錦織圭、反撃のシーズンが始まる。ツアー復帰戦の「悔しさ指数」は?

錦織圭、反撃のシーズンが始まる。ツアー復帰戦の「悔しさ指数」は?

 敗れたテニス選手の試合後には「悔しさ指数」がある。

 計算式は、大会の規模、ラウンドと対戦相手、プレー内容をもとに選手本人のコメントや話しぶりを基にして、敗戦後から記者会見を行うまでに経過した時間による逓減率なども勘案し……。最終的には、筆者が独断で決める数字だ。

 トップ10やトップ5、さらに上を目指していた時の錦織圭選手はどんな相手に敗れた後でも全身から悔しさがにじみ出て、充血した目で会見室に現れる時があった。そのヒリヒリ感は私たちメディア側にも十分に伝わり、悔しさ指数は常に「90」を越えていた。

 ただ2017年の錦織選手は世界のトップ5に居続けることに、体も心も疲れ切っていたように見えた。

「自分のプレーも悪くはなかったが、相手が良かった」

「仕方がない部分もある」

「また次があるので、切り替えたい」

錦織選手の負けにもう驚きはなかった。

 筆者が主にカバーする米大陸のツアー大会で、準優勝だったアルゼンチン・オープンや初戦敗退を喫したリオ・オープン、さらに米国のマスターズ大会では言い訳めいた言葉を口にするシーンが増えていった。彼の振る舞いから悔しさの絶対温度は下がり、指数は「50」前後に低下していった。

 昨年の最後の試合となった8月のロジャーズ・カップ初戦。ガエル・モンフィス(フランス)に逆転負けを喫した後の指数は「30」に落ち込んだ。会見場に現れた地元カナダや海外メディアがいなかったことからも、錦織選手の負けにもう驚きはなかった。

 '15年や'16年はあれだけ初優勝を熱望していたマスターズの舞台なのに、さばさばとした姿は寂しくも映った。

ドンスコイ快勝後に自然と笑み。

 それから半年。1月の北米でのチャレンジャー2大会をステップに、彼がツアーに戻って来た。舞台は昨年までメンフィス・オープンとして実施され、今年から開催地を東海岸に移したニューヨーク・オープン。

 とは言っても、会場の「ナッソー・ベテランズ・メモリアル・コロシアム」は、マンハッタンから地下鉄と鉄道、タクシーを乗り継ぎ、片道約2時間弱ほどのロングアイランドの片田舎にある多目的アリーナ。昨年1億6500万ドル(約180億円)かけた改修工事を行い、リニューアルされた施設だった。

 黒に統一されたインドア用のハードコートは球足が遅く、ビッグサーバー有利だったチャレンジャー2大会から環境は一変。もちろん錦織選手にとっては戦いやすく、試合を重ねるごとに好調時のコーナーを狙うショットやベースラインから下がらない速い攻撃が見られるようになった。

 2回戦でエフゲニー・ドンスコイ(ロシア)に快勝した後には「確かに自分のいい時のプレーが出始めている。少しずつ良くなっているのを感じる」と、自然と笑みがこぼれた。

アンダーソン戦は格好の試金石。

 準々決勝ではジョン・イズナー(米国)を破って勝ち上がってきたラドゥ・アルボット(モルドバ)に逆転勝ちし、自信の芽はさらに膨らむ。

 全米オープン・ファイナリスト同士の対戦となった準決勝のケビン・アンダーソン(南アフリカ)戦は、現在地を知る上で格好の試金石だった。

 結果は1−6、6−3、6−7で惜敗した。立て直した第2セットの反発力、先にブレークを許してはいけない第3セットのサービスゲームの集中力。タイブレークで一歩及ばなかったが、収穫の多い敗戦だった。

「手応えと悔しさ。率直な気持ちは」

 クールダウンと右太もものアイシングを終え、試合終了から40分後にミックスゾーンに出てきた錦織選手に真っ先に「手応えと悔しさ。率直な気持ちは」と、ぶつけた。

「両方ですね。久しぶりにトップ10あたりの選手とやって緊張もあったし、簡単にやられなくて良かったなという部分もちょっと感じている。もしあれで1コ、1コとかでやられていたら、振り出しに戻っていた可能性もあるので。自信を持つという意味では、2セット目と3セット目はいいプレーも出た。ただ勝ち切れた部分やチャンスもあったので、悔しい面もある」

 アンダーソン戦ではショットが決まらず、吠える場面があった。大事なポイントを奪えずラケットを振り上げて、頭上で止める姿も。自分への苛立ちは勝利への強い気持ちが戻っている証しだ。「簡単にやられて、振り出しに戻る」シナリオもよぎった中で、ケガをする以前には持ちえなかった敗北の中に漂う満足感が、表情ににじみ出ていた。

 指数は「80」。次への糧にするには、十分な悔しさだ。

 28歳、反撃のシーズンが始まった。

文=吉谷剛

photograph by AP/AFLO


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