転倒寸前のバイクを起こす超絶技巧!!MotoGP、マルケス/ホンダの偉業。

転倒寸前のバイクを起こす超絶技巧!!MotoGP、マルケス/ホンダの偉業。

 MotoGPの2017年シーズンは、24歳のマルク・マルケス(ホンダ)が、アンドレア・ドビツィオーゾ(ドゥカティ)と最終戦までもつれこんだ戦いを制し、2年連続4回目のチャンピオンに輝くこととなった。

 最終戦でのタイトル決定のシナリオは「マルケスが11位以上でフィニッシュすれば自力チャンピオンが決まる」というもの。

 そのマルケスを21点差で追うドビツィオーゾは、優勝して、かつ、マルケスが12位以下に終わらなければならないという厳しい条件だった。

 最終戦の舞台となるバレンシア(スペイン)は、マルケスが得意とするサーキット。対してドビツィオーゾは、このサーキットとの相性は良くなく、マルケスが12位以下に終わるよりもドビツィオーゾが優勝する可能性の方が低かった。実際、予選で今季8回目のPPを獲得したマルケスに対してドビツィオーゾは9番手に低迷。マルケスのタイトル獲得はほぼ確実に思えた……。

 しかし、今年最後のグランプリは「レースは何が起こるか分からない」という言葉を感じさせるドラマティックなレース展開となった。

オーバーランで転倒寸前となるも……。

 今季8回目のPPから好スタートを切ったマルケスは、オープニングラップを制し3周目までトップを走るが、それからは、タイトル獲得を意識した走りでヨハン・ザルコ(ヤマハ)を先行させ2番手へと後退する。

 以下、ダニ・ペドロサ(ホンダ)、ホルヘ・ロレンソ(ドゥカティ)、ドビツィオーゾと続き、この5台がトップグループを形成。大きな動きがないまま周回を重ねた。

 後半の23周目に入ると、ペースの上がらないザルコを交わし、再び、マルケスがトップに浮上する。

 その直後の24周目の1コーナーでマルケスは、「ヨハンの激しいブレーキングを警戒していつもよりブレーキングを遅らせた」ことが災いし、フロントタイヤがスライドしてオーバーラン。転倒寸前の滑りをなんとか回避するも、グラベルに飛び出し、コースに復帰したときには5番手へとポジションを落としていた。

レース展開に応じて、走りの質を変えたマルケス。

 そのためマルケスは優勝を狙う走りから、再び、タイトル獲得のための走行へと切り替えることになるのだが……25周目に3番手に浮上していたロレンソと4番手にいたドビツィオーゾが次々に転倒!

 この瞬間、チャンピオン争いは終焉を迎え、30周を終えて3位でチェッカーを受けたマルケスが、2年連続4回目のタイトルを獲得した。

 中盤までの緊迫したレース展開。対照的に次々に起きたハプニング続きのレースでタイトルを決めたマルケスは、

「夢のような気持ちです……今日のレースは、まず(常に勝ちを狙う)“マルケス・スタイル”があり、それとは対照的にミスをしてからは今年一番のセーブした走りのスタイルも出すことになった。

 アンドレアはすばらしい対戦相手だったし、今日彼がフィニッシュすることができなかったことは残念。今日は一緒に表彰台に上がりたかった」

 と、自らの連覇の喜びを語りつつも、リタイアに終わったライバルまで賞賛した。

 一方のドビツィオーゾは、「マルケスがコースアウトしたときに優勝しようと頑張ったが、グラベルに飛び出して転んでしまった。あれが限界だった。マルクはシーズンを通して素晴らしい走りをしたし、強かった」とチャンピオンを祝福した。

MotoGPデビュー以来、様々な記録を更新してきた。

 これでマルケスは、125cc、Moto2クラスを含めて、24歳にして6回目のタイトルを獲得することとなった。

 MotoGPクラスにデビューした2013年に、30年以上も破られなかった史上最年少記録をブレイクして初PPと初優勝を果たし、その勢いでシーズン6勝を挙げてチャンピオンを獲得した天才ライダーは、以後、ここでは書き切れないほどの記録を次々に塗り替えてきた。

 今年は更新中の最多PP記録を通算73回へと伸ばし、24歳で最高峰クラス4回目のタイトル獲得と通算6回目のタイトル獲得ともなったが、勿論、これらは史上最年少記録でもある。

 とにかく、速くて強いライダーであることを、こうした数字が証明している。

どのメーカーもほとんど同じ競争力となった今季。

 昨年は、タイヤがブリヂストンからミシュランに代わり、加えて、MotoGPマシンのパフォーマンスに大きく影響するエンジン・コントロール・ユニット(ECU)のソフトウエアが共通となり、18戦で9人というグランプリ史上最多優勝者記録が誕生する大乱戦のシーズンになった。

 どのバイクメーカーもアドバンテージを生み出せず、そのアドバンテージを生み出すためのストライクゾーンが見えないというバイクメーカーにとっては手探りのシーズンとなった。

 その結果、ライダーの実力が試されるシーズンとなったわけだが―- その戦いをマルケスは見事に実力で制したのである。

 その最大の要因は、勝てないときに“我慢の走り”を覚えたことだ。

 優勝も多かったが、転倒ノーポイントも多く、そのためタイトルを逃した'15年の教訓を生かしたことだった。

シーズンを終わってみれば6勝&12回の表彰台。

 新ルールで2年目を迎えた今シーズンは、ヤマハとドゥカティが大きく前進している。

 シーズン前半はヤマハ、後半戦はドゥカティが主導権を握るレースが多かったが、その2強を相手に孤軍奮闘するシーンが多かったホンダのマルケスが、6勝を含む12回の表彰台でタイトルを獲得しているのだ。

 その最大の要因は、“我慢の走り”に加え、チャンスと思ったときの“攻めの走り”が功を奏したことにあるのは間違いない。

“我慢の走り”と“攻めの走り”と。

 その“我慢の走り”が際立ったのは、シーズン3勝目を挙げた第10戦チェコGPだった。

 ウエットからドライへと変化する難しいコンディションとなった戦いでマルケスは、大きなリスクを覚悟しつつ、だれよりも早くスリックタイヤを装着したマシンに乗り換えて勝利を呼び寄せている。

 ウエットコンディションとなった第13戦サンマリノGPでは、チャンピオン争いとは関係ないダニーロ・ペトルッチ(ドゥカティ)を相手に最終ラップに勝負して勝利を掴んだ。

 このレースを終えた時にマルケスは、「リスクを冒して優勝を狙うことになったが、2位で終わるよりもさらに5点を追加することが出来た。これがチャンピオンシップに大きく影響するかも知れない」と語っていたが、事実、最終戦での決着では、この5点が大きな役割を果たすことになったのだ。

転倒寸前のスライド状態から立て直す超絶技巧!!

 勢いと圧倒的な強さでタイトルを獲得した'13年と'14年は、何がなんでも勝ちにいく“マルケス・スタイル”のレースが多かった。

 しかし、新レギュレーションが実施された昨年からは、マシンのアドバンテージを生かせるレースが少なくなった。

 そして今年は、それに加えてライバルに比べてマシンのセットアップが決まらなかったシーズン序盤の低迷があり、チャンピオンシップから大きく出遅れた。

 その遅れを取り戻すためには、昨年覚えた“我慢の走り”だけでは不十分で、時には、何が何でも勝ちにいくあの“マルケス・スタイル”……'13年、'14年のころの積極的な走りが必要となるシーンも増えた。

 それを実現させたのが、「転倒寸前のスライドを立て直すテクニック」だった。

 一度なら「まぐれ」といわれるだろうが、マルケスは膝だけでなく「肘」まで使うという、まさに超絶技巧とも言えるリカバリーをシーズンを通して何度も見せているのだ。

 この技が、“新マルケス・スタイル”の誕生にもつながったことは間違いない。

“ダルマ起こし走法”で、さっそく来季も王座を狙う!

 今年は、マルケスにとって過去4回のタイトル獲得の中でもっとも苦戦したシーズンとなった。

 昨年のタイトル獲得は「ライダーとしてすごく成長した」とメンタル面での成長をアピールしたが、今年はメンタル面に加えて、世界中のレースファンが驚愕する“ダルマ起こし走法”を立派な「テクニック」と呼べるところまで磨くというライダースキル面での進化を見せつけた。

 最終戦までもつれこんだチャンピオン争いだが、ライダーの実力としては、マルケスが大きくリードしていることを実感させるシーズンだった。

 どこまで速く、強くなるのか想像がつかないマルケス――。

 タイトルを獲得したばかりのバレンシアで、グランプリ後に行われた2日間の公式テストでも圧倒的な速さを見せつけ、3年連続5回目のタイトル獲得に向けて、まずは順調なスタートを切った。

文=遠藤智

photograph by Satoshi Endo

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