊ぶ子どもだった。どのスポーツもまんべんなく得意だったが、特にのめり込んだのが野球だ。

「公立ながらプロスポーツ選手を多く輩出している高校に、野球推薦で入学しました。部活は週6日あって、月曜日だけ自主練で自由参加だったのですが、自分はその日も休まず練習していました。1年間、ずっと野球漬けでしたね。でも2年に進学したら上手い後輩がたくさん入ってきて、自分が守っていたショートを奪われてしまい……。それに、身長が166cmから伸びず、体格面で限界を感じるようになりました」

 高校に入学したとき、背が高くなることを期待して2Lのユニフォームを買ったが、卒業するまでぶかぶかのまま着続けたのだそう。プロ野球選手の道は諦めたが、新たに志したのが教師の道だ。

「高校で友だちに会うのが楽しかったし、学校自体が好きだったんです。この環境にずっといられたらいいなと思い、教師を目指して教育学部のある大学に進学しました」

◆女子生徒には怒れなかった高校教師時代

 大学での教職課程を経て教員免許を取得し、体育教師として、地元の中学校で働き始めた。生徒と年齢が近かったためフレンドリーに接していたが、女子に注意することが苦手だったそう。

「生まれ育った環境の影響なのか、女性の感情に敏感な性格なので、女子生徒には怒れなかったんです。それにリーダー格から敵視されると、もめごとがどんどん大きくなってしまう。だから女子生徒の指導は、自分より彼女たちの気持ちが分かる女性の先生に任せていました。

 代わりに、男子生徒には厳しく接していました。とは言っても、頭ごなしに怒ることはしていません。例えば、掃除をサボっている生徒を見かけたとき『ちゃんとやれ』って言うのは簡単だけど、あまり響かない。まずは『掃除めんどくさいよね。先生も苦手だよ』と共感した後、『でも周りの友だちにはどう映るんだろう。サボってる奴だと思われるの嫌じゃない? 残りの時間だけでも掃除しておかない?』と話しかけるなど、生徒自らが前向きに取り組みたくなるようなコミュニケーションを心がけていました」

◆本気で売って稼ぎたいのは“自分自身”だった

 1つのクラスを3年間受け持ち、生徒たちの卒業を見届けたとき、「このまま教師を続けていいのか」と自問自答した。

「教育現場は楽しくて、全然嫌ではなかったんです。でも教師のような年功序列制度より、実力主義で勝負する仕事環境のほうが自分には向いていると思いました」

 中学校を退職して始めたのが、アフィリエイトブログだ。得意分野のコミュニケーションや教育などをテーマに、高収益を目指して記事を書き続けた。

「でも3カ月で5000円くらいし儲からなかったので、すぐ諦めました(笑)。その後、営業職を受けてみたけれど、興味のない商材を売ることに全然前向きになれませんでした。本気で売って稼ぎたいと思えるものは何なのかを考えてたどり着いたのが、“自分自身だ”って気付いたんですよね。そこで、大好きな自分を商売にできる“ホスト”という仕事をやってみようと思い立ちました」

◆売れない時代は、「2回×2時間睡眠」で働き続けた

 成さんはすぐに上京を決意。インターネットで「ホスト」「初めて」と検索し、上位に出てきた歌舞伎町のホストクラブに入店した。

 どうせやるならトップを目指したい。成さんは、売れるために1部(夕方から夜の営業)と2部(朝から昼の営業)の両方に出勤。睡眠は合間の時間に2時間×2回に分けてとり、それ以外は、お客さんにひたすら電話やLINEで営業の連絡をした。

「周りからは『働き過ぎじゃないか』と心配されましたが、野球部の過酷な練習に比べたら正直、全然余裕でしたね。それに、これくらい働かなきゃ売れないだろうとも思いました」

◆夢は「地元で母とカフェ経営をすること」

 時にはお客さんからきつく当たられたり、お客さんの指名を取り合う同僚とギスギスしたりすることもあったが、野球部の監督から言われた「理不尽が人を成長させる」という言葉を胸に、成さんは出勤し続けた。

「入店して4カ月くらい経ったときに、初めて高額のシャンパン(150万円)を入れてもらいました。これを機に勢いがつき、その店舗では安定してナンバー1を獲れるようになりました」

 1店舗目では1年半ほど働いたが、「もっと上を目指したい」と、歌舞伎町にあるホストクラブの中でもトップクラスの知名度を誇る大型店「TOP DANDY」に移籍。2023年度には年間で約2億8千万円を売り上げ、グループ全体で売上ナンバー1を記録した。

「売上や指名が多くなった理由の一つは、礼儀作法やマナー、丁寧な話し方などを徹底したからです。僕を指名してくれるお客さんの中で20代は少なく、ほとんどがお金や精神的に余裕のある同世代や、年上の方が多いです。後者のお客さんに喜んでもらえるよう、品のある接客を心がけています」

 今後の目標は、2024年度もナンバー1を獲ることと、母親の夢を叶えることだ。

「母子家庭で大変な中、僕たちきょうだいを育て上げてくれた母に恩返ししたいんです。前にふと、母が『カフェをやってみたい』と言っていたことがあったので、いつか地元で一緒にカフェ経営ができたらと考えています。実現させるためには、ホストしてもっともっと売れたいですね。それが今のモチベーションです」

 元教師ならではの教養のあるコミュニケーションが武器でもある成さん。教育現場と夜の歌舞伎町、対極な世界で培った人間力は唯一無二ともいえる。カフェオーナーになる夢も“叶える可能性”が高いはずだ。
 
<取材・文/橋本 岬>



【橋本 岬】
IT企業の広報兼フリーライター。元レースクイーン。よく書くテーマはキャリアや女性の働き方など。好きなお酒はレモンサワーです