広島の二軍キャンプは地味でも熱い。中村、桑原、木村、赤松が土の上で。

広島の二軍キャンプは地味でも熱い。中村、桑原、木村、赤松が土の上で。

 宮崎・日南の広島カープの春季キャンプ。

 クライマックスシリーズでは不覚をとったものの、2年連続セ・リーグ優勝を遂げたカープだけに、“全身・赤”みたいなファンが朝からたくさん集まって、去年までは球場前の駐車場にとめられた私たち報道の車も、今年からは「駐車証」がないととめさせてもらえなくなった。

 報道もファンも、強くなると人がたくさん集まるということだ。

 日南キャンプは、一軍が町の中にある「天福球場」を使い、二軍は郊外の「東光寺球場」を使って行われている。

 一軍の天福球場も、日曜には内野スタンドがいっぱいになるほどでそれは華やかなものだが、二軍の東光寺も、今年はゴールデンルーキー・中村奨成(捕手・広陵高)がこっちなので、例年になく毎日200人ほどの熱心なファンが詰め掛けている。

 守備練習。若い選手たちがそれぞれのポジションについている。

 ショートを守る選手の動きを見ていて、あれっ……と思った。ちょっと前に一軍の“天福”で見ていた田中広輔遊撃手のアクションにそっくりだ。

 守っていたのは、今季4年目の桑原樹(常葉学園菊川高)。180センチの大柄の遊撃手なのに、171センチの田中広輔と同じぐらいに“小さく”見える。

 内野手が実際の体格より小さく見えるのは、悪いことじゃない。全身を小さくまとめて動いている証拠。無駄な動きがそぎ落とされた結果と解釈できるからだ。

同じチームにお手本がいるのは幸せ?

 一瞬、打球の様子を見極めるように“小足”を使ってリズムをとって、決して打球と衝突しない動き。ボールを投げる右腕が前に伸びるのと交差するように、グラブの左手が右肩へ向かうアクション。終始、腰を割って、頭の位置が低いまま動ける一連の動作。なんだか、田中広輔そのものを見ているようだ。

 上手くなったなぁ……と思う。高校時代のフィールディングとは別人のようだ。

 お手本にできる選手が同じチームにいることは、若い選手にとって幸せなことだな、と思って、ふっと“逆目”が頭をよぎった。

 お手本だと思っている間は、追い越せないんじゃないのか。追い越してはいけない存在、それがお手本なのでは……。

 いやいや、プロのサバイバルにそんな“おセンチ”などあるわけがない……。どっちなの? と訊いてみるよりあれこれ迷ってみるほうが、キャンプの時はなんだかキャンプらしい。

123番の木村聡司は、高校時代と真逆の姿に。

 遊撃手・桑原樹の隣で、セカンドを守っている背番号123。同じ4年目の木村聡司。こちらは、常葉学園橘高からプロに進んだ。

 本人、ガチガチの投手志望だった。昔の中日のエースとして鳴らした郭泰源のような、柔らかいのに強さを感じる日本人には珍しいタイプ。本気で投げると高く抜けるボールが多かったが、それでも145キロ前後をいつもマークしていた高校時代の快速球を、ブルペンで受けたこともあった。

 プロでは、最初から内野手で勝負することになっていた。高校時代も投げない日はショートを守って、三遊間のライナーをダイビング・キャッチで仕留めたり、前の高いバウンドをジャンピングスローで一塁に刺したり、人にできないアクロバチックなディフェンスが目をひいていた。

 そんな木村聡司が終始低い体勢で、“まじめ”に打球と向き合っている。基本とはいちばん遠い位置にあったプレースタイルが、すっかり地に足のついたフィールディングになっている。

3年間の育成生活が、彼を慎重にさせている。

 野球が上手くなったねぇ、と声をかけたら、

「ほんとですか……?」

 まじめに疑っている。

 すっかり内野手らしくなった、びっくりした、と重ねていったら、

「ほんとに……うれしいです……」

 やっと笑顔になった。

 3年間の育成選手生活の苦労が、ほめ言葉に対する反応を慎重にさせている。

「でも長い距離のスローイングだと、腕を遠くに引きすぎてしまって、体が開くんで」

 ピッチャーだった時のクセが出るんじゃないの。パッと笑顔が冴えた。

「ああそうか……そうですね、もっとトップが小さくてもいいのかな」

胃がんから復活した赤松真人の姿も。

 守備練習を終えて、今度はフリーバッティングに臨んだ木村聡司の打球があっという間に外野を襲う。

 とにかく、バットが振れる。ブンブン、バットを振っていく。多少タイミングが外れて、わずかに体が流れても、そこで強烈にバットを振っていく。泳いで打ったように見えた打球が、放物線になってレフトフェンスの上のネットを越えていく。

 その隣りのバッティングケージ。

 パッと見てわかるほど、スリムなユニフォーム姿の選手がバッティング練習を続ける。

 背番号38……誰だっけ?

 メンバー表で確かめる。「赤松真人」とあった。

 赤松だ。

 去年の今ごろは、胃がんの切除手術を受けた直後。療養生活をしていたはずだ。

400本以上のヒットを打ってきた「一軍の実力」。

 ユニフォームの下半身がパンパンに充実した若い選手たちの中で、腰回りの細さに“病み上がり”のなごりを残しているが、それでも、その細い体でスイングしたその打球が低いライナーになって外野へ飛んでいく。

 そのライナーが遠くへ飛んでいってもなかなか地面に落ちてこないのが、ペナントレースで400本以上ヒットを打ってきた「一軍の実力」だ。

 “きのう今日”の選手とは、積み上げてきたものが違う。その身に刷り込んできた年月が違う。

 バットを上から下へ振り下ろし、ボールを斜めにバッサリ切り捨てると、もう1本、低いライナーが左中間へ飛んでいった。

 打ち終わった赤松真人がケージから出てきたその目の前では、捕手・中村奨成がショートバウンドの止め方を繰り返し、繰り返し、その身に刷り込ませている。

「背番号22」が丸くなって、マスクをかぶっているから顔も見えない。

 ゴールデンルーキーが顔を隠して背中を丸め、地味に地味に、基礎技能を身につけようとしている。

 人知れずプロに進み、3ケタの背番号で4年目を迎える若者もいれば、実感として命を懸けた再起を挑むベテランもいて、背負いきれないほどの期待を背負った18歳が泥にまみれる。

 みんな、みんな、土の上で闘っている。

文=安倍昌彦

photograph by Kyodo News

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