メジャー経験が「自分を変えてくれた」。若手も教えを乞う、青木宣親の存在感。

メジャー経験が「自分を変えてくれた」。若手も教えを乞う、青木宣親の存在感。

 1カ月に及んだヤクルトの春季キャンプで、忘れられないシーンがある。

 2月11日の練習後、キャンプ地の沖縄・浦添の少年野球15チーム263人を対象にした野球教室が行われた。レッスンの最後は打撃指導。全員が本塁付近に集合し、挙手をした中で選手に選ばれた子供が、順番にロングティーをはじめた。

“異変”が起きたのは、終盤にさしかかったころだった。突然、グラウンドにどよめきと歓声が起こった。ある選手が子どもたちの間をかき分けるように登場し、バットを手に打席へと歩を進めていた。

 青木宣親外野手だった。

 サプライズ感を演出しようと、青木は用意周到だった。参加者の少年が着ていた、背中に「負けじ魂」と記されている黄色いTシャツをこっそり拝借。周囲に気付かれないようにしながら絶妙のタイミングで登場し、子どもたちを驚かせた。

 打席に立って喜ばせるだけで、サプライズは終わらなかった。鋭い目つきで、本気のフルスイングを披露。はしゃいでいた子どもたちが、食い入るように青木のバッティングを見つめはじめた。1球ごとに「うわー!」「すげー!」と感嘆の声が上がった。ラストの5球目がフェンス手前で落ちると、青木が「もう1球!」と自ら要求。ホームランの期待にこそ応えられなかったが、子どもたちはもちろん、保護者やファン、ヤクルトのチームメートまで大いに沸かせた。

「ミスタースワローズ」と称される理由。

 青木はチーム合流5日目で、心身ともに疲労はピークのはずだった。しかも、その日は沖縄にしては日差しも弱くて肌寒かった。それでも疲れたそぶりを見せず、少年少女を楽しませようと全力でバットを振った。この時期に、こんな粋なファンサービスをする選手はあまり記憶にない。大喜びする子どもたちの笑顔に、「なんかサプライズがあった方がいいかなと思ったのでね」と、ホッとしたように目尻を下げた。視野の広さ、周囲の期待に応えるプロ意識、野球を心から楽しむ純粋さ――。青木が「ミスタースワローズ」と称される理由を実感できた。

ほとんどの後輩は青木と初対面になる。

 戦力的にはもちろん、あらゆる面でチームが「青木効果」を期待するのも納得できる。入団決定後、だれもが青木復帰による好影響が若手選手にも出ると口をそろえた。とは言っても、メジャー移籍前の'11年に一緒にプレーしていたのは石川雅規、畠山和洋、武内晋一、川端慎吾ら数人のみ。ほとんどの後輩は青木と初対面だ。元メジャーの大先輩とどう接していいのか、どことなく緊張感を持っているように思えた。

シートノックでは「さあ、いこーぜー!」。

 そんな世代間の“壁”は、青木が自分で取っ払っていった。合流初日の7日の練習前、初めてナインの前に立った。何を話すのか――。うかがうような表情の選手たちに、笑顔で呼びかけた。「アメリカナイズされているので、日本のしきたりとか少し忘れているかもしれません。先輩ですけど、ガンガンいじってくれていいので、よろしくお願いします」と自ら「いじられ役」を買って出た。その後も、知らない若手にも声を掛けて回った。シートノックでも「さあ、いこーぜー!」と声を張った。「アメリカでは声を出すことはまずないので気持ちよかった」と、積極的に“日本流”に飛び込んでいった。

 技術的なアドバイスも惜しまなかった。山田哲人、畠山、川端らだけでなく、バレンティンとも、求められれば打撃論をかわした。若手にも同様だった。宿舎の青木の部屋をバット持参で訪問し、「バッティングフォーム見てください」と素振りを始めた選手もいたという。青木は「ほとんどの人には声を掛けているつもりですし(コミュニケーションは)やれていると思いますけど、じゃあ深く(できている)かというと、まだ時間が足りないよね」と話しつつ「性格は人それぞれだからいろいろあると思うけど、そうやってお互いが距離を詰めようという気持ちはあると思う」と声を弾ませた。

「いつでも前向きに、楽しさを忘れずに」

 メジャー時代の経験が生きている。6年間、異国の地で苦労を重ねた。「言葉もベースボールも米国の常識も分からない中、生活から全てが試練」と戸惑いの連続だった。それでも、貫いた信念がある。

「いつでも前向きに、楽しさを忘れずに」

 7球団を渡り歩き、生活環境まで、めまぐるしく変化した。その中でもポジティブさを失わなかったからこそ、メジャー通算打率2割8分5厘の好成績を残せた。「(メジャーの6年間は)自分を変えてくれた。相当自信になりました」と自負する青木に、メジャー移籍前の'11年も指揮官だった小川淳司監督も「人間的にも成長したんだろうし、考え方も大きく変わったなと、感じるところがあった」とうなずいた。

さらなる「青木効果」を見込む小川監督。

 キャンプ最終日。練習を終えると、選手全員でグラウンドを一周した。足並みをきっちりそろえて声を張り上げる姿は、高校球児のようなさわやかさと明るさがあった。1日10時間前後に及ぶ鍛錬の日々を一本締めで終えると、選手、スタッフが握手し、たたえ合った。充実感でいっぱいの笑顔がグラウンドに広がった。青木は「いろんな面で変わろうとしているというのはありますけど、このキャンプ、自分も参加してみて、雰囲気はいいですし、厳しさの中に楽しさもあって、元気いっぱいにみんなプレーできていると思います」と、うれしそうに振り返った。

 小川監督は「間違いなく、メジャーリーガーとして6年やってきた青木の存在は、選手たちにとっては大きかったと感じます。効果として、これから出てきてくれるんじゃないかと思います」と、さらなる「青木効果」を見込んでいる。「前向きに、楽しく」を地でいく背番号23の存在が、昨季96敗とどん底に沈んでいたヤクルトに、明るい光を注ぎはじめている。

文=浜本卓也(日刊スポーツ)

photograph by Kyodo News

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