錦織圭不在の日本にイタリアが本気。1勝3敗でも、このデ杯は快挙だった。

錦織圭不在の日本にイタリアが本気。1勝3敗でも、このデ杯は快挙だった。

 1勝3敗――。

 こう聞くとただの負けのように見えるが、8−11という獲得セット数が物語っているように、これを惜敗と言わずしてどう表現できるだろうか。

 盛岡での現地観戦で感じたのは、紛れもなく日本が世界を相手にがっぷり四つの攻防をした、デビスカップ(以下デ杯と表記)日本代表史上最高の試合だった。

 錦織圭の登場とともに、デ杯日本チームは、世界で16カ国しか戦えないワールドグループに駒を進めるようになった。

 全5試合中3勝で勝利となるデ杯を、2012年以降日本は錦織のシングルス2勝を軸に、もう1勝をどこかで取りに行く――このような戦略で戦ってきた。いや、あえて厳しい書き方をすれば、それしかできなかった。

 ワールドグループでの日本の結果を見ると、それが浮き彫りになる。

WGで、錦織が絡まない勝利は一度も無かった。

 2012年は添田豪が1勝を挙げるも、錦織がイボ・カルロビッチ(クロアチア)のビッグサーブに屈し敗退。

 2014年はカナダのエース、ミロシュ・ラオニッチがけがで欠場となり、さらに錦織がダブルスにも出場して3連勝。しかし次のチェコ戦では錦織がけがのため欠場し、消化試合も含めて5戦全敗。

 2015年はカナダと再戦するも、錦織の2勝を活かせず他で全敗。

 2016年は錦織がBIG4のアンディー・マレー(イギリス)と死闘を繰り広げるが、わずかに及ばず敗退。

 2017年は錦織が出場せず、やはりフランスに敗れた。

 2014年以降の4年間、日本がワールドグループで挙げた勝利数は、消化試合での勝利を除くと6勝だが、この6勝は錦織のシングルスが5勝と、錦織と内山靖崇が組んだダブルスで1勝。

 つまり、錦織が絡まない勝利は一度もない。

 日本がデ杯でさらに上を目指すためには、その他の選手の活躍が必要不可欠なのだ。

まだ錦織のテニスは100%まで回復していない。

 そして今回、日本はけがから復帰途中の錦織を欠いた。

 正直に言えば、まだ錦織のテニスは100%まで回復していない。

 先日錦織は下部ツアーの大会に出場し優勝したが、簡単なミスが多く、苦しむ場面も多かった。デ杯に招集しても、ベストパフォーマンスを発揮できたかと言えば疑問符が残る。

 さらに昨シーズンのけがから復帰中の西岡良仁は、入れ替え戦で数々の貴重な勝利を収めてきた日本のキーマンだが、半年以上試合ができず、ランキングを上げるためにデ杯を回避した。では錦織、西岡の両名を欠いた日本は絶望的なのか。いや、そんなことはなかった。

 この1年で、日本は総合力で格段にレベルアップしていた。

長らく日本の弱点だったダブルスに現れた救世主。

 今回の日本のエース、杉田祐一は昨年の春先に大ブレークし、松岡修造氏、錦織に次ぐ日本人史上3人目となるATPツアー優勝。さらにマスターズ大会でベスト8を達成し、錦織が塗り替えるまで松岡が持っていた最高ランキングである46位を上回った。現在の杉田は押しも押されもせぬ、ATPツアーを年間通して戦うプレイヤーに成長した。

 さらにダニエル太郎は持ち前の長身を生かすためにサーブを大幅改良。本人は時間がかかると謙遜するが、すでに効果は表れて、それが今回のデ杯で爆発した。

 そして、長らく日本のウィークポイントであったダブルスに救世主が登場した。

 昨年から国籍を日本に変更したマクラクラン勉だ。9月のデ杯で初めて組んだ内山靖崇とのダブルスは、グランドスラム優勝経験のある2人が組んだブラジルペア相手にすべてのセットで競る内容を見せ、10月には内山と組んだダブルスで楽天ジャパンオープン優勝。さらに1月の全豪オープンではヤン・レナード・シュトルフ(ドイツ)と組んでベスト4。現在マクラクランは、日本男子ダブルス史上最高ランクに位置している。

 この試合メンバーに加えて、デ杯で長らく日本チームのシングルス2番手を務めてきたベテランの添田豪がサポートメンバーにいる。

 このチームを、史上最強チームと言わずしてどう表現できるだろうか。

敗れてもなお価値のある試合をしたダニエル。

 試合はその日本と、ベストメンバーで臨んできたイタリアチームとの息をのむ攻防となった。

 1日目、初戦のダニエルとファビオ・フォニーニのシングルスはダニエルの気迫が伝わってくる試合だった。

 改良したサーブの効果が表れ、190km/h台のサーブを次々と放った。そして強気の攻め。本来守備を得意とするダニエルがガッツを見せて食らいついていった。

 勝利も見えていたが、最後はフォニーニの強打に屈しフルセットでの惜敗。しかしデ杯は団体戦。ダニエルの気持ちは日本チーム、観客に伝わり、何より相手エースに4時間近い試合をさせたことが2日目、3日目に大きく影響する。

 誰もが勝って欲しいと願ったが、敗れてもなお価値のある試合となった。

この試合での杉田は、日本のエース、大黒柱だった。

 第2戦の杉田とアンドレアス・セッピ(イタリア)のシングルスも白熱した。

 セッピは現在ランキングを落としているが、かつてはトップ30に長らくいた実力者。直前の全豪オープンでベスト16に入り調子を上げていた。

 しかし杉田は、この1年の成長を存分に見せつけた。

 フォアハンドでの早い攻撃、要所をしのぐサーブ、そして精神面での成長。紛れもなくこの試合の杉田は日本のエース、大黒柱だった。かつて錦織に対しセットカウント1−2から挽回して勝ったことがあるセッピ。この試合もセットカウント1−2からセッピの反撃が始まり、セッピのマッチポイントを迎えた。

 しかしここで杉田が踏ん張り、迎えたファイナルセットのタイブレークでは全く隙のない完璧なプレーを披露。

 1勝1敗、総獲得セット数5−5で初日を終えた。

ダブルスの試合、イタリアが一気に勝負をかけてきた!

 2日目、イタリアは勝負を仕掛けてきた。ダブルスのメンバーを変更し、フォニーニを起用した。

 パートナーのシモーネ・ボレリ(イタリア)と組んだダブルスでは、2015年に全豪オープンを優勝している。しかしフォニーニは前日に4時間近い試合をしたばかり。

 イタリアは、確実に焦っていた。

 疲労がたまるリスクを取ってダブルスを本気で取りに来た。

 こんなことは、これまでの日本とのデ杯では絶対にありえなかった。内山とマクラクランのダブルスが十分に評価されているからこそ起きた、イタリアの勝負手だった。

 シングルス以上に特にサービス側の1つのミスが命取りになるダブルスは、じりじりとした神経戦が続いた。

 日本ペアはやや劣勢ながらも食らいついたが、第3セットのタイブレークでイタリアペアは勝負に出たポイントでスーパープレーを連発して突き放し、そのまま勝利を収めた。

まるでGS制覇したかのような喜びを表したフォニーニ。

 後がなくなった日本。

 最終日は杉田とフォニーニのエース対決。

 杉田は第3セットで20分近いロングゲームを制して一気に流れを掴んだが、杉田のマッチポイントの場面からフォニーニが挽回。

 すでに3日間で10時間以上コートに立ち、いつ足が止まってもおかしくない状況から信じられない強打を打ち込み続けた。

 最後は両者サービスキープもままならない状況の中、フォニーニが勝利。

 勝ったフォニーニはまるでグランドスラムを優勝したかのようにそのままコートに倒れこんだ。

錦織が復帰すれば……優勝トロフィーも夢じゃない!

 4試合、19セット、15時間9分。

 フルセット3試合。

 マッチポイントからの逆転2試合。

 あのポイントが違っていれば……という場面は両チームに多数あった。

 しかし、大事なことを忘れてはいけない。この日本チームに、真のエース錦織はいない。

 その中でのイタリア相手に惜敗。これは結果以上に、もっと評価されるべきだ。もっと知られるべきだ。

 錦織圭がトップ10の実力を取り戻し、杉田、ダニエル、西岡、添田が後ろをサポートし、内山とマクラクランがさらにレベルアップしたダブルスを披露できれば、どこからでも勝利を勝ち取れる最強チームが完成する。

 その時日本は、戦前から含めて一度も手にしていないデビスカップの優勝トロフィーを掲げていても何の不思議もない。

 日本テニス界の新たな夜明けは、もうすぐそこまで来ている。

文=今田望未

photograph by Kyodo News

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