【城下尊之 芸能界ぶっちゃけトーク】

 人気アニメ「ルパン三世」の峰不二子役を長く務め、また「キューティーハニー」など多くの役柄を担当した声優の増山江威子さんが先月、肺炎のために亡くなった。88歳だった。

 僕は、増山さんとたった一度だけとはいえお会いしたことがある。僕がまだ30代前半で、東京の都心に近い住宅街にある寿司屋で知人と食事をしていた。すると、あの“峰不二子”の色っぽいメゾソプラノのしゃべり声が聞こえてきた。

 間違いない! と周囲を見回したが、それらしき女性の姿はない。キョロキョロとしていると、当時50代になったばかりの増山さんが笑顔を見せて振り向いてくれた。

「峰さんですよね?」

 と聞くと……。

「イメージが違って驚いたでしょ」

 と笑った。そして「あなた、リポーターでよくテレビに出ているわよね」と僕のことをよく分かっている様子で、それからひとしきり話をした。その際、民放キー局のプロデューサーをされていたご主人も紹介してくれた。

 驚いたのはそれからだ。増山さん夫妻が先に帰り、僕たちも帰ろうとすると、店の人から「お勘定はいただいてまして、お礼など気にしないようにとのことです」と言われたのだ。

 小悪魔的な峰不二子と違って上品な奥さまという印象で、今度会ったらお礼を言わなきゃと思いながらそのままになっていた。まさに一期一会といっていい。

 その昔、同じようなことがあった。今は画家としても活躍している国広富之(71)のことで、ずいぶん前に女優の水沢アキと婚約して破談したことがあった。ドラマ「噂の刑事トミーとマツ」で人気絶頂だっただけに、僕らも取材に走り回ったものだ。河田町にあったフジテレビそばの焼き肉店で、故・梨元勝さん、故・前田忠明さんと食事しながら国広と水沢のことをしゃべっていたら、背もたれで見えなかった隣席の男性が帰ろうと席を立った。それが国広富之だった。一同、ビックリしたが、彼は「お手柔らかにお願いしますね」とほほ笑みながら立ち去っていった。気が付くと、国広が僕らの勘定を済ませていた。

 一宿一飯の恩義という言葉は今や死語だが、僕は忘れてはいけないと思っている。元プロレスラーの高田延彦とは、夫人の向井亜紀と同じ番組に出ていた縁で食事を共にしたことがある。一晩中いっしょにいて、豪快なのに周りの人たちにこまやかな心配りを見せている彼を知った。高田は自身が主宰する高田道場の子どもたちと、災害など折に触れて募金活動を続けている。「お勘定」のお返しではないが、僕も高田の活動を見かけたらそっと協力している。

(城下尊之/芸能ジャーナリスト)