米スポーツ界とメンタルセラピー。恋人と別れる時期が競技成績に影響?

米スポーツ界とメンタルセラピー。恋人と別れる時期が競技成績に影響?

 メンタルセラピー、メンタルカウンセリングという言葉にどんなイメージを持つだろう。何か心に問題がある人、メンタルが弱い人がお世話になっていそう、そう考える人も多いかもしれない。

 スポーツ大国、アメリカではプロチーム、五輪代表チーム、そして大学レベルでもスポーツ心理学者やセラピストが常駐するのをご存知だろうか。

 4大スポーツ(NBA、MLB、NFL、NHL)やゴルフなどは早くからスポーツ心理学をパフォーマンスに取り入れ、結果に結びつけてきた。それを受け、アメリカのスポーツ強豪大学の多くが2009年ごろからスポーツ心理学の重要性を認識し、スポーツ心理学者やセラピストの雇用を行っている。

 リオ五輪に現役とOBなど合わせて30選手以上を送ったフロリダ大学には、フルタイムとパートタイムのセラピストがそれぞれ2人ずつ、計4人が働いている。同校でセラピストとして働くドウェイン・アレン氏は、週に平均して40人ほどのカウンセリングを行っている。

 学生だけではなく、コーチやトレーナーなども相談に訪れるため、スケジュールは常にいっぱいだ。カウンセリングのほかにも毎日各競技の練習を見学し、選手やコーチの様子、チームの雰囲気などを観察する。

人生のバランスを整える仕事。

 学生の悩みは多岐にわたる。スポーツで成功したい本人のプレッシャー、成功してほしいと願う家族からのプレッシャー、怪我による焦り、学業との両立、コーチ、チームメイト、教授、友人との人間関係など。こういった事がパフォーマンスに影響してくるという。

「人生というのはバランスによって成り立っていて、1つが乱れれば、ほかの部分にも影響してきます。悩みがあれば練習や勉強にも集中できないし、食欲や睡眠にも問題がでますから」

幼少期の問題を解決するために家族を呼ぶことも。

 相談内容は守秘義務によって守られているが、必要に応じてコーチや家族など悩みの原因になっている人たちと共にグループカウンセリングを行うこともある。

「あるバスケットの選手は、子供の頃の問題が心に刺さっていて、それが解決できていなかった。家族を呼んで話し合いをしたところ心が軽くなったようで、プレーが見違えるようによくなり、得点率が高くなったケースもありますよ」

 アメリカの大学スポーツは奨学金や不便ない寮生活といったハード面だけではなく、ソフト面でも細かなケアをして、スポーツ奨学生を支えている。

 五輪代表チームのスポーツ心理学者がとるアプローチは、大学とは少し異なる。

 4年に一度の五輪イヤーに「不退転の覚悟」で新しいことに取り組む人もいるかもしれない。それが絶対に必要な挑戦だったり、自らの意思に関係なく変えなければならない場合もあると思う。しかしアメリカの陸上チームで選手のカウンセリングを行った経験をもつスポーツ心理学者はこう話す。

「五輪の年に、新しいことへの挑戦は基本的に勧めません。大きな飛躍を求めてコーチを代えたり、練習環境を変えたりする選手がいるけれど、成功例はとても少ないです。今までやってきたことを続ける方が効果があります」

 確かに新しいコーチや練習、環境に慣れるのに時間がかかったり、慣れない練習で怪我をしたりする可能性もあるため、適切なアドバイスのように感じる。

恋人と別れるなら冬季練習の前に。

 競技以外のアプローチも興味深い。

「もしどうしても変えなければならない部分があるなら、シーズンインする前に解決しなさい、とアドバイスします。コーチとどうしてもソリがあわず変えたい場合は冬季練習の前に変えなさい、と。恋人やパートナーとうまくいっていなくて、『そのうち別れたい』と思っていたら、今すぐ別れなさい、と伝えます。

 五輪選考会の前にもめて別れるなんてことになったら、目も当てられない状態になります。今別れられないなら、五輪が終わってから別れなさい、と言いますね」

 競技外での人間関係は競技には直接関係ないけれど、競技に集中する環境を作るためには、「確かに」と納得してしまうアドバイスだ。

 心をざわつかせる変化をとらないというのが五輪イヤーの鉄則のようだ。

「日本のカヌーのドーピング問題も……」

 ちなみにアメリカの陸上チームは、スポーツ心理学者を五輪などに帯同する以外にも選手がより快適な環境で競技に臨めるように環境整備にも注力している。

 パートナーや家族、コーチと一緒に過ごしたい選手には、選手村ではなくホテル滞在も認めているほか、自身のコーチと競技開始直前まで練習ができるように、リオ五輪の際には特別に競技場を借りていた。特別な大会でもいつものように自分のコーチと練習し、安心できる相手と過ごし、自分の口に合うものを食べて競技に臨む。それもパフォーマンスに大きく影響するだろう。

 フロリダ大学のアレンさんは「悩みを抱える選手やコーチは言動ですぐに分かります」と言い、「日本のカヌーのドーピング問題もなんらかのサインがあったのではないかと思います」と想定する。

 東京五輪を約2年後に控え、想像を絶するプレッシャーを抱える選手、コーチ、関係者、家族が増えてくるのではないだろうか。選手が心身ともに充実した状態で競技に臨めるように、競技の技術部分やハード面だけではなく、心のケアにも力を注いでほしい。

文=及川彩子

photograph by Getty Images

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