国民の感覚を反映する目的で始まった裁判員制度。ことし5月で導入から15年を迎えた。裁判員経験者の96%が「よい経験だった」と評価した一方で、候補に選ばれても辞退する人は6割以上と高止まりしている。去年から18、19歳も参加できるようになった制度はいま―。

■「400人に1人」

裁判員候補に選ばれた人には毎年11月ごろに通知される

「400人に1人。これはあなたが来年の裁判員候補に選ばれる確率です」ことし、裁判員制度について最高裁が新しく公表した動画はこう始まる。この「候補」の中から各事件ごとの裁判員を決めるためのくじ引きが行われ、最終的に「裁判員」に選ばれるのは、さらに約30人に1人の倍率だという。

殺人や傷害致死、放火など重大な犯罪の刑事裁判に国民の視点や感覚を反映させる目的で始まった裁判員制度。制度が始まってからことしで15年が経ち、これまで、裁判員・補充裁判員あわせておよそ12万人が参加した。去年1月からは成人年齢の引き下げによって18歳と19歳も参加出来るようになり、これまでに少なくとも26人が審理に参加している。

最高裁が昨年度、裁判員経験者を対象に行ったアンケート調査では、裁判員に選ばれる前は「やりたくなかった」「あまりやりたくなかった」と回答した人が全体の約43%だった一方、選ばれた後のアンケートでは「非常によい経験と感じた」「よい経験と感じた」と回答した人が全体の96%以上にのぼった。選任前に「やりたくなかった」と回答した人であっても、選任後はその約92%が「非常によい経験」「よい経験」と回答した。

■「仕事の事情で・・・」高い辞退率

一方で、この15年間の裁判員候補者の辞退率は、制度が始まった2009年は53.1%だったのが、ことしは2月末までの調査で68.8%まで上昇し、高止まりの状況が続いている。

そもそも、裁判員法が裁判員を辞退できる条件として定めているのは、70歳以上や学生であることのほか、重い病気やけが、介護や養育、仕事上の事情などがある。この「仕事上の事情」というのは、たとえば「忙しい」などの理由では不十分で、自営業者など代わりがおらず、自身がいないと事業に著しい損害が生じる場合に限られている。

おととしの調査では、「70歳以上や学生であること等」を除くと、辞退の理由として最も多かったのが「仕事上の事情」だった。裁判員は、審理のために必要な休暇をとれることが法律で認められていて、裁判所も裁判員の雇用主や上司に配慮を求める書類などを用意しているが、仕事を理由に裁判員を辞退するケースが多いのが実情となっている。

■「裁判員」でいる時間はおよそ17日間

平均評議時間も15年前から2倍以上に増えている

では、実際に裁判員になり審理に費やす時間はこの15年でどう変化したのか。

最高裁の調査では、初公判から判決までの平均日数が制度が開始された2009年には3.7日だったのに対し、ことし2月時点では17.5日にまで延びている。この2週間強の間には、法廷で審理を行う時間以外に、裁判所内の部屋で、被告にはどんな刑が適切かなどを裁判官とともに議論する「評議」の時間も含まれる。

ただ、裁判員経験者のアンケートでは裁判所にくる日数が多いかどうかについては「どちらともいえない」と回答した人が一番多かった。また、議論の充実度については、「十分に議論ができた」との回答が約78%で、好意的に評価している。ある裁判官は、「審理時間は長期化してはいるものの、裁判員にとっては納得して結論を出すために必要な時間だと受け止められているのでないか」と話す。

■性犯罪の刑は重くなる傾向

この15年間では、裁判員によって重い判決を下された裁判も多い。これまで裁判員裁判で裁かれた被告は1万6387人。その中で、死刑判決が下されたのは46人。無期懲役は302人だ。

国民の視点や感覚の反映が目的だった裁判員制度だが、量刑は裁判官のみで審理されていた時代から変化はあったのだろうか。

最高裁の報告書(2019年)では、裁判官のみで審理していた時代に比べて、裁判員裁判では「殺人」事件については言い渡される刑が重くなる傾向にあった。また、「性犯罪」たとえば強制性交等致死傷や強制わいせつ致死傷の事件などでも、裁判員による審理のほうが量刑が重くなる傾向がみられた。全体でみると言い渡される刑のばらつきが裁判官のみの時代よりも大きくなっていて、裁判のプロではなく市民感覚をもった裁判員の視点が判決に反映されていると評価されている。

■社会の出来事を「自分ごと」に

裁判員裁判は全国60か所の裁判所で行われている

制度開始から15年。ことしの憲法記念日の会見で、最高裁の戸倉三郎長官は裁判員制度がおおむね安定的かつ順調に運営されていると述べた。

去年、東京地裁で殺人未遂に問われた被告の裁判に参加したある20代前半の女性裁判員は、判決後、「自分でいいのかなと不安だったが、いろんな年齢の人の話を聞けて貴重な経験になった」と語った。また裁判員の経験を通して、ニュースで触れてきた事件を他人事ではなく自分の身の回りで起きたらと想像できるようになったという。

社会の目線を盛り込んだ公平な裁判を行うためだけでなく、裁判員にとっても社会の出来事を自分ごととして捉えるきっかけになりうる裁判員制度。もしも選ばれたときに、裁判に前向きに向き合える環境作りが求められる。