<悼む>

俳優中尾彬(なかお・あきら)さんが心不全のため亡くなったと22日、所属事務所「古舘プロジェクト」が正式発表した。81歳だった。生前を知る日刊スポーツ記者が中尾さんを悼んだ。

  ◇  ◇  ◇

幅広い役をこなす技巧派の印象が強いが、記憶に残るのは「極道の妻たち」や「ミンボーの女」のヤクザだ。近寄りがたい空気を醸しながら、メガネのフレームの形やジャケットの色合いに、この人らしい美意識が垣間見えた。同じヤクザでもその立ち位置を微妙に演じ分けていた。

「台本をもらったら、この男は何を着て、どんなメガネをかけ、どんなかばんを持つのか。監督と細かいところまで話すんだよね」

「ミンボー」の撮影の合間にそんなことを聞いて、そのいでたちの説得力に納得したことを覚えている。自宅には自前でそろえた撮影用の衣装や小道具が山のようにあったが、17年の大病をきっかけに処分したと聞いた。

もともと、美大からフランスに留学した画家志望だった。絵をあきらめた理由は仏留学中に出た「塩と砂糖を描き分けろ」という難問だったと明かした。

まったく手が動かない自分に比べ、すらすらと描き分けた1人の留学生の絵を見て「どっちがどっちだかはっきり分かった」という。それで絵はあきらめた。その時の思いが俳優になってから生きた。

「似せようとするから描けなかった。『しょっぱい』『甘い』と気持ちを乗せれば良かったんだと。想像すればいいんだという思いが演技につながった」

あのネジネジと独特の声がまず頭に浮かぶが、塩と砂糖を見分けようとするギョロ目の審美眼こそが演技の原動力だったのだろう。【相原斎】