【7.26パリ大会開幕 徹底!実践五輪批判】#4

 フランスのマクロン大統領は「オリンピック休戦」を呼びかけている。

 5月5日からフランスを訪問した中国の習近平主席にも提案、賛同を得た。だが、最もこれを受け入れてもらいたい2カ国のトップがそれぞれの立場で提案を拒否した。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は「ロシアがウクライナ領への進軍に利用しないと誰が保証できるのか。われわれはプーチンを信用していない。休戦は敵の思うつぼで、われわれはあらゆる休戦に反対する」とし、ロシアのプーチン大統領は「五輪休戦を含む五輪理念は正しいが、国際オリンピック委員会(IOC)はロシアの選手が国を代表して五輪に出場するのを認めず、自ら五輪憲章に違反している。よって(今次)休戦は支持しない」と言うのだ。

 パリ五輪に関わる五輪休戦は昨年の国連決議を得て、パリ五輪開会7日前から同パラリンピック閉会7日後までの期間となる。この期間だけは武器を置いてオリンピアに集まるという古代オリンピア祭から引き継がれた「休戦思想」の実現が危うくなっているのだ。

 そもそも五輪休戦を打ち破ったのはプーチンで、2022年北京冬季五輪閉会4日後にウクライナに侵攻した。五輪精神を敬うならばあってはならない行為である。プーチンの贖罪はパリ五輪の休戦を実現すること以外に得られない。

■岸田首相も見習うべき

 一方、ゼレンスキーも戦況が悪化している状況を認識し、どこかで停戦にこぎ着けるきっかけが必要な時だ。オリンピック休戦を尊重し、実行すると表明することで国際世論を味方にして、自らの威厳を傷つけることなく停戦にこぎ着けることができるではないか。

 ゼレンスキーが五輪休戦を支持すれば、それに反抗するプーチンという構図は、プーチンの国際スポーツ界における劣勢をますます深刻なものにする。それはプーチンの本意ではない。プーチンが五輪休戦に賛同すれば、ロシアの選手が国を代表することもIOCとの交渉のテーブルに上げられるだろう。

 オリンピック休戦の思想をかように展開すれば政治的に実現不可能に見えるウクライナでの戦争の停戦を実現できる可能性が出てくる。ウクライナ和平のために私が描くスポーツディプロマシーである。

 表には出ないが、マクロンも習近平もそれぞれ当事者にアプローチしているはずだ。習近平には22年北京冬季五輪の閉会まではプーチンに五輪休戦を守らせた実績がある。日本の首相も見習うべきだ。

 コロナ禍で東京五輪2020を実現した国の主として、ゼレンスキーとプーチンに五輪休戦を訴える権利がある。殺傷兵器をウクライナに送っていないG7唯一の国であり、憲法9条を有する唯一の被爆国でもあるのだから。

(春日良一/五輪アナリスト)