東京・新宿でバーを経営する70代のS子さんは最近、久しぶりにレンズ付きフィルム「写ルンです」を買った。27枚撮りで1250円ほどだったが、コロナ禍での休業協力金を申請するためには、お店のメニューなどを撮影した写真プリントを添付する必要があったからだ。

「カメラ付きのスマホも持っていますけど、撮った写真を現像する方法が分からなかったんです」とS子さん。

 そこで思い出したのが「写ルンです」だった。

 S子さんは、「撮影して、現像したら、何と真っ黒でした。また買ってきて撮影したのですが、次もフラッシュが反射したりしてダメで。お客さんのスマホで撮影とプリントをしてもらってようやく申請できました」と苦笑する。

 今や懐かしい“写真あるある”だが、そんな「不便さ」を若い世代はむしろ好んでいるらしい。ネットで検索すると、「レトロ可愛い」「おしゃれ」「エモい写真が撮れる」からと関連のブログも次々に立ち上がっている。

 ある報道写真家は「写真は今やどうにでも加工できるのですが、若い世代にとってフィルム写真はとにかくエモいって。目新しいのでしょうが、登山写真家は山に『写ルンです』を必ず持っていきますよ。電池の心配がないので」とメリットを話す。

 そこで製造元の富士フイルムホールディングスに「写ルンです」の売れ行きを聞いてみた。

「『写ルンです』の売り上げや販売状況については開示していませんが、当社が把握できる国内直営写真店の『WONDER PHOTO SHOP』での傾向として、ここ数年、『写ルンです』の販売状況は下げ止まっています。コロナ禍においても安定した販売状況で推移しています」(コーポレートコミュニケーション部)

 一方で、売れている理由は次のように推察している。

「物心がついた時からデジタルに慣れ親しんだ若い方たちにとって、仕上がったプリントのフィルム独特の風合いを新鮮に感じていただいていることや、デジカメやスマホと違い、現像をしないと何が写っているか分からないワクワク感に魅力を感じていただいているのでは」(コーポレートコミュニケーション部)

 しかしこのデジタル時代、フィルムの衰退は否めないのではないか。

「『写ルンです』やフィルムは今後も使われると考えています。当社としては現時点でフィルム生産をやめる予定はなく、ご要望にお応えできるように引き続き努力していきます」(コーポレートコミュニケーション部)

 簡単に加工も複製もできる時代だからこそ、フィルムで偶然生まれる一枚に価値を見いだすのだろう。