葛西でも「気持ちがひるんじゃう」。平昌ジャンプ台は、やはり酷すぎる。

葛西でも「気持ちがひるんじゃう」。平昌ジャンプ台は、やはり酷すぎる。

 2月10日に行なわれたノルディックスキー・ジャンプ男子ノーマルヒル決勝は、平昌五輪のジャンプ競技が過酷であることをあらためて実感させた。

 日本は小林陵侑が7位入賞を果たし、伊東大貴が20位、葛西紀明は21位、そして今シーズン、ワールドカップ優勝など急成長を遂げた小林潤志郎は2本目に進めずに31位という結果に終わった。

 意外な結果は、日本人選手のみばかりではなかった。

 例えば小林潤志郎の前に飛んだポーランドのダヴィド・クバキも同じように失速し、88mの92.0点で35位とやはり2本目に進めずに終わっている。

 波乱含みの試合となった要因は、風にあった。

「どこのジャンプ台より運、不運が大きい」

 葛西は試合を振り返る中で、こんな言葉をもらした。

「ワールドカップなら中止だろう、と心の片隅で思いました」

 葛西に限らず、ランディングエリアでも「オリンピックじゃなかったら中止になってもおかしくないよね」という声がいくつも聞こえた。

 防護ネットを左右に張り、風のコンディションに応じて動く仕組みを整え、風対策を施したはずだった。

 ただ「風が四方八方から吹いているような感じ」(伊東)、「向かい風だったり、追い風だったり、どこのジャンプ台より運、不運が大きい」(竹内択)という気まぐれな風を押しとどめることはできなかった。

 そのため、試合はしばしば中断。選手によっては、何度もゲートに座りながら戻され、天を仰ぐ表情も見られた。

 そんな風に最もほんろうされたのは、日本勢では小林潤志郎だった。

小林潤志郎は着地した瞬間「なぜだ?」とばかりに。

 今シーズン、ワールドカップで優勝するなど台頭、ワールドカップ総合8位の成績とともに臨んだオリンピックだったが、1本目は93m。98.8点で31位、上位30名のみの2本目に進めずに終わった。

 小林潤志郎は、着地した瞬間、「なぜだ?」というように手を広げた。

「納得のいかない試合です。上の風に叩き落とされる感じがしました」

 試合後、こう振り返った。

 成績の上では有利な風を受けているとされ、その分だけポイントが引かれている。だが実際は踏み切り直後に追い風へと変わったことで、上から叩き落とされるような風を受ける中で飛ぶことになった。それは得点に反映されない、不運な風だった。

 前述したクバキは今シーズンW杯で優勝し、総合順位でも10位以内にいる実力者だが、小林とともに思いもよらないジャンプに終わった。この両者が飛んだときの風がもっとも厳しい状況だったことを示している。

 風にほんろうされたのは日本勢だけではない。ワールドカップ総合1位のストフ、2位のリヒャルト・フライタークも表彰台を逃したのだ。

「風は上の方だと音がすごかったです」(葛西)

 葛西は、こうも語っている。

「風は、上の方だと音がすごかったです。気持ちがひるんじゃうくらいで、信じられないです」

 ジャンプという競技は風に左右されることが前提であり、選手もそれは承知している。

 ただ、何度も中断を強いられるなど競技続行が危ぶまれるような今回の環境は、やはり酷であると言わざるを得ない。

 また酷だと感じさせた要因は、風に加えて、競技が行なわれた時間帯にもある。

 21時35分にスタートした試合が終わったのは、日付が変わった0時19分。本来は23時15分頃の終了を予定していたから、1時間以上、風による中断で押したことになる。しかも23時にはマイナス10度を下回るところまで気温が下がった。風が吹いているから体感温度はもっと低かった。

「足先の感覚はあまりなくなっていました」

 その中でのしばしばの中断は、待機する選手たちの体温を奪っていった。中断すると、懸命に手足を動かし、息を吹きかける選手の姿が見られた。入賞した小林陵侑も「足先の感覚はあまりなくなっていました」と言う。

 あまりの寒さに、1本目の途中から席を立つ観客の姿が目立ち始めた。上位30名が進んだ2本目には、がらんとしたスタンドの光景があり、表彰式の頃には、ほとんどの観客が帰途についていた。それは寂しい風景だった。

 深夜帯に実施するという競技時間の設定は、放映権料を払うテレビ局の意向によるものだ。ただ、こうした極めて冷え込んだ環境では、より選手を、観客を追い込むことになる。

 16日には男子ラージヒル予選、17日に同ラージヒル決勝、19日には男子ラージヒル団体が行なわれる。

 どの日も今回のノーマルヒルと同様に21時30分に試合が始まる。ここからの試合もまた、気まぐれな風と、極度の冷え込みという2つの敵との戦いとなる。

 過酷な環境のなか、それでも選手たちは上位を目指し、平昌で戦い続ける。

文=松原孝臣

photograph by Ryosuke Menju/JMPA

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