男子バスケ代表は五輪に出られるか。ラマスHC「選手を限界に追い込む」。

男子バスケ代表は五輪に出られるか。ラマスHC「選手を限界に追い込む」。

「人生最大の挑戦」という思いを胸に来日。
アルゼンチンでクラブチームと代表、両方のヘッドコーチを経験した
新指揮官が、日本代表を五輪出場へと導く――。
Number936号(9月28日発売)の特集から全文掲載します!

 熱血漢が日本のバスケット界にやって来た。

 フリオ・ラマス、53歳。アルゼンチン出身で、2012年のロンドン・オリンピックではマヌ・ジノビリ(スパーズ)らのNBA選手を擁して自国を率い、4位入賞を果たしている。ヘッドコーチ(HC)としてのキャリアは長く、すでに30年近く陣頭指揮を執ってきた。

「ご覧の通り、あまり背は高くなかったので現役時代はガードでした。もちろん、サッカーもプレーしましたよ。ポジションはボランチです。私の役目は相手からボールを奪い、味方でいちばんテクニックのある選手にすぐさまパスを出すこと(笑)。バスケットにしてもサッカーにしても、闘志あふれる選手だったとは思いますが、選手として成功するよりも、10代の頃から指導者を志していました」

欧米ではなく、アルゼンチンと接点を作った経緯。

 聞けば、所属するクラブで15、16歳の時分に、アンダー12のカテゴリーのコーチを務めていたという。

 1988年にプロのHCとしてのキャリアをスタートさせると、アルゼンチンの「リーガ・ナシオナル」でこれまでにリーグ優勝5回、最優秀監督賞に7度も輝いた。母国の代表HCも務めたその彼が、東京オリンピック出場を目指す日本代表のHCに就任したのである。

 これまで、日本のバスケット界は乱暴に分類するならば、アメリカとヨーロッパに学ぶ指導者が多かった。アメリカのバスケットは中継などで触れる機会も多く、個人スキルを重視する。一方、ヨーロッパ志向の指導者は、選手たちを育てる仕組みそのものに注目してきた。日本とラマスが育ったアルゼンチンの間には、相対的に交流は少なかった。

 そのラマスと日本の接点を作ったのは、現・日本バスケットボール協会の技術委員会委員長の東野智弥である。東野はラマスの手腕に注目し、アルゼンチンに赴いてHC就任の説得にかかった。その時のことをラマスはこう振り返る。

アルゼンチンと同じようなスタイルで戦える。

「最初にコンタクトがあったのは、ミスター東野からです。彼は日本の状況を説明した上で、『アルゼンチンのバスケットはアメリカのようにフィジカルで圧倒するわけでも、ヨーロッパのように高さで勝負するわけでもない。

 フィジカルを見れば日本とアルゼンチンは同じような位置にいると思うが、組織で勝負して世界で結果を残している。私は日本も同じようなスタイルで戦えると信じている。ぜひ、あなたの手で実現させて欲しい』と話してくれたのです。私は彼の話を聞いて、『これは人生最大の挑戦かもしれない』と感じました。プロとして、いや、ひとりの人間としても大きなチャレンジだと」

 ラマスは東野の言葉に、「夢」を感じたという。そしてその夢を膨らませたいと願い、地球の反対側で指揮を執ることを決めた。

「インテリジェンスを十分に使いきれていない」

 オリンピックまであと3年。しかし、現時点では開催国ながら出場は約束されておらず、11月から始まるW杯アジア地区予選で実力向上を証明するしかない。Bリーグの初年度が盛り上がりを見せた後、ラマス新体制の日本代表はウルグアイとの強化試合で船出。その後、アジアカップに挑んだが、ベスト8決定戦で韓国に68対81で敗れ、大会を終えた。先発メンバー、ディフェンス・システムについても、様々なことを試しながらのスタート。まだ試運転の段階だが、ラマスが日本人選手に抱いた印象とはどんなものだったのか。

「数試合、彼らと一緒に戦ってみて、ひじょうに頭がいいと感じました。それに練習、ゲームに対する姿勢も評価できます。強くなりたいという意識も高い。ただし、私が感じたのは、インテリジェンスはバスケットにおいては大きな武器になるのですが、選手たちはまだ十分に使いきれていません。試合の流れを読み、状況によってゲームの運び方をどう変化させるのか、全員が意識を共有していく必要があります」

アメリカにいる八村塁、渡邊雄太も当然注視する。

 一方で、これまで日本が直面してきた弱点にも目を向けざるを得ない。昨今、若い選手には2m級でなおかつ動ける選手が増えてきたが、高さの不足は永遠の課題だ。

「リング周りのプレーは改善しなければならないポイントです。残念ながら、現段階で日本は国際基準に達しているとは言えません。これから、選手全員がフィジカル面を改善していく必要があります。それはリング周りでプレーする大型選手ばかりではなく、すべてのメンバーに要求するものです。その上で、5人で自分たちのバスケットを守るシステムを構築していく。賢い戦い方とは、自分たちの弱点を出さないようにゲームを組み立てることです」

 気になるのは、東京オリンピック出場を見据えて、誰が新生日本代表の中心選手になっていくかということだ。しかし、それに答えるには時期尚早だとラマスはいう。

「選手構想に関しては、2018年になったら具体的にお話しできると思います。Bリーグで候補選手のプレーぶりを見ながら、いろいろと判断していきます。また、アメリカでプレーしている八村(塁・ゴンザガ大2年)、渡邊(雄太・ジョージワシントン大4年)にはまだコンタクトを取っていませんが、当然、注視していきます」

「選手を限界まで追い込む方法を知っています」

 開幕するBリーグでは、代表候補選手を中心に、状態をトレーナーと共にチェックしていくというが、選手に対しての要求も高いものになることは間違いない。

「私は日本の選手たちを信頼しています。当然のことながら、彼らはプロとして練習、試合で常に100%の力を出してくれるはずです。もちろん、私もHCとして選手を限界まで追い込む方法を知っています。彼らはそれに応えてくれるはずです。最終的には、選手自身が成長を望むか望まないか、その意識にかかっています。日本がオリンピックを控えたこの時期、全員が人生の中でバスケットを第一に考えることが出来たとするなら、世界が驚くようなダイナミックな結果が待っていることでしょう」

私は他のチームのコピーを作るつもりはありません。

 練習だけでなく、栄養、リカバリー、睡眠といった24時間のすべてを使って準備することをラマスは望んでいる。「それがプロの仕事というものです」。新しいHCは、選手たちに「バスケット・ファースト」の意識を植えつけ、この国におけるバスケットのカルチャーを変えようとしている。

「このプロジェクトは私個人のものではありません。日本のバスケットに関わる全員が共有できるものです。選手だけでなく、私を含めたスタッフも正しい準備を行わなくてはなりません。その上で、私の望みは日本代表の試合を見て何かを感じてもらい、代表のファンをひとりでも増やすことです。私は他のチームのコピーを作るつもりはありません。当然のことながら、アルゼンチンで作ってきたチームとは違うものになります。日本が持っている資産で、ベストのチームを作る。それが私の仕事です」

 ラマスの熱量は相当なものだ。プロジェクトを動かすものは、人間の内面に宿っているという。

「全力を出し切るために必要なものはただひとつ、『情熱』です」

(Number936号『フリオ・ラマス「日本のバスケットで世界を驚かせたい。」』より)

文=生島淳

photograph by Tetsuo Kashiwada

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