最近、錦織圭が明るくなってきた!?「ケガをして良かったと思う部分も」

最近、錦織圭が明るくなってきた!?「ケガをして良かったと思う部分も」

 公の場所という意味では3カ月ぶりに姿を現した錦織圭は、思いのほかスッキリした顔をしていた。

 東日本大震災の復興支援を目的にしたチャリティーイベント、『日清食品ドリームテニスARIAKE』。ジョン・マッケンローやアンドレ・アガシ、ゴラン・イバニセビッチ、アンディ・ロディックといった錚々たるレジェンドたちが来日した過去に比べると、今回はゲストがマイケル・チャンと韓国のチョン・ヒョンだったこともありアジア色の強い顔ぶれになったが、引退したばかりの伊達公子の参入もあり、1万席のスタンドはほぼ満員の盛況ぶりだった。

 周知の通り右手首のケガでリハビリ中の錦織はまったくプレーしなかったが、ダニエル太郎/綿貫陽介vs.内田海智/中川直樹という距離の近い後輩たちのダブルス、チャン/伊達vs.松岡修造/大坂なおみという個性の強い面々のダブルスで主審台へ。脇役に徹した錦織は、持ち味の(?)とぼけたキャラを存分に発揮し、ユルいトークと、頼りないジャッジで会場を大いに盛り上げていた。

「ケガをして良かったと思う部分もある」

 コート上で松岡さんのインタビューを受けたときも、あとで記者会見に応じたときも話していた「ケガをして良かったと思う部分もある」という言葉が強がりや虚言に聞こえなかったのは、確かにコートで見せていた姿に悲壮感がなかったからだ。

「出会えた人や見えてきたものがあるし、トレーニングも充実していたし、メンタル的にもリセットできた。成長に費やす時間になったし、この先のキャリアに向けていい充電期間になった」

 錦織はそう続けた。しかし、今回の来日で語ったケガの回復状況と見通しは、期待していたものと比較して〈良好〉とはいえない。

ケガの前のほうがつまらなそうで苦しそうだった。

「1月の開幕戦での復帰はあくまでも予定。あと3カ月くらいかかるかもしれないし、もっとかかるかもしれない」

「手首にはまだ痛みが残っていて、本来の重量のラケットはまだ使っておらず、持ってみるとすごく重い感じがする」

「5割か6割の力でしか打てていないし、特に、ケガの原因になったサーブを打つのはまだ怖さがある」

 こうした内容だけ聞けば、相当悲観的になってしまう。にもかかわらず錦織本人のようすは、ケガをする前のほうがはるかにつまらなそうだったし苦しそうだった。

 さすがにこの状況ですごく楽しげということはないが、憑き物がとれたような柔らかな表情があった。

 そういう姿は、懐かしいようでもあり、新しい変化のようにも思えた。

「生きてるなあって感じることができる」

 また、変化という意味で印象に残った発言もあった。このようなイベントにおける自分の役割について話していたときだ。

「ファンとの距離も近いし、すごく有意義なもの。最近は世界中どこでも震災が起きたり、戦争をしていたり……自分1人の力では止められないことがある。そんな中で少しでもみんなの助けになったり、楽しんでもらえたりするということは、生きてる中で大切なことだと思う」

 過去にもこのイベントの〈意義〉についてはよく聞かれているが、たとえば一昨年はこう答えている。

「日本のお客さんにテニスを見て楽しんでもらえるいい機会。テニスをもっと知ってもらって、特に子供たちに何か感じてもらえたら一番うれしい。自分のモチベーションにもなるし、生きてるなあって感じることができる」

 自分と主に日本のファンの関係を強調した過去との違いに、また日本人にとって身近な悲劇である〈震災〉のみならず〈戦争〉にも思いを重ねた発言に、視野の広がりを感じるのだ。

「いろいろな出会い」や「自分の成長に費やした時間」のおかげなのだろうか。

「ケイは子供たちにとってとてもいいお手本」

 出会いの中には、10月に治療とリハビリのために訪れたベルギーでの出会いが、当然含まれているはずだ。

 グランドスラムで4度のシングルス優勝と2度のダブルス優勝を誇る元女王キム・クライシュテルスが故国ベルギーのブレー市に作ったテニスアカデミーを拠点に、手を専門とする外科医や整骨医の助けを借りながら約20日間を過ごした。

 積極的に環境の変化を求めたことで新鮮な知識を得たに違いない。

 そして、得ただけではなかった。

 アカデミーのスタッフは、「ケイは子供たちにとって、テニスでも生活の面でもいいお手本。彼のやさしさや堅実な努力についてこのアカデミーに携わる人みんなが話している」とフェイスブックで紹介したのだ。

 世界最高4位のベストパフォーマンスを披露することができれば、夢見るテニスキッズたちをもっと喜ばせることができたに違いないが、ケガを負い、辛い状況の中にあっても、先のスタッフが書いたような姿をブレーの人々に印象づけた錦織は、たくさんの幼い心の中にも何かを残しただろう。

世界は社会貢献やリーダーシップなどを錦織に求める。

 スターの影響力はすさまじいものだ。ひょっとしたら錦織は、その力をこれまで以上に自覚したほうがいいのかもしれない。

 毎年のように、世界の長者番付や「影響力のある人物」といったリストに名前が挙がる錦織に、世界は自然と社会貢献やリーダーシップ、強い発信力を求めている。

 無理強いされることではないにせよ、錦織のステータスの高さを考えれば、身近な枠を超えた活動をもっと率先して行なうことができるに違いない。

『ドリームテニス』は錦織圭がいたから実現できた。

 18歳での大ブレーク以降これまで、テニスとスポンサー仕事とメディア対応でいっぱいいっぱいのキャリアを過ごしてきたことは理解できる。

「ケガをして良かった」とまで言う背景には、コート内外でのいろいろなプレッシャーがキャパを超えていた事実があるようにも思える。

 それならなおさら、「生きてるなあって感じることができる」場を作っていくことは自分自身のためにもなるのではないか。

『ドリームテニス』は日本に錦織圭がいたから実現できた夢のイベントである。

 その開催は今年が最後だという。

 これから2020年に向けての改修工事に入る有明コロシアムは1年後の使用が不可能なので、ちょうどキリも良かったのだろう。ただ、錦織にはこれに代わる何かの立ち上げに、復帰への地道なプロセスと並行して、大胆に取り組んでほしいと期待している。

文=山口奈緒美

photograph by Kyodo News

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