竹バットでフェンス直撃の高校生。唐津商・土井克也は「谷繁元信」だ。

竹バットでフェンス直撃の高校生。唐津商・土井克也は「谷繁元信」だ。

 3時間のラジオ番組に呼んでいただいて、博多にやって来た。

「野球」についてのあれこれを話したり、リスナーの質問に答えたり、とりとめのない内容だったので、むしろ気楽に大胆な発言もさせていただいて、私にはとても充実した3時間だったのだが、果たして聴いていただいた皆さまにはどんなものだったろうか。

 放送メディアに呼んでいただけるのは光栄なのだが、本番のあとは「ほんとにあれでよかったのかなぁ……」と、少なからず“ブルー”になるのが常である。

 ラジオが日曜で、せっかくの福岡なのだから、この機会に何カ所か回らなければもったいない。ところが、翌日の月曜が困った。近年、高校や大学の野球部には「月曜オフ」が広まりつつある。

 案の定、どこに問い合わせてみても休みなので、ならば! とハラを決めて、ダメもとでいちばん気になっている選手のもとへ足を運んでみよう。

鮮やかな記憶に残るショートゴロ。

 唐津商業高の捕手・土井克也(3年・180cm78kg・右投右打)。

 一昨年の夏、1年生で甲子園の土を踏んでいる。緒戦で木更津総合高に敗れたが、快腕・早川隆久(現・早稲田大)に2安打完封に抑えられた中で、与えられた1打席でバットの芯で捉えたショートゴロが鮮やかな記憶として残っている。

 しかも、その前の佐賀県予選での成績が“1年生ばなれ”していた。2試合ではあるが、4打数2安打。長打はなかったが、四死球3をもぎ取っている。その事実も印象をさらに強くした。

 たった1試合、たった1打席、いや、その中のたったひと振りでも、ピンと来た感触は大切にしたい。あれから1年半、どんなふうに変わっているのか、いないのか。

 博多から唐津、向こうは佐賀でも電車で1時間だ。

 練習が休みだったら、風光明媚な土地と聞く城下町・唐津のたたずまいを味わって、それでよかった……と帰ろう。勇躍、唐津に向かった。

 放課後の時刻を狙って、学校へ向かう。下校してくる生徒の中に坊主頭がいない。もしや……。校門をくぐってすぐ、野球部独特のかん高い“喚声”が聞こえてきた。勝った!

「動け!」

 今年の、私のスローガンを思い出した。

キャッチボール姿で一目でわかる。

 見ると、すぐにわかった。

 キャッチボールが始まった選手たちの中で、捕手の装束を身にまとった均整抜群のユニフォーム姿。

 逸材は探してはいけない。逸材は向こうのほうから、こっちの目の中に飛び込んでくる。

 念のために確かめたら、「土井さんです」とのこと。確か、去年の夏のチームではショートを守って4番を打っていた。1年の夏に、控えでも甲子園でマスクをかぶったヤツが、翌年の夏は遊撃手。想像だけで胸が高鳴ったものだ。

「土井の1年上にもいいキャッチャーがいたので、それならショートという難しいポジションで勉強してもらおうと思ったんです」

 一昨年・夏の甲子園大会で唐津商業高を率いた吉冨俊一監督は、今年35歳の新鋭監督だ。

「確かに入学してきた頃から目立ってたんですが、唯一ヒザや足首の動きが硬かった。ショートで練習して、フットワークを使ったフィールディングを覚えて、足を使ったスローイングができるようになってくれたら……。1年の頃は、ただ肩の強さで投げてましたから」

ショートでも際立つボディーバランス。

 シートノックとボール回しが続く。

 ボールを追って動く土井克也のボディーバランスがいい。

 一塁、三塁には痛烈なスナップスロー、二塁にはコンパクトな腕の振りからしなやかに投げ下ろす。

 吉冨監督が転がしたボールを拾ってそれぞれの塁に送球する動きも反射が鋭く、握り損ないの“抜け”がない。きれいな回転のボールが、二塁ベース上に伸びる。指先感覚優秀、これでボールを拾った高さで投げられたら文句なしだ。

 強さがある選手の共通項で、確かにまだ若干硬い。筋トレでパワーアップも大切だが、ストレッチにも興味を持ってほしい。こう動きたいという体現性は、体の柔軟性が支配している。

「もうちょっとですが、だいぶよくなってきました。スローイングの安定感については信頼できるレベルになってきていると思います」

打球が速すぎて竹バットで打撃練習。

 バッティング練習は、いきなり走者を置いた逆方向狙いの「一本バッティング」だ。

 4人目に、土井克也が打席に立つ。

 ふところの広い構え。肩の高さにセットされた右ヒジをストンと落としただけで、バットヘッドがポーンと出てきそう。

 こういうふうに構えられると、投手は嫌だ。どこに投げても捉えられそうに感じる。

 いきなり、ライトポール横へ速いライナーが伸びる。「エイ、ヤー!」の強振じゃない。サッと振り抜いただけのように見えたのに、あっという間に打球がポール横のフェンスに届く。

 左腕の速球に差し込まれながら、やはりぐんぐん伸びていったセンターオーバー。詰まったはずの打球が高い角度で外野に飛んでいって、そこからなかなか落ちてこないで、この打球もバックスクリーン前のフェンスまで伸びた。

「あの打球、金属じゃなかったんです、2本とも。練習では竹バットで打たせてるんです。土井が金属で本気で打つと、スピードがすごいんで危ないです」

土井の成長が嬉しくてしかたない監督。

 昨秋は、肝心な場面で打てずに悩んだ時期もあったが、冬を越して、バッティングが変わってきたという。

「あの2本は僕もびっくりしました。確かにセンターからライト方向へ、当てにいかずに強く打てるように、とひと冬ずっと指導してきたんですけど、あそこまで成果を見せてくれるとは……。あのちょっと前にも、ああ、センターフライだなと思った打球がフェンス越したこともありましたから」

 あきれたように話す吉冨監督だが、1年生の頃から実戦に起用して手塩にかけた選手の台頭がうれしくて仕方ない。

「ウチは、僕がいつも厳しくあたるので選手たちも大変だと思いますけど、ほんと、みんなよく頑張ってますね。その中でも、土井は早くから試合に出てた選手だけに、余計プレッシャーもあるはずなんです。野球のレベルが高いってだけじゃなくて、人の前に立てるキャプテンシーも旺盛ですし。あいつ、中学では生徒会長ですから……やっぱり、人を束ねる力は持ってると思いますね」

谷繁元信が重なる逸材。

 もちろん、プロも含めた“上”を目指すためのこれまでの歩み、そしてこれから。高い技能を持った稀少価値の大型捕手なのだが、注文を付けるとすれば1つあるという。

「オレが言う前に、お前が言え! って言いたいです。考えてることは同じのはずですから。あれだけ野球の技術も、人間性も、存在感も持ったヤツですから、もっと自分が“憎まれ役”になるほど、前に出てこいって思いますね。

 今の子は、人から嫌われるの、いやがるんですけどねぇ……でも、そこを乗り越えると、あいつもチームも、もうひと皮むけるはずなんです」

 覚醒の冬から、変革の春へ。

 玄界灘をのぞむ静かな城下町に、「谷繁元信」が重なる逸材を見つけた。

文=安倍昌彦

photograph by Sports Graphic Number

関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索