根室でしか見られないプロレスラー。アンドレザ・ジャイアントパンダ!

根室でしか見られないプロレスラー。アンドレザ・ジャイアントパンダ!

 いま、プロレス界を巨大なパンダが席巻している。

 昨年夏、本土最東端の街・北海道根室市のアマチュアプロレス団体「新根室プロレス」に突如現れたアンドレザ・ジャイアントパンダがそれだ。

 愛らしい表情とは裏腹に、身長3mというプロレス史上最大級の巨体で暴れまわるその姿は、'70年代から'90年代初頭にかけて活躍した、本家“大巨人”アンドレ・ザ・ジャイアントばりのインパクトで、試合動画がネット上にアップされると、Twitterを通じて瞬く間に拡散。

 一般紙やテレビでも取り上げられるフィーバーぶりとなり、今年1月には、トップレスラーが一堂に顔を揃える、東京スポーツ主催の「プロレス大賞」授賞式にもゲスト出演。ここでも話題を独占した。

 アンドレザが所属する新根室プロレスは、プロレス団体ではなく、アマチュアプロレス団体。普段は、漁師、酪農家、自動車学校の教官など、それぞれ別の仕事に励む社会人たちが、年に3〜4回、地元のお祭りなどで趣味でプロレスを披露する、いわば大人の学生プロレスだ。

 当然、それまで試合結果がスポーツ紙はおろか、プロレス誌に掲載されることもなかったが、ネットを通じて突如ブレイクを果たすというところが、いかにも現代的だ。また、ただただプロレスが好きで続けてきたことが、ある日突然脚光を浴びるその姿は寓話のようでもある。

元はただの同好会が。

 なんせ、新根室プロレスの前身は、'97年にスタートした「根室プロレス同好会」。当初は、根室という地方都市のプロレスファンが集まり、一緒にプロレスのビデオを見たり、プロレスを語り合ったり、たまにプロレスごっこをやったりするサークルだったのだ。

 それが北海道のプロレス団体「北都プロレス」が地元・根室で興行を打った際にゲスト出場させてもらったことがきっかけで、「自分たちもプロレスがやってみたい」という気持ちに火がついてしまい、ネットオークションに100万円で出品されていたプロレス用のリングを、仲間内でお金を出し合って落札。

 そして、プロレスのビデオを見ながら、プロレスラーの動きを研究し、落札したリングで日々練習を重ね、'06年に地元神社のお祭りでアマチュアプロレス団体として旗揚げした。

着ぐるみぐらい、プロレスは余裕で受け入れる。

 以後、根室市周辺のお祭りイベントなどを中心に、年数回プロレスを開催。寒冷地のため10月から3月までは、練習場として利用している倉庫が寒すぎて練習もできないという理由で休業する。

 そんなゆるやかなペースで活動を続けてきたが、数年前から見に来た子供たちを喜ばせるために、着ぐるみのレスラーを登場させるようになり、その延長線上で昨年、アンドレザ・ジャイアントパンダが誕生。新根室プロレスは、11年目にしてブレイクをはたしたのである。

 アンドレザ・ジャイアントパンダの姿だけを見ると「単なる着ぐるみじゃないか。これをプロレスラーと呼べるのか?」と思う人もいるかもしれない。いや、当然いるだろう。

 ただ、プロレスは他に類を見ないほど寛容性の高いジャンル。これまでも、着ぐるみレスラーは数多く登場している。

 たとえば、大仁田厚率いるFMWでは、'90年代初頭からすでに「パンディータ」なるパンダの着ぐるみレスラーが活躍していたし、2000年代半ばには、DDTプロレスリングの別ブランド団体で、機械化されたミイラ男という触れ込みの「メカマミー」がプチブレイクをはたしている。

猪木が画策した「3mの巨神兵」。

 さらに、じつはプロレス界の象徴でもあるアントニオ猪木も、かつてアンドレザ・ジャイアントパンダ的なレスラーを登場させようとしていたのだ。

 1987年12月、ビートたけし率いる「たけしプロレス軍団(TPG)」の刺客として登場したビッグバン・ベイダーは、上半身を巨大な甲冑で覆い入場してきたが、新日本プロレスのプロデューサーでもあった猪木は当初、上半身だけでなく全身を甲冑で覆った、身長3mの“巨神兵”のようなレスラーを登場させることを考えていたという。

 結局、猪木のそのプランは社内会議において、予算オーバーと「3mの巨神兵をレスラーにするのは荒唐無稽すぎる」という、もっともな意見によりお蔵入りとなり、上半身だけ甲冑姿のベイダーが誕生したと言われている。

 つまり、身長3mのアンドレザ・ジャイアントパンダは、ある意味で、かつて猪木が夢見た“正調”ベイダーを実現させたものでもあったのだ。たぶん。

“中の人”含めて立派なレスラー。

 そして、アンドレザがブレイクした理由は、ただデカいからというだけではない。アンドレザは、本家アンドレ・ザ・ジャイアントと同様に、あの巨体とは思えぬ動きで、しっかりとプロレスの試合で魅せてくれるのだ。

 当然、アンドレザの体内には“中の人”がいるわけだが、彼の動きなくして、アンドレザ人気はここまで爆発することはなかっただろう。

 ゴジラのスーツアクターが、“俳優”として世界的に認められたように、アンドレザもまた(中の人も含めて)立派な(アマチュア)プロレスラーなのである。

 とはいえ、新根室プロレスの人たちは、あくまで謙虚だ。「自分たちはあくまでアマチュア」という姿勢を崩さず、本職のプロレスラーへの敬意は欠かさない。

「無理しない、ケガしない、明日も仕事」

 だからこそ、アンドレザ・ジャイアントパンダはこれだけ話題になっているにも関わらず、プロの興行に登場したのは、以前から親交があった大日本プロレスの大会に2度出場したのみ。多くのオファーを断っている状況なのだ。

 新根室プロレスのサムソン宮本代表は、こう語る。

「本職のレスラーの人たちを尊敬しているからこそ、いまだに僕らが同じプロのリングに上がっていいのか、迷いがありますよ。また、いろんなところからオファーをいただいているんですけど、僕らはみんな他に仕事を持っているので基本的に土日しか動けないし、アンドレザは大きすぎて飛行機に乗れないので、なかなか遠征もできない(笑)。

 僕らアマチュアプロレスは、『無理しない、ケガしない、明日も仕事』がモットーですから。だから、いろんなお話がいただけるのはありがたいんですけど、これからも可能なところだけを選別して行こうかなと思ってます」

“密航”ブーム、知ってますか。

 次回、アンドレザ・ジャイアントパンダが登場するのは、4月10日、大日本プロレスの根室大会。昨年11月の上野大会以来、じつに5カ月ぶりとなる待望の試合だ。

 多くの人たちが、話題のアンドレザを一目見たいと思っているだろうが、そのためには遠く道東まで飛ぶしかない。その希少価値は、上野動物園の赤ちゃんパンダ、シャンシャンにも負けていない。

 プロレス界では、'80年代末から'90年代にかけて、プロレスファンの若者が、わざわざ時間をかけ、遠隔地までプロレスを見にいくことを“密航”と呼び、ブームになったことがあった。アンドレザ・ジャイアントパンダは、その“密航”ブームをリバイバルさせる予感がある。

 わざわざその土地に出かけてでも、見る価値、体感する価値がある。そして何よりインスタ映えするアンドレザ・ジャイアントパンダは、地方の時代を象徴する存在になるかもしれないのだ。

文=堀江ガンツ

photograph by Gantz Horie

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