バレーボールの黒鷲旗全日本男女選抜大会第5日は5日、大阪市のAsueアリーナ大阪で男女の準決勝があり、女子では久光スプリングスがデンソーエアリービーズにセットカウント1―3(23―25、25―20、25―27、23―25)で敗れ、2013年度大会以来の優勝には届かなかった。

 久光のスターティングメンバー(第1セット)は、中川美柚(24)、北窓絢音(19)、万代真奈美(25)、吉武美佳(21)、平山詩嫣(23)、濵松明日香(25)、リベロ・高橋葵(18)。

 久光にとっては、ジュースにもつれ込んだ第3セットを奪えなかったのが痛かった。17―21から濵松のブロックポイントなど6連続得点でひっくり返しながら、押し切れずに粘り負け。第4セットも要所での決定力でデンソーに劣り、最後は高卒1年目のリベロ、高橋を襲った相手のスパイクが決まった。準決勝敗退と同時に2023〜24年シーズンが幕を閉じた。

これほど『決めてほしい』と託されるのは…

 試合後、コートには選手とコーチ、スタッフの輪ができた。今季限りで現役を退くリベロの花井萌里(27)、同じく退団する座安琴希コーチ(34)に続いて、濵松が胴上げされた。今大会をもってチームを去るミドルブロッカーは久光でのラストゲームとなった一戦でも攻守に奮闘した。アタックでは29打数19得点だった準々決勝のJTマーヴェラス戦に続き、この日も29打数16得点。背番号「4」の存在感が際立った。

試合後、長岡望悠(左端)から抱き寄せられる久光・濵松(中央)(撮影・永田浩)

 7年間在籍した久光のユニホームで臨んだ最後の大会。「成長させてもらったからこそ、勝って恩返しをしたい」と誓った「黒鷲旗」は手にできなかった。それでも、ある種の達成感があった。「打数も30近くですか…これほど私に『決めてほしい』と託されるのは初めてでした。みんなも頑張って(トスを)持ってきてくれましたし、マナミ(セッターの万代真奈美の愛称)も上げてくれました。それには応えられたんじゃないかなと。とにかく悔いだけは残したくない気持ちでした。思い切りできました」。信頼の証しでもあるトスを打ち抜いた濵松は試合後に目を潤ませ、感極まった表情を浮かべると、長岡望悠(32)から抱き寄せられた。同じポジションでキャプテンの大竹里歩(30)には肩を抱かれながら、コートを後にした。

【次ページに続く】吉武の成長「大収穫」

 優勝を果たせなかった悔しさ、同じ目標に向かって歩んできた仲間との別れ…思い思いの感情を抱えた選手たちは涙を流した。吉武もその一人だった。パワフルなスパイクを武器にライト側からの攻撃を担った気鋭のアタッカーは今大会の5試合を通じて大きく成長。デンソー戦の第4セット終盤では、相手の守備を何度も打ち破った。5連戦で疲労困憊(こんぱい)の中、アタックで42打数15得点。威力十分のジャンプサーブでも2本のサービスエースを決めた。「(強打だけでなく)相手の動きを見たフェイントもそうですし、頭をうまく使えるようになりました。心にも余裕が出てきて、ブロックの意識も良くなってきました。大収穫です」。酒井新悟監督も頼もしそうにうなずいた。

次シーズンはもっと成長した姿を

 「ここぞの場面で決めきれなかった部分も多かったですし、課題が明確になりました。今日も、私が早い段階でトスを要求していたら、試合展開も変わったのではという後悔があります。(次シーズンの)リーグではもっと成長した姿を見せたいです」。振り絞った吉武の声には「熱」があった。チームのテーマでもある決定力アップには、コートに立つスパイカー陣の心の自立が欠かせない。現状での持てる力を出し切ったからこそ、新たな意欲と責任感が芽生えたのも事実。久光オフェンスの「明日」を支える吉武が「大阪の涙」を忘れることはないだろう。
(西口憲一)

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課題と向き合い今後の強化を
酒井新悟監督(黒鷲旗全日本男女選抜大会の準決勝でデンソーエアリービーズに敗れ、2023〜24年シーズンが終了し)「今日の試合に関しては、互いに粘り合い、たくさんのラリーをつくることができたが、最後の決定打を出すところで、デンソーさんの方が一枚も二枚も技術的にも、バリエーション的にも上だった。本当に悔しい試合となったが、この大会を通して得たことや課題としっかり向き合って、今後の強化を進めていかなければならない」

【次ページ】大竹主将、シーズンを終えて

悔しい気持ちでいっぱい
大竹里歩キャプテン(主将2年目のシーズンが終わり)「大事な場面で勝ち切ることができず、悔しい気持ちでいっぱいです。この1年、環境も変わり、少数精鋭の中で助け合いながらチーム全員で成長し続けたことは、とても誇りに思います。この黒鷲旗での想(おも)いを忘れず、また前へ進んでいきたい」