岡山一成が等々力に帰ってきた理由。“岡山劇場”次の夢を託す場所。

岡山一成が等々力に帰ってきた理由。“岡山劇場”次の夢を託す場所。

 等々力競技場の「Gゾーン」に、その人はいた。

 熱烈なサポーターが集うエリア。2017年12月2日、川崎フロンターレのリーグ初優勝を信じて39歳の現役ストライカーはサポーターの輪に加わって後輩たちの背中を押していた。

 クラブの功労者、岡山一成。

 ここでプレーしていたのは、10年以上前になる。2000人しか集まらなかった時代は過去になり、スタンドで感じる満杯のスタジアムの一体感は心地良かった。当時の背番号「32」のユニフォームを着込み、ピッチに声を飛ばし続けた。

 首位・鹿島アントラーズが引き分けたため、最終節を5−0で快勝したフロンターレの逆転優勝が決まると、岡山はサポーターたちと抱き合って喜びを爆発させていた。

 クラブOBとして、初タイトルを応援したい。その気持ちともうひとつ、等々力に来たのには大きな理由があった。試合が始まる前、サポーターにはこう挨拶していた。

「俺は今、夢がありません! フロンターレと一緒に夢を見て、はい上がりたい!」

優勝から数日後、興奮は冷めていなかった。

 岡山は、5シーズンにわたって所属したJFLの奈良クラブと契約満了に伴い、退団が発表されていた。次の夢を、見つけられない自分。夢の瞬間を迎えるかもしれない古巣で、何か得られるものがあるはずと思い、奈良から駆けつけたのだった。

 その答えを見つけることができたのだろうか。フロンターレの優勝から数日が経って、岡山と横浜市内のファミレスで会うことにした。優勝の興奮は、まだ冷めていなかった。

「メチャクチャ感動しましたよ。クラブにずっといてくれる(中村)憲剛、監督になった鬼さん(鬼木達監督)たちが成し遂げてくれた。

 特に、鬼さん。僕、選手ほど熱くなれるものはないって思っていましたけど、鬼さんを見て、選手じゃなくても情熱を燃やせられるんやなって、いいものを見させてもろたなって。ああ、こんな夢もあんねんなって」

 引退して指導者の道に進むと筆者が早とちりすると感じたのか、すぐに「いやいや、ちゃいますよ」と打ち消しの言葉が追い掛けてきた。ニカッと、人懐っこい笑みを浮かべながら。

パフォーマンスに自信はあるが、夢が無ければ。

 試合後のトラメガパフォーマンスで有名な「岡山劇場」が、彼の代名詞である。フロンターレで始まり、移籍した柏レイソルやベガルタ仙台などでも有名になった。

 エンターテイナーの側面がある一方で、空中戦の強さを活かした岡山の情熱的なガッツ溢れるファイトは観る者に訴えるものがある。夢があるから、サッカーに魂を吹き込める。裏を返せば夢を感じなければ、自分のすべての力をサッカーにぶつけていく自信がない。不器用な人は、夢がないと動けない。

 無論、現役を続けていく自信はある。2017年シーズンもベンチから外れたのは2試合のみ。5年ぶりにセンターバックもこなした。ケガもなく、丈夫なフィジカルは健在だ。

「ヘディングが負けていたら自分の実力が落ちたことになるんやけど、そうじゃないですからね。負けてないんですよ。全然勝ててる」

 だから“戦力外”とは受け取っていない。あくまで契約満了での退団だと捉えている。しかし現役を続けていくには「夢」とセットでなければならない。

 奈良を退団してからは「殻に閉じこもる生活」を続けていた。他から誘いの声が掛かっても、接触していないという。明るいキャラクターばかりが目立つものの、新たな夢を見つけられない苦しみがあった。

俊輔と出会い、大学進学を取りやめてプロへ。

 夢とサッカーはセット。

 それは岡山一成の譲れぬ哲学と言っていい。初芝橋本高2年時に桐光学園の中村俊輔に出会い、「なんやコイツ、同じ年ちゃうやろ!」とツッコミを入れたくなるほど技術レベルの差を痛感させられた。

 俊輔に刺激を受けて、大学進学の道は取りやめることにした。勝手に横浜マリノスの門を叩き、テスト生からプロ契約を勝ち取った。その中村と同期となって、プロ人生が始まった。マリノスで活躍できたら、日本代表が見えるはず。そんな大きな夢も抱いた。

札幌を退団した後、一度は引退が頭をよぎった。

 その後は激動だった。横浜で2年半プレーして大宮アルディージャ→マリノス(復帰)→セレッソ大阪→フロンターレ→アビスパ福岡→柏レイソル→ベガルタ仙台→浦項スティーラーズ(韓国)→コンサドーレ札幌と歩んだ。どのクラブに愛されたのも、自分が納得してプレー先を決め、すべてを捧げようとしてきたからだ。

「このチームでやります、というのは、逆に言ったら他のチームじゃないという選択をするわけやないですか。どうしてこのチームでやるのか。その理由を見つけて選択してきたつもりです」

 セレッソなら地元で活躍したいという夢、川崎や仙台ならJ1に引き上げたいという夢、柏ならJ1で恩師・石崎信弘監督を男にしたいという夢……それぞれの地に、自分がやるべき理由があった。

 そして2012年シーズン後にJ1の札幌を退団すると、彼はJ2でもJFLでもなく、当時地域リーグ関西1部の奈良クラブに移籍する。だがこの決断を下すまでに、長い時間を要した。奈良からも一度打診があったものの、断っている。

「だってね、札幌で全然勝てなくて1年でJ2降格が決まったんです。降格って、凄く痛手を負うんですよ。1年ずっとサンドバッグ状態で打たれ続けて、最後に降格の宣告を受けるんでダメージがメッチャ残るんです。契約満了になって、自分が次に何をしたいのかすらよう分からんかった」

 もうサッカーはええかな。

 待望の第一子が誕生し、ずっと妻と赤ちゃんの傍にいた。サッカーよりも家族と一緒の生活を求めていた。

兄貴分と慕ってきた松田直樹の突然の死。

 現役を続けるきっかけとなったのが2013年8月、松本山雅のホームスタジアム「アルウィン」で開催された松田直樹を偲ぶメモリアルゲームへの参加だった。

 岡山はミスターマリノスの松田を、兄貴分とずっと慕ってきた。松田は2010年限りでマリノスから契約非更新を通達され、当時JFLだった松本山雅に移籍を果たした。シーズンを戦っていた8月、練習中に倒れて帰らぬ人となった。岡山はずっと悲しみを抱えていた。

 マツくん。

 そう言葉に出して、フーッと息をついてから彼は語り始めた。

「マツくん、分かったで。ここでプレーした理由が」

「僕のことをね、唯一、真剣に怒ってくれる人でした。もうトコトン追い詰めんですよ、あん人は(笑)。でもねマツくんも弱さがあって、僕もそのこともよく分かっていた。だから僕の弱い部分、ずるい部分を分かるんでしょうね」

 アルウィンに来て、松田の思いを知った気がした。

 あの人はなぜ、自分でも知らない松本山雅というチームを選んだのか。スタンドとピッチが近いアルウィンのピッチに立ってみて、ようやく理解できた。スタンドにいるファンの息づかいまで伝わってくるような、自然と熱くなっていく雰囲気を感じることができた。

「マツくん、分かったで。マツくんがここでプレーしたかった理由が」

 スタンドと一体となれるスタジアムで、Jリーグに引き上げるという純粋なロマン、夢。あれだけ悩んでいたものが、瞬く間に氷解していく感覚に包まれた。

「僕ね、松田直樹に導かれたんすよ。僕はマツくんの下でやってきましたから、JFLよりも下から始めようと思ったんです」

 試合の翌日、一度断った奈良クラブに自ら連絡を入れ「お世話になりたい」と告げた。シーズンはもう半ばを過ぎていたが、岡山は松田に背中を押されてピッチに舞い戻ってきた。

奈良で「夢のような体験を送ることができました」。

 夢を追い掛け、情熱をぶつけた5年間だった。

「マツくんが山雅でやる意味を見つけたように、僕も奈良でやる意味を見つけたんです。今年('17年)年間7位で、僕がおるときに結局Jリーグに昇格するという夢は叶えられんかった。でもね、楽しかったですよ。

 Jリーグと比べたら下手やし、みんな働きながらサッカーをやらなきゃいけない環境やけど、誰もが情熱あるんですよ。みんな夢があるんですよ。そんなみんなとね、サッカーをやれたのがうれしかった。楽しかった。地域リーグとJFLを戦えて、夢のような体験を送ることができました」

 岡山はそう言って、何度も奈良への感謝を口にした。

4月で不惑を迎える岡山の次の夢は?

 ドリンクバーのコーヒーも3杯目になっていた。

 現役を続けるか、指導者の道に進むのか、それとも違う夢を見つけるのか。いろんな可能性を、39歳は熱っぽく語った。フロンターレの優勝に、これ以上ない刺激を受けたようだ。殻に閉じこもるのは、もう終わりにした。

「楽しく“これや”と思えることを見つけていきます」

 そう言って、コーヒーを飲みほした。

 年が明けた。まだ連絡はない。

 4月で不惑を迎える岡山一成は、どんな夢を探し当てるのだろうか。

 吉報を、心待ちにしている。

文=二宮寿朗

photograph by Tsuneyo Sakai

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