九州の大学から歴史あるチームの門をたたいた新人セッターの物語が始まった。バレーボールVリーグ女子1部(V1)の東レアローズに福岡大から加入した川副華笑(22)が3月のVカップで本格デビューした。女子日本代表セッターの関菜々巳(24)が、リーグ戦8位に終わった今季限りで海外挑戦のため退団。新たな司令塔候補は、九州共立大から加わったリベロの松岡芽生(22)とともに新生東レの希望の星になる。

 「華」と「笑」の二文字で「かえで」と読む。落ち着いた語り口が印象的な川副が自身のセールスポイントを明かした。「ボールが乱れても、どんなボールでも一本目を上げてくれたら、スパイカーが思いきり打てるようなトスを上げます」。つなぎやレシーブの頑張りに報い、アタッカーを輝かせようと背番号「20」は一本、一本に真心を込める。

 東レのユニホームに袖を通し、Vカップで本格デビューした。チームの戦績は通算1勝4敗で不本意な結果(1次リーグ敗退)に終わった。それでも首脳陣は次シーズン、そして将来を見据えて若手に経験を積ませることに主眼を置いた。5試合の計17セットでコートに立った川副は、同じく5試合の計16セットに出場した真鍋くるみ(26)とプレー機会を分け合った。

監督も及第点「戦力になっていく」

 「トスの質がいいし、クイックも要所でしっかりと使える。ディフェンスの能力も高いです。このまま試合を重ねて慣れていけば、戦力になっていくと思います」。越谷章監督(44)がパフォーマンスに及第点を与えた一方で、川副は反省を忘れない。「徐々にミドル(ブロッカー)を使えるようになったのは良かったんですが、スパイカーとのコンビネーションが合わないことが多かったので改善したい」。5月からの黒鷲旗全日本男女選抜大会へ向けてのテーマに挙げた。

2023年の全日本大学選手権で3位に入った福岡大の女子バレーボール部(福岡提供)

 福岡大で4年間指導した米沢利広監督(63)は、川副について「汗を流すことをいとわない、努力家」と言い切る。大学3年時の全日本大学選手権(インカレ)で3位入賞を果たした後、川副は意を決したような表情で、米沢監督へこう伝えた。「卒業するまでに、1年間でトスを5万本上げます」―。己の誓いを果たすことが悲願の全国優勝に近づくと信じ、上げ続けた。そうして迎えた4年時のインカレは準決勝で強豪の東海大を相手に2セットを先取しながら、フルセットでの逆転負け。頂点に立つことはできなかった。

【次ページに続く】「一緒に引っ張る」

 「優勝」の2文字に憧れて東レに入団した川副にとって、心強いのは同期の存在だ。福岡・博多女子中から山口・誠英高を経て九州共立大でプレーした松岡も九州ゆかりの選手。「カエデ(川副の愛称)とは中学、高校、大学…ずっと別のチームでした。私も中学までセッターをやっていましたが、カエデには『飾らないうまさ』がある。いつも『うまいなあ』と思いながら、見ていました。私たちよりも若いメンバーを一緒に引っ張って、支えていきたい」。松岡は川副と同じチームで同じ夢を追える日々に喜びを感じるという。

選手それぞれプラスの要素を引き出して

 その明るさで東レに「新しい風」を吹かせている松岡との同級生コンビで紡いでいく物語。川副もその気だ。「性格は個々で違っても、選手それぞれが、いい部分を持っています。プラスの要素を引き出して、ポジティブな考えをチームのプレーに反映できるように、もっとコミュニケーションを取っていきたいです」。17日に21歳となった深澤つぐみをはじめ「明日の東レ」を担うサイドアタッカー陣と心を通わせながら、コートを華やかな笑顔で彩っていく。
(西口憲一)

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 川副華笑(かわぞえ・かえで)2001年6月3日生まれ。長崎県諫早市出身。ポジションはセッター。諫早中から九州文化学園高(長崎)に進学。高校3年時の全日本高校選手権(春高バレー)は2回戦で福井工大福井高に敗れた。福岡大ではキャプテンを務めた4年時に全日本大学選手権(インカレ)で3位入賞に貢献し、九州大学リーグ(1部)では連覇した春秋シーズンともに最優秀選手賞とセッター賞を獲得。23年12月に東レアローズへの入団内定が発表され、今年2月10日の久光スプリングス戦でVリーグデビュー。身長166センチ。背番号「20」。愛称は「ショウ」。