【正解のリハビリ、最善の介護】#36

 攻めのリハビリで人間力の回復を目指す際は、患者が現在どのような状態なのかを把握する「評価」が大切だと前回お話ししました。本人、家族、治療チームの全員が共有すべき最低限の評価は7項目あり、前回は触れられなかった残りの4項目について説明します。

 ④高次脳機能面の評価はたくさんありますが、中でも「ミニメンタルステートテスト(MMSE)」と「コース立方体組み合わせテスト(コースIQ)」が比較的手軽に実施できます。

 MMSEは言語を使って認知機能がどの程度低下しているかを評価する検査で、0〜30点で判定します。「時間の見当識」「場所の見当識」「物品名の復唱」「注意と計算」など11項目の評価を点数化し、27点以下で軽度認知障害(MCI)、23点以下で認知症を疑います。

 コースIQは、非言語性の知能=IQを評価できます。4色に塗り分けられた立方体を、提示された17の見本と同じ模様に組み合わせる検査です。34〜123点の総得点で判定し、85点以上であれば正常域と考えていいでしょう。

 ⑤言語面は、発語が可能で会話が明瞭かどうかを評価します。会話明瞭度評価は5段階で、1が「よくわかる」、5が「まったく理解できない」と評価します。発語ができなかったり、言葉の意味が理解できなくなる失語症は、「標準失語症検査(SLTA)」で評価します。SLTAでは、聴く、話す、読む、書く、計算する能力について、それぞれの正答率を100点で判定します。重症失語症の軽快には3〜5年を要します。

 ⑥嚥下面の評価は「藤島摂食・嚥下能力グレード」が簡単に実施できます。日本摂食嚥下リハビリテーション学会医療検討委員会の委員長を務めた藤島一郎氏(現浜松市リハビリテーション病院特別顧問)によって提唱された診断ツールで患者が食べている状況をそのまま10段階で評価できます。評価した嚥下障害の程度に応じ、食べる訓練を行う一方で、その患者さんが食べられる=のみ込める食事の形態を分類します。ペースト食、ソフト食、きざみ食、一口大、軟菜食、常菜の6段階に分けるのです。さらに、とろみの程度や必要なカロリー量とタンパク量を考えて、おいしい食事を提供します。

■評価と効果が明確になって初めて治療になる

 ⑦精神面は、安定しているか、不穏(周囲を警戒して落ち着きがなく興奮している状態)があるか、うつ傾向の有無を評価します。うつに関しては「簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)」を用いるのが手軽です。16項目の自己記入式で、うつの重症度を評価できます。うつ傾向がある場合、脳卒中後のうつでは早めに内服治療を行うことで早期に改善が可能です。

 また、不穏などの認知機能低下による行動・心理症状(BPSD)の評価は、「阿部式BPSDスコア(ABS)」が簡単に使えて、内服治療の指標になります。岡山大医学部教授や国立精神・神経医療研究センター長を歴任した阿部康二氏(現宮城県石巻市立牡鹿病院院長)が開発した評価ツールで、徘徊や幻覚・妄想など10項目について重症度を判定できます。

 あらゆるリハビリを必要とする患者に対し、①意識面、②運動面、③ADL面、④高次脳機能面、⑤言語面、⑥嚥下面、⑦精神面の7項目を最低限評価して共有することで、どのように人間力を改善すべきかをチームで明確にできるうえ、本人や家族も理解しやすく、今どのくらい回復しているのか、今後の改善点はどこにあるのかも明確になります。

 リハビリ治療というと、訓練が重要だと思われがちですが、きちんとした「評価」が行われなければ、効果の判定が難しくなります。本人や家族にもわかりやすい評価と効果の説明が重要で、治療の目利きとバランスが大切なのです。

(酒向正春/ねりま健育会病院院長)