内田篤人の帰還と、小笠原満男。昨年冬に語った「鹿島の血の継承」。

内田篤人の帰還と、小笠原満男。昨年冬に語った「鹿島の血の継承」。

 内田篤人が、鹿島アントラーズに戻ってきた。

 約7年半ぶりのJリーグ復帰。2015年以降、長らく膝のケガに苦しみ満足なプレーができていないのは周知の事実だ。ロシアW杯まであと約半年となったいま、日本代表復帰も見据え、最後の望みをかける思いもあるのかもしれない。

 普段、私は内田の取材をしていない。彼と仲の良い選手を何人か取材していることもあり、内田とは現場などでは顔見知りだったが、選手と記者の関係で密に会話することはそれまでなかった。

 昨年はじめ、初めて内田が当時所属していたシャルケの練習場を訪れた。いつもの雑誌や新聞記事の作成ではない、個人的に掲げたあるテーマについて複数の選手に取材する中で、彼にも話をぶつけたのだった。

 記者として目の前に現れた私に、内田は初めキョトンとしていたが、訪れた理由を伝えるとすぐに理解し、車に同乗させてもらった。

 そこでは、サッカーの本質的な話が展開された。

 勝つとはなにか。勝利するために、何が必要で不可欠なのか。漠然としながらも、競技に関わる人間なら誰もが一度は考え、答えを見出そうとしては簡単には見つからず、禅問答のようにくりかえす題目。それを、内田は真正面から話し始めた。

内田の口から出てきた「正直、わからない」。

 詳しい話はまた別の機会に紹介させていただくとして、会話の中で印象的な発言があった。その記憶を呼び覚ましたのは、まさに今回の鹿島への移籍が決まったときだった。

 サッカーの世界で、勝者になるには――。

 このテーマを内田と話す中で、どうしても鹿島という存在は切っても切れない。Jリーグにおいて、勝者というフレーズを誰もが違和感なく使えるクラブは鹿島しかないだろう。タイトル20冠に迫る実績が、何よりその立場を雄弁に物語る。

 鹿島の強さの秘密に迫るような記事や試みは、これまでも数多く存在した。しかし、普段鹿島を取材していない私も“何となく”は理解しているものの、明確な理由は正直つかめていない。

 面白かったのは、2007年から2009年まで3連覇を経験した内田も、その実は「正直、わからない」と言ってのけたことだった。

 ただ、そこからの言葉に、無二の鹿島イズムが表れていた。

「僕らにできることなんて限られてる。だから」

「勝つことの成功体験は、僕個人としても持っている方の選手だとは思う。でも、それを全て理詰めでは語れない。サッカーや勝負事なんて、運もたくさん必要ですから。うまくいっているときだって、点を取られて負けることもある。最後に点を取って勝つこともある。

 僕らにできることなんて、限られているんです。勝敗を分けるタイミング、時の運の流れがある瞬間で、しっかり嘘のないプレーができる状態でいられるかどうか。これが大事だと思う。正直、常に勝ちたいなんてどのチームのどの選手も思っている。でも勝とうと思っていれば勝利の確率も上がっていくなんていう簡単な世界ではない。勝負の行方なんて、プレーしている選手だって全然わからないんですから。

 これまで何回も勝利を経験してきたけど、これをやったら勝てるという絶対的な要素はないです。戦術もコンディショニングも、スキルアップもメンタルアップも、とりあえずすべての面で嘘なく取り組むしかないんですよ。

 鹿島は、間違いなくそこは全部やっているんです。他は知らないですよ、でも鹿島はやっている。鹿島だって強い時期ばかりではない。勝てない時期もある。そのサイクルを経験しているからこそ、いつだって嘘なくやることの大切さを痛感している。

 答えなんて、鹿島というクラブもわかっていないですよ、きっと。でも、わからないから全部やるんです。それをやっていないチームや選手が、『試合に勝てるかな』と思う資格はないのかなと思う」

内田の礎には、今も鹿島が存在する。

 ドイツやヨーロッパの舞台で、多感な年月を過ごしてきたのは言うまでもない。ブラジルW杯では悔しさも味わった。以前、鹿島でプレーしていた時の内田から、選手としては確実にバージョンアップを果たしている。

 それでも彼の礎には、何年経っても鹿島での経験が存在する。おぼろげながらもそうだろうと思っていたことが、この発言からはっきりと理解できたのである。

「強いから勝つ」か「勝っているから強い」か。

 そして内田は、さらに鹿島について口を開いた。

「鹿島って、『強いから勝つ』というよりも、変な話、『勝っているから強い』と評価される方がしっくり来る。何より現実的に勝ってきたから、常勝軍団とか勝ち癖があるとか言われるようになった。

 でも、これって正直ものすごく紙一重な話でもあるんです。2007年から2009年まで3連覇した時も、常にライバルには(川崎)フロンターレがいた。フロンターレもあの時はものすごく良いチームだった。だからこうも思う。僕らが3連覇できずに彼らがリーグ制覇していたら、もっと強豪の道を歩んでいたかもしれない。でもフロンターレはずっと2位だった。逆に鹿島があそこで負けていたら、もっとクラブとして燻っていたかもしれないけど、勝ったから今の地位がある」

 内田の言葉を聞いた数カ月後。2017年のJ1リーグは劇的な結末を迎えた。

 最終節、首位を走る鹿島は勝てば自力で優勝を決められる立場にいた。2位につけていたのは、川崎。川崎は最終節で勝つしかなく、あとは鹿島の結果を待つのみだった。

 結果は、川崎は勝利。鹿島は、最後まで磐田の守備を崩すことができずスコアレスドロー。これまで『シルバーコレクター』と揶揄されてきた無冠の川崎が、遂に鹿島を抑え頂点に立ったのだった。

 磐田との試合、鹿島のベンチには小笠原満男がいた。言わずと知れた、チームの精神的支柱。リーグ終盤戦は若手の選手に出番を譲ることが多くなっていたが、この大事な一戦で試合途中からでもピッチに立っていれば、チームの状況は変わったのではないか。結果論ではあるが、そんな意見も飛んでいた。

小笠原満男が言う「やること変わらないよ」。

 その光景を見て、再び数カ月前の内田の発言が思い出された。彼は、こう断言していた。

「鹿島はいつだって選手のクオリティも素晴らしいし、今では根本的な自信もある。でも、チームとして成立するのは、小笠原満男がいるからなんです。現役を引退する時は、必ずチームは過渡期を迎える。それは間違いないです。

 その時に、僕が鹿島にいられるのかいられないのかは、わからない。サコ(大迫勇也)が戻っていたりするのかもしれないし。

 よく、僕が代表やいろんなところでキャプテンをやらないのか? と言われてきました。確かにそういう年齢や経験を積んできたことはわかる。

 でも、僕にはその理想像がある。自分の考え方をみんなに注入する。そういうキャプテンシーがイコール、勝つことにつながるわけではないですから。それで勝てるなら言いますけど、僕はあまり関係ないと思っている。

 チームなんて生き物なんです。だから、選手が自然に同じ価値観を共有できる時はチームは強くなる。その状態にない時はバラバラになる。でも、そこで踏ん張る時に一番必要なのは、勝ち点3。どんな形でもいいので、勝つこと。勝てば、なんだかんだ言って集団はまとまっていくんですよ。チームがまとまるから勝つのではない。逆なんですよ。

 満男さんはそれをよく知っている。鹿島なんて、みんなほとんど何も言わない。決められた時間にグラウンドに来て、練習して帰る。試合に勝って帰る。それだけ。悪い流れの時期もあるけど、そこで満男さんとかが『やること変わらないよ。続けよう』と言うだけ。これなんです」

鹿島の血を継承する事は「したいですね」。

 鹿島が優勝を逃した瞬間、ピッチに小笠原がいなかったという事実。当然、チームの支柱はまだまだ今季も健在だが、このタイミングで内田が鹿島に帰還したことに、どんな意味が含まれているのだろうか。

 内田自身の選手キャリアを考えても、今回の移籍は重要な意味を持つ。ロシアW杯を戦う日本代表に復帰できるか否か、自分のコンディションが果たしてどこまで実戦に耐えられる状態なのか。すべては戦いの蓋を開けてみなければ、わからない。

 同時に、鹿島の今を見つめた決断だったとも言えるのかもしれない。ポーカーフェイスでいながら、義理堅い男。それは記者として突然現れた私への対応でも、十分感じ取ることができる人間性だった。

 そんな内田に最後に聞いた。

「小笠原や先輩たちが築いてきたもの、『鹿島の血』を、継承したい思いはあるの?」

 答えはシンプルだった。

「したい。したいですね。でも、僕は満男さんには絶対になれないから」

 その答えが、今季、鹿島で見られるかもしれない。

文=西川結城

photograph by Getty Images

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