皆川夏穂と新体操42年ぶりの快挙。「美しさ、優雅さ」の先にメダルが。

皆川夏穂と新体操42年ぶりの快挙。「美しさ、優雅さ」の先にメダルが。

今夏の新体操世界選手権の種目別フープで
42年ぶりとなるメダルを獲得した日本のエース。
15歳から留学する本場ロシアでの経験が、
世界トップとの差を少しずつ埋めている。
Number940号(2017年11月22日発売)の記事より全文公開します!

「世界選手権の種目別決勝に残れたのは今回が初めてだったので思い切れたというか、『(決勝では)自由にやろう、ただ自分の演技をするだけ』と平常心で演技に臨むことができました」

 今年8〜9月、イタリアで行われた新体操の世界選手権。種目別決勝のフープで日本のエース、皆川夏穂は17.700点で銅メダルを獲得した。日本勢では1975年大会のフープで金メダルに輝いた平口美鶴以来、42年ぶりとなる快挙だ。

 さらに2日後の個人総合決勝では、フープ、ボール、クラブ、リボンの4種目合計68.425点で5位に入り、1975年大会の森野容子に並ぶ日本史上最高の成績を収めた。

「(世界選手権は)シーズンの中で最も大きな試合ですし、そこでメダルを獲得できたのは、やっぱり素直にうれしかったですね。やっと世界の舞台でメダルを獲れる位置にきているんだなっていう実感も少なからずありました」

 世界選手権初出場の2013年は個人総合で予選敗退。'14年は23位、そして2年前の前回は15位と、一歩ずつメダルへと近づいてきた。とくに、ロシアやブルガリアなど、世界の強豪を相手にした中での過去最高成績は皆川にとっても、日本新体操界にとっても大きな意味があるといえる。

中学卒業後、新体操大国ロシアへ。

 日本体操協会は、'08年北京五輪、'12年ロンドン五輪の新体操で個人出場権を逃したことを受け、積極的な強化策として、'13年、特別強化選手を海外に派遣。中学を卒業したばかりの皆川は、同じイオン新体操クラブに所属する早川さくらとともに、新体操大国・ロシアへと飛び立った。

「ロシアに行けばトップの選手や先生に会えるし、いろいろと教えていただける。もともと、新体操に関して何かにチャレンジする時は、不安に感じたり心配するよりも、ワクワクするタイプなんです。なにより、オリンピックに出場したいという気持ちがとても強かったので、そのためにはもっと成長しなければいけないという危機感がありました。だから、1日でも早くロシアに行きたいという気持ちでしたね」

1年のうち10カ月、練習は全部ロシア語。

 4年経った現在も、1年のうち10カ月間拠点を置くロシア・モスクワ郊外の練習場では、専属コーチからのマンツーマン指導を受ける。日々、宿泊施設と練習場を往復する新体操漬けの生活だ。

 練習はすべてロシア語で行われるため、言語の習得は必要不可欠だった。留学当初は、次の日の練習時間を訊くことで精一杯。練習中はまだままならない言葉のかわりに、身振り手振りで、コーチや選手たちとのコミュニケーションに努めた。

 日本で1日2種目が基本だった練習は、ロシアでは1日4種目すべてを行う。午前、午後に4種目ずつ、同じ手具を1日に2度触る日もある。

「手具をずっと触っていることが印象的でしたね。だからといって、必ずしも、練習時間が長いというわけでもないんです。午前、午後ともに3〜4時間ぐらい。ノーミスの演技を1日2回行うことがノルマなんですが、ロシアの選手はすぐにできてしまう。だから3時間くらいで終わるんです。でも、私は集中力が少し足りなかったり、『これで決めよう』と余計な力が入りすぎてしまい、時間がかかってしまって」

「その基礎ではダメと度々(苦笑)」

 ロシアでは幼い頃から基本を徹底的に学ぶ。土台ができれば技の難度を上げても体がブレないからだ。コーチはまず皆川に手足や体の使い方など、新体操の基礎を一から見直させた。

「基礎はしっかり日本でやってきたという自信がありましたが、『その基礎ではダメ』と言われることが度々あって(苦笑)。正しいやり方を体に染み込ませる練習を何度も繰り返しました。特に注意されたのはひじの動き。手具を扱う時に少しでも曲がると短く見えるから、遠くまで伸ばすようにって。日本でも言われていたことだったんですが、ロシアでさらに徹底しました」

難しい技を難しそうにやらない。

 同じ練習場には、'16年リオデジャネイロ五輪個人総合金メダリストのマルガリタ・マムンらロシアのトップ選手たちも多数トレーニングしていた。

「彼女たちの演技は、とにかく綺麗でつい見入ってしまいます。美しい演技なのに難しい技も簡単にこなすところがすごい」

 世界トップレベルの選手のメンタルの強さや、無駄のない動きを目の当たりにする日々。彼女たちと一緒にトレーニングを行ったことも大きな刺激となった。

五輪でのレベルでも決して夢ではない。

 現在のモチベーションは、開幕まで3年を切った東京五輪だ。リオ五輪で『オリンピック出場』の夢を実現させた今、次に目指すのは、オリンピックで表彰台に上がることだ。少し前まで異次元レベルに感じられた五輪でのメダルも、決して夢ではなくなってきている。

「正直なところ、(リオ五輪では)オリンピックに出ているという実感があまりなかったんです。だから平常心で臨めて、4種目とも落下ミスすることなく演技ができたんだと思います。でも、予選16位で上位10人が進める決勝には残れませんでした。本当に悔しかったし、東京五輪ではという思いも強くなりました。自国開催でプレッシャーもあると思いますが、自分が持っている力をすべて出し切って、納得の演技ができるようにしたいですね」

 最高の状態で2020年を迎えるために自分には何が必要なのか。自身の課題を冷静に見極めている。

「まずは全種目ノーミスで演技できるメンタルの強さ。まだ体幹も弱く、高難度の技で体がブレて減点されたり、加点がもらえる箇所でとりこぼしてしまうことがあるので強化していかないと。もちろん、さらに難しい技にも挑戦していきたいです」

最強ロシア勢に対抗するためには?

 メダル獲得となれば、ロシア勢を筆頭とする、世界のトップに対抗していかなければならない。

「海外の審判にも手の動きや美しさは、(世界のトップと)ほとんど変わらないと言っていただけているんです。あとはどれだけ試合で高難度の技を決められるか。それが彼女たちに追いつくポイントになるのかな。せっかくメダルを目指すのなら、ロシアの選手を超えたいという気持ちもありますが、まだまだ差は大きいですね」

 憧れは'08年北京五輪、'12年ロンドン五輪の金メダリスト、エフゲニア・カナエワ(ロシア)やマムンのような演技だ。

「彼女たちは、難しい技を難しそうにやらない。しかも、曲の雰囲気を感じ取りながら随時動いているのでつい見とれてしまいます。それに見ていて伝わってくるものがあるというか感動する。自分もそういう演技ができたらなって思いますね」

美しさを持って、優雅さを表現したい。

 運動能力のみならず、演技の美しさを競い合う新体操は、女性特有の華麗さや柔軟性を兼ね備えたスポーツであり、観客を魅了する美の追求も戦いの一つだ。

 身長170cmで長い手足を生かした表現力、「エレガントさで言えば世界一」と、動きの美しさはかねてから評価されている皆川だが、巧みで美しい手具操作や動きのなめらかさといった長所は、今後さらに磨きをかけていきたいと考えている。

「体が縮こまったり、ガチガチしている演技は自分らしくない。曲を感じてダイナミックに演技し、優雅さを体で表現しながらも難しい技に挑戦するのが自分らしさ。私は、新体操は『美しさ』が前提にあって、その中で難しい技をどれだけ見せられるかだと思っているんです。その『美しさ』で、見ている方々に感動を与えられるような演技がしたいですね」

(Number940号『新体操 皆川夏穂「美しさ、優雅さで、感動を与えたい」』より)

文=石井宏美(Number編集部)

photograph by Satoko Imazu

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