箱根駅伝で210人中58人がナイキ。メーカー契約が勢力図を変える日も?

箱根駅伝で210人中58人がナイキ。メーカー契約が勢力図を変える日も?

 間違いなく、『陸王』の影響だ。

 これほどまで、箱根駅伝で選手たちが履くシューズが注目されたことはなかった。

 1月3日、私が出演したTBSラジオの番組『おはよう一直線』では、宇垣美里アナに「学校とシューズの関係は、どうなっているんですか?」という趣旨の追加質問をされたほどである。

 関心の高まりはとどまるところを知らないが、『文春オンライン』で至れり尽くせりの記事が出た。

今年の箱根はアシックスからナイキに“政権交代”が。

 箱根駅伝で走った210名の選手のうち、今年もっとも好まれたのはナイキであり、アシックスが長らく天下を取っていた時代から「政権交代」が行われたという話だ。

<2018年箱根駅伝のシューズ内訳>
・ナイキ 58人
(ナイキV【ヴェイパーフライ、ズームフライ等の厚底タイプ】=39人+ナイキ【その他のナイキ】=19人)
・アシックス 54人
・ミズノ 37人
・アディダス 35人
・NB(ニューバランス) 23人
(NBML【NBの三村仁司さんモデル】=18人 + NB【その他のニューバランス】=5人)
・ML(三村モデル)【NBと契約する前に三村さんが「ミムラボ」で作ったシューズ】=3人

<2017年箱根駅伝のシューズ内訳>
・アシックス 67人
・ミズノ 54人
・アディダス 49人
・ナイキ 36人
・ニューバランス 4人

(「EKIDEN News」調べ)

 その理由としては、ナイキから厚底の「ヴェイパーフライ4%」の登場したことが大きいが、全210名の選手たちが履いたシューズのリストを見た時、私は1月1日に読了した本のことを思い出した。

“SHOE DOG”で描かれたアメリカの大学スポーツ事情。

“SHOE DOG”

 東洋経済新報社から発売されているナイキの創業者、フィル・ナイトの自伝である。

 この本はビジネス書というよりも、アメリカで一定のマーケットを誇る「伝記本」の傑作であり、創業者の生い立ち、ナイキの勃興、そして成功を収めてからの数々の戦いが収められている。

 中でも銀行との折衝、ライバル会社のロビー活動によって、アメリカ政府と対峙するところなど、劇画のような展開が繰り広げられていくが、日本の総合商社が大きな役割を果たしていたことにも驚く。

 また、アメリカのカレッジ・スポーツ・ファンとしては、ナイキがいかにして大学に食い込んでいったかの描写が極めて興味深かった。

 ナイキは1977年にナイトの母校であるオレゴン大学と契約を交わすことに成功するが、その後、ソニー・ヴァッカーロという人物を雇い入れ、バスケットの名門校の攻略に乗り出す。なおヴァッカーロについては、日本でもESPNが制作したドキュメンタリーが放送された。後に彼はナイキを裏切ることになる。

 当時のアメリカの大学バスケット界はアディダスとコンバースの天下だったが、ヴァッカーロは独自の人脈を生かし、名門校との契約を勝ち取っていく。

進学は自分の好きなメーカーと契約している大学に。

 アメリカでは、メーカーと学校の契約が大きなニュースになる。最近でいうと、2016年にはミシガン大学がナイキの「エア・ジョーダン」のブランドを使えるようになったことで話題になった(エア・ジョーダンのロゴが使える選手、学校は限られている)。

 そしてここが肝心なのだが、有望な選手は高校の時点で、キャンプに参加するなどメーカーとの結びつきを持ち、自分が好きなメーカーと契約している大学に進む傾向が強いのだ。

 2018年時点で、名門校と呼ばれるノースカロライナ大、デューク大、そして八村塁がプレーするゴンザガ大などは「ナイキ・スクール」だ。有力カンファレンスの学校に関してはナイキ、アディダス、アンダーアーマーの3強が占めており、激しい競争が続いている。

箱根ではウェアと違うメーカーのシューズが目立つ。

 おそらく、箱根駅伝もアメリカのカレッジ・スポーツと同じような流れになっていくのではないか。

 アメリカのケースから考えるに、箱根駅伝で次に考えられるのは「ウェアとシューズの契約」が切り離せなくなるということだ。

 箱根駅伝で興味深いのは、ウェアとは違うメーカーのシューズを履いている選手が目立つことだ。

 選手とすれば、シューズは自分の能力を発揮する武器。最終的に自分の好みに合ったメーカーのシューズを選ぶ権利が担保されている。

 たとえば、青山学院大とアディダスは強固なパートナーシップを築いてきたが、今回、8区を走った下田裕太は「NBミムラボ」を履いていた。

東洋大のナイキ、山梨学院大のアシックス。

 今回の箱根駅伝では、10人の選手全員のウェアとシューズが一致しているのは東洋大のナイキと、山梨学院大のアシックスだけだ。

 東洋大は完璧な「ナイキ・スクール」だ。

 昨年の10月には、世界陸上で走ったばかりのモハメド・ファラーが東洋大の「TU」のユニフォームを着て選手たちと一緒に練習するなど、関係性を強めている。今回の箱根でも10人中8人がヴェイパーフライ4%を履いており、選手の忠誠心も高い。ただ、面白いのは100mで9秒98をマークした桐生祥秀は東洋大の学生であっても、アシックスのシューズを履いて歴史の扉を開いた。短距離部門はウェアもアシックスであり、ナイキ色は長距離部門ということになる。

 しかし、ウェアを提供するメーカーとしては、シューズが違うことは、とにかく避けたい事態だ。

 戦略商品の売り出しさえも1月上旬に持ってくるとなると、大学との関係性も重要になる。近い将来、大学側への提供条件が見直され、ウェアとシューズのセット契約が進むことになるのではないか。

もし高校時代に履き慣れたシューズがあれば……。

 そうなった場合、アメリカと同じように高校生の進学先にも影響が出てくる可能性がある。

 特にヴェイパーフライ4%は、選手の走り方を変えると言われる。あるコーチは厚底の効果を、「接地した瞬間、強制的に下り坂を走っているような感じになるわけです」と話す。

 もしも、高校時代にヴェイパーフライ4%を履き慣れたとしたら――。

 ナイキ・スクールに進む確率は高くなるだろう。

 まさに、アメリカのカレッジ・スポーツと同じような流れが生まれてくる。

 その意味で、ヴェイパーフライ4%の登場は、単に選手の嗜好だけではなく、長距離界の勢力図にも影響を及ぼす可能性を秘めているのだ。

文=生島淳

photograph by AFLO

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