昭和以降初となる、初日の1横綱4大関の全滅からわずか一夜。横綱と大関ひとりが土俵から姿を消した。

 5月場所2日目の昨13日、横綱照ノ富士(32)と大関貴景勝(27)が相撲協会に休場届を提出。診断書には照ノ富士が「左肋軟骨損傷、右変形性膝関節症」、貴景勝は「頚椎椎間板ヘルニア」とあり、いずれも「3週間程度の安静加療を要する見込み」という。

 先場所途中休場した照ノ富士は両膝と腰のバクダンに、糖尿病も患っており、今場所前は左脇腹の肉離れで満足に稽古ができなかった。貴景勝も頚椎のケガの影響で、やはり稽古不足のまま今場所に臨み、これで3場所連続の休場である。

 満身創痍で、いつ引退に追い込まれてもおかしくない両者。しかし、彼らが抱えるさまざまな事情が、それを許さないという。

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 ただでさえ、照ノ富士には一人横綱の責任が重くのしかかる。自身が引退すれば横綱不在。すぐに昇進が期待できる力士も見当たらない。ただ、過去には横綱不在の時期もあった。本来、そこまで背負う必要はないのだが、そこは責任感の強い性格だけに、まだまだ踏ん張るつもりのようだ。

 加えて、親方株の問題がある。

 照ノ富士は伊勢ケ浜部屋の後継者と見なされており、師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)は来年7月に定年を迎える。そのタイミングまで現役を引き延ばして引退し、定年延長を希望しているという師匠と親方株を交換するのがベストなのだが……。

「問題は交換する親方株を持っておらず、そのメドも立っていないことです。今は慢性的な親方株不足。空き株はたったの3つで、いずれも伊勢ケ浜一門が所有しているものではない。横綱は引退後5年間はしこ名のまま、親方として協会に残れるが、その間に親方株を取得できない場合は廃業しかない。伊勢ケ浜親方は他の多くの親方と同様、定年延長の最大限である5年を希望するはず。となれば、照ノ富士は株を持たないまま師匠の定年より先に引退してしまうと、最悪、5年後の廃業もあるということです」(角界OB)

 株取得のメドが立っていない今、照ノ富士は師匠の定年より一日でも長く石にかじりついてでも現役を続けるしかないのだ。

「あるいは伊勢ケ浜親方に定年延長を諦めてもらうか、です。その場合は参与として協会からもらうはずだった報酬の5年分を手当てする必要が出てくるでしょう。聞くところによれば、伊勢ケ浜親方は師匠を退いた後も“院政”を敷く意向があるらしい。すでに部屋の近所に、退職後に住む家を準備しているともっぱら。師匠をうまく説得して『出すものを出す』ことができれば、好きなタイミングで引退できるが、果たしてそれが可能かどうか……」(前出のOB)

 そうした事情もあり、師匠が定年を迎える来年7月までは、体がボロボロにもかかわらず、辞めるに辞められない、というのが周囲の見立てだ。(つづく)

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