「キタサンロス」はどう埋まるか。ディープ、オグリの時を振り返ると。

「キタサンロス」はどう埋まるか。ディープ、オグリの時を振り返ると。

 昨年の有馬記念で歴代最多タイのJRA・GI7勝目を挙げ引退したキタサンブラック(牡6歳、父ブラックタイド、栗東・清水久詞厩舎)が、2017年度の年度代表馬に選出された。16年度につづき、2年連続の受賞となった。

 昨年はGIばかりを6戦し、大阪杯1着、天皇賞・春1着、宝塚記念9着、天皇賞・秋1着、ジャパンカップ3着、有馬記念1着。「現役最強馬」の看板を背負い、私たちの前で堂々たる走りを見せつづけてきた。

 1月7日、京都競馬場でキタサンブラックの引退式が行われた。

 武豊を背に芝コースに現れると、約1万8000人が集まったスタンドから「ブラック、ありがとう!」と大きな声援が上がった。

北島オーナーが、清水調教師が、武騎手が。

 GI7勝を表す「7」のゼッケンをつけたキタサンブラックが、直線をキャンターで流した。黒光りする雄大な馬体と、やわらかい身のこなし、そして大きなストライド。ここに備えて坂路調教をこなしてきただけあり、有馬記念を勝ったときと変わらぬ走りだった。5歳だった昨年GIを4勝したのだから、まだまだやれるはずだが、北島三郎オーナーは引退させることを決意した。

「今日も元気で、これからレースをするみたいですね。しかし、私は日頃から『引き際の美学』を大切にしています。立派な大輪を咲かせたのだから、散らせないで、輝いたまま終わらせてやりたい。何カ月も前から寂しさを感じていましたが、新しい道に行かせてやります」

 管理した清水調教師の表情も寂しげだった。

「感謝しかありません。いい形で終われたんじゃないでしょうか。2年ぶりに跨りましたが、さすがに成長していました。一生忘れられない馬です。3年間一生懸命走り抜いてくれて、ありがとうと言いたい。産駒で強い馬をつくっていきたいです」

 最後にその背中を味わった武も感慨深げだった。

「有馬記念から2週間経って、あらためて、素晴らしい乗り味の馬だなと思いました。乗っていて気持ちいい。なかなかこういう馬にはめぐり逢えない。あの大きさ(有馬記念を540キロの史上最高馬体重で優勝)で、すごく軽いし、スピードも抜群だった」

武が繰り返した「めぐり逢えてよかった」。

 すべてのレースが思い出だという。

「4歳からコンビを組んだのですが、乗るたびにどんどん強くなった。どんなに苦しい場面でも勝ってくれて、騎手として成長させてくれました。いろいろな経験をさせてもらいました。歌わされそうになるプレッシャーもあったし。そこから解放されたのだけは嬉しいです」

 と場内の笑いを誘った武は、こう宣言した。

「私はまだジョッキーをつづけますので、キタサンブラックの仔でGIを勝ちたいと思います。約束します」

 武は何度も「めぐり逢えてよかった」と繰り返した。キタサンブラックというサラブレッドは、そのくらい希有な競走馬だった。

 父ブラックタイドという地味な血統でありながら、種付料が今年から4000万円になった全弟ディープインパクトの産駒を蹴散らした。そして、母の父がスプリント王のサクラバクシンオーでありながら菊花賞でGI初制覇を遂げ、天皇賞・春を連覇するなど、個の力で競馬の常識を覆した。体が大きかったのに軽やかで、レースぶりは威圧的だったのに気持ちは優しかった。

 しかも、オーナーは国民的歌手で、勝てばヒット曲のこの馬バージョンを歌った。

 2015年の菊花賞を勝ち、有馬記念で3着となったころはまだ「強豪の一角」という存在だったが、武とコンビを組んだ2016年、17年の2年間は押しも押されもせぬ主役として、日本の競馬界を牽引してきた。

 そんなキタサンブラックがいない競馬を、私たちは見ていくことになる。

 やはり寂しい。

 昨秋、昨シーズン限りでの引退が発表された時点でこうなることはわかっていたのだが、私たちは、この「キタサンロス」をどうすればいいのだろう。

ディープが引退した時、「次のディープ」を探した。

 以前も、こうしたスターホースの「ロス」があった。

 昨年と同じくイヴのグランプリとなった2006年の有馬記念で有終の美を飾ったディープインパクトが引退したあとだ。

「ディープロス」を埋めたかった私たちは、当然、「次のディープ」を探した。ディープの主戦だった武がオーシャンエイプスで'07年1月20日の新馬戦を勝ち、「追えば飛ぶかもしれない」とコメントしたとき、みなが夢を見た。しかし、同馬は次走のきさらぎ賞で4着に敗れ、重賞未勝利のまま現役を終えた。

 私たちを「ディープロス」から救い出してくれたのは、1943年のクリフジ以来64年ぶりに牝馬としてダービーを勝ったウオッカと、そのウオッカを桜花賞で破り、翌年の有馬記念などを制したダイワスカーレットという2頭の歴史的名牝だった。

オグリキャップの引退も、大きなロスだった。

 その前にもいろいろ「ロス」はあったが、キタサンロスとディープロスに匹敵するか、それ以上に大きかったのは、不振に陥り「燃え尽きた怪物」と言われながら、引退レースとなった1990年の有馬記念で劇的な勝利をおさめたオグリキャップの「オグリロス」だ。オグリの時代もディープの時代も「〜ロス」という言葉はなかったが、心にあいた穴の埋め方は同じだった。

 翌'91年、すぐにロスを吹き飛ばす馬が現れた。同年の天皇賞・春を、武を背にしたメジロマックイーンが勝ち、史上初の天皇賞父仔3代制覇の偉業をなし遂げたのだ。これも競馬の神様の采配だったのか、オグリがいなくなった次の世代の王者はオグリと同じ芦毛という、見た目でも私たちの気持ちに添う存在だった。

有馬記念ファン投票の上位陣を見てみると……。

 名馬の「ロス」を忘れさせてくれるのは、次の世代の名馬しかいない。

 では、どの馬が、今の私たちの「キタサンロス」を埋めてくれるのか。

 去年の有馬記念のファン投票の最終結果で1万票以上を得た上位25頭のうち、現役をつづける馬を見てみると、こうなる。

 サトノダイヤモンド、サトノクラウン、レイデオロ、シュヴァルグラン、マカヒキ、キセキ、ソウルスターリング、ゴールドアクター、モズカッチャン、ヤマカツエース、レインボーライン、リアルスティール、シャケトラ、スワーヴリチャード、アルアイン、サウンズオブアース、ヴィブロス、エアスピネル、ディアドラ、ステファノス、ペルシアンナイト。

 クラシック世代では、昨年の2歳王者ダノンプレミアム、ホープフルステークスの覇者タイムフライヤー、京都2歳ステークスを勝ったグレイル、2歳女王ラッキーライラックなども候補だろうか。

 この大きな「キタサンロス」を、「そういうこともあったね」と思わせてくれる新星の活躍に期待したい。

文=島田明宏

photograph by Keiji Ishikawa

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索