【プロ野球スカウトの“逆襲”】

 9月5、6日、東京ドームで行われた高校生トライアウトは、担当する選手を部長にアピールする格好の場だった。

 オレが目を付けていた北関東の投手のシート打撃が始まると、わざわざ同僚を押しのけて部長の隣に座り、「この子、体のバランスがいいでしょ? 球速もまあまあですし。育てれば面白いと思うんスけどね」って猛プッシュさ。

 部長は黙って最後まで見てたけど、どうも琴線に触れた様子がない。しまいには「うーん、どうかな。オレはとりあえず大学か社会人に行った方がいいと思う」と、つれない返事。そしてこう続けた。

「きょう見た中に投手と野手、それぞれ面白い選手がいるにはいた。ただ、ドラフト上位で消えるようなズバぬけた力があるわけじゃない」

 オレが推すのは「大学か社会人」で、興味をもったのはそれ以外の選手というんだからカチンときたけど、それなら部長の言う「面白い投手」はドラフト1位候補の明石商の中森俊介や中京大中京の高橋宏斗とどこがどう違うのか。中森と高橋ならどちらを選ぶつもりか、部長に聞いてみた。

「そりゃ、彼らと、中森や高橋と比べたら球筋も制球力も変化球の質も全然違うさ。一目瞭然だ。けど、今年は選手の横の比較ができない。それで頭が痛いんだ」と、こう言った。

「例年なら高校生はU―18、大学生は日米大学野球がある。日本代表クラスの合宿や試合があるから、高いレベルの中で実力を出せるか、代表クラスの投手や野手を相手に思うようなパフォーマンスを発揮できるのかチェックできる。けれども、今年はコロナ禍で代表合宿もないし、代表クラスの中でのプレーを見ることができない。甲子園の交流試合にしても、学校によっては3年生の思い出づくりのような戦い方をしてたしな。投手にしろ野手にしろ、レベルの低い相手を攻略しても評価の対象にはならないし、実際、ある程度のレベルになるとダルマさんみたいになっちまうのがいるからな」

 ドラフトの目玉といわれるような選手はともかく、ただでさえ、球団によって選手の評価は大きく異なる。そのうえ横の比較、似たような力をもった選手の取捨選択が難しいとなると、ドラフトの巧拙がこれまで以上に今年はハッキリする。オレもボチボチ、クリーンヒットを飛ばさないと、「口だけ達者なヤツ」なんて言われかねない。部長の話を聞いて、少しだけ首筋が寒くなったよ。

(プロ野球覆面スカウト)