家計の苦しみは、いつまで続くのか。厚労省が8日発表した2月の毎月勤労統計調査でも実質賃金はマイナス。実に23カ月連続で、リーマン・ショックを背景に最も長く減少した2007年9月〜09年7月に並び、過去最長を記録した。ただ、リーマン危機の頃の実質賃金マイナスは典型的な不景気型だった。

  ◇  ◇  ◇

 当時は世界同時不況に日本も巻き込まれ、製造業を中心に大幅に人員を削減。09年7月に完全失業率は5.5%に跳ね上がり、翌8月に有効求人倍率が0.42倍と過去最低に沈んだ。09年春闘の賃上げ率は1.83%。円高も急激に進み、08年12月には一気に87円台まで上昇した。日経平均がバブル後最安値7054円98銭を付けたのは、09年3月10日のことだ。

 あれから15年。今や日経平均は34年ぶりにバブル期最高値を更新し、史上初の4万円台を突破。24年春闘の賃上げ率は33年ぶり5%超の高水準だ。直近2月の完全失業率は2.6%、有効求人倍率1.26倍と、見違えるほど改善している。

 2月の名目賃金に当たる現金給与総額は前年同月比1.8%増で、26カ月連続のプラスだ。それでも物価上昇に追いつかず、2年近くも家計悪化が続く深刻な事態に陥っているのである。

「リーマン危機の大不況から脱するため、政府・日銀がとった施策はあくまで大企業中心。その象徴がアベノミクスの異次元緩和です。円安誘導で輸出企業の業績が回復した半面、輸入コストは上昇し、物価は高騰。大企業の空前の利益は家計の犠牲の上に成り立っています。植田日銀の緩和継続で、1ドル=152円目前と34年ぶりの円安水準が続き、この先は賃上げ分の価格転嫁も進む。いずれも値上げ圧力となり、実質賃金のマイナスは当面、続きそうです」(経済評論家・斎藤満氏)

全就業者の12%に影響

 6月には1人4万円の定額減税が実施される。財界は「6月ごろには実質賃金が(物価を)上回る」(経済同友会・新浪剛史代表幹事)とプラス転換に期待するが、立ちはだかるのは「2024年問題」だ。

 4月から建設業や物流業は時間外労働の上限規制が強化され、大幅に残業時間を削らざるを得ない。「残業代ありき」で生計を立ててきたドライバーや建設作業員には死活問題だが、毎月勤労統計からは先取りの動きがうかがえる。2月の残業代などの所定外給与は前年同月比1%減で、昨年12月から3カ月連続のマイナスなのである。

 建設業の従事者は全国で480万人、物流業は348万人(総務省・労働力調査=2月)。合わせて全就業者の約12%を占める。これだけ多くの人々の手取り収入が減れば、実質賃金に悪影響を及ぼすのは確実だ。

「企業側も残業を減らす分の労働力を新たな人材で補うしかない。人件費の総額は増えるのに、一人一人の手取りが減ってしまう悪循環です。深刻な人手不足の中、人材確保も容易ではなく、好条件を出せない企業は淘汰されるのみ。増え続ける『人手不足倒産』に拍車がかかりそうです」(斎藤満氏)

 このままでは、実質賃金がプラスに転じるのは絶望的だ。家計の苦しみだけが、リーマン危機の頃から変わっていない。