森重真人がルーティンを壊した理由。W杯のためにも「安定より成長を」。

森重真人がルーティンを壊した理由。W杯のためにも「安定より成長を」。

 センターバックは危機察知能力がないと務まらない。

 予測と対処。ピッチで求められることは、人生においても同じなのかもしれない。自分の身に迫る「危機」を前もって感じ、その最中にあってもうろたえることなく克己する。

 森重真人は、開幕に合わせて8カ月ぶりにピッチに戻ってきた。

 さり気なく、そして飾り気なく。

 経験豊富な人らしく、落ち着いた対処には貫禄が漂っていた。危機と戦った対価が、そこにはあった。

 2017年、彼には大きな危機が押し寄せた。

 先のブラジルワールドカップ以降、日本代表でレギュラーを張ってきた男は6月のイラク戦メンバーから外された。サブに回るどころか一気に選外へ。ヴァイッド・ハリルホジッチは代表、FC東京における森重のパフォーマンスに納得していなかった。チームも勝ち切れず、順位を上げていくことができなかった。

 悪いことは続くものである。7月のセレッソ大阪戦で左腓骨筋腱脱臼の大ケガを負い、全治4カ月の診断が下った。

「負のパターンかもな、と」

 ショックに打ちひしがれる姿を想像しがちだが、実際はそうではない。彼は危機察知能力を働かせて最悪のケースを想定に入れていたという。

「(代表メンバーから)外れるかもしれないなっていう感じは自分のなかでありました。そのときに思ったのがひょっとしたら(悪いことの)続きがあって、負のパターンかもな、と。想定内というわけではないですけれど、頭のなかに入れていたことだったので」

 負の連鎖は、以前も経験したことがある。

 大分トリニータ時代の2009年。残留争いの渦中にあった9月、右ひざ外側半月板損傷でチームを離脱。手術を余儀なくされ、チームもJ2に降格した。

 翌年にFC東京へ移籍を果たしたものの右ひざの回復は思った以上に時間が掛かり、自分のイメージどおりに体が動くようになったのは秋に入ってから。残留争いから抜け出せず、またしてもJ2降格を味わうことになった。

 これを契機に日常生活や練習の取り組み方を根本から変えていき、まさしく日本を代表するセンターバックに成長していくことになる。

安定ではなく成長を目指して。

 2017年が厳しいシーズンになることはある程度覚悟できていた。彼の話を聞いていくうちに、そう思えた。

「去年、筋トレなどトレーニング方法を大きく変えることにしたんです。(自分のなかで)安定みたいな感じになっていたので違和感があって、新しいことを試してみたい、と。変えるということは順調にいかない時期も当然出てくる。苦しみも味わうだろうな、と。

 それでも安定ではなく成長のためには、そうやっていかなければいけないと思っていました。プレー中にケガをしたことは“まさか”でしたけれど、それでもうまくいかないことも覚悟してやっていたので、受け入れられないということはなかったんです」

 自分を見直す、いい機会にしようとした。

睡眠時間を含めて、ルーティンをすべて見直し。

 手術に踏み切ってリハビリに入ると、そのトレーニングに集中できた。周りの人が心配するほど筋トレの量もこなした。

 多くの本を読み、多くの人とも会った。

 ストレッチはどうすればいいか、栄養面、睡眠はどうすればいいか。試行錯誤してたどりついた自分のルーティンを一度壊してみる作業は新鮮に映った。

 たとえば森重は1日8時間の睡眠をずっと守ってきた。

 それをわざと7時間にして自分の体と向き合ってみると、1時間短くするだけで「何だか集中できない時間が出てくる」との結論に達する。自分に合うのはやはり8時間。そうやって一つひとつを実践し、確認した。

「いろんな発見や学びがありました。自分は筋力が足りないなってずっと思ってきたんですけど、実際には使い方に問題があるんじゃないかって気づきました。そういうのがいろいろと逆にありすぎて、困ったほど(笑)。でも学んだり、吸収できたら、次にどれを選ぶか選択していかなきゃいけない。どう決断していくかという作業をしていくことも自分にとっては大きかった」

「サッカーってこんなに疲れるんだなって」

 日本代表では自分が務めてきた吉田麻也の相棒を、昌子源や槙野智章がこなしていた。しかし「悔しい」という感情は湧いてこなかった。それほど毎日が充実していたという裏返しでもあった。

「まだ歩けない、まだ走れないという状況では、代表を現実として考えられないですからね。ただ8月に、オーストラリアに勝ってワールドカップ出場を決めたのを見て“自分もそこにいたかったな”とは思いました。ワールドカップ出場を手にする雰囲気を味わいたかったなということだけはありましたけれど」

 大ケガに見舞われてリハビリが長くなると、メンタルの波も大きくなってしまうのが普通だろう。焦燥が不安定を助長するもの。しかし森重はそれを小幅に抑え切った。もちろん不安がなかったわけではない。

「これ本当に治るのか、(足が)動くようになるのか、痛みが取れるのかって手術後から11月にチームに合流するまでは思いました。時間が長く感じましたよ。でもシーズンが終わって、12月中旬に自主トレに入ってからはあっという間でした」

 そして彼は「そうだ。発見と言えば」と苦笑いを浮かべた。

「筋トレもバランス良くしっかりやってきて、走り込みもしっかりやってきて、それなのに久しぶりにサッカーをやってみたら、サッカーってこんなに疲れるんだなって。それが一番の発見だったかもしれません」

 森重はこちらの笑いも誘った。

あとは試合しながら感覚をあわせたい。

 日本代表メンバーから遠ざかっている以上、ロシアW杯が厳しい道のりであることは言うまでもない。

 だが危機をしのいで今の彼がある。

「体はしっかりやり続ければ(いい状態に)持っていけると思っているので、あとは試合をしながら感覚を合わせていきたい」

 プレー感覚はこれからだとはいえ、開幕のピッチで彼が大きく見えたのはきっと筆者だけではなかったはずだ。

4年前より二回り大きく描く目標。

 強い、速い、足元のうまさもある。

 身体能力に長けたセンターバックがいつも課題として指摘されてきたのはピッチ上におけるアラート(警戒)の持続であった。しかし、どうだ。負の連鎖を予測し、それ以上を断ち切り、メンタルの波を小幅で乗り切ったのは、自分にアラートを鳴らし続けてきたから。その成果は、きっと復帰したピッチで自ずと表れてくるはずである。

 前回のブラジルワールドカップはコートジボワール戦のみの出場に終わった。競り合ったボニーにヘディングを合わされて同点に追いつかれた。勢いづくコートジボワールに追加点を奪われ、逆転負けを喫した。4年前の大舞台から彼は何を学んだのか。

「自分の目標設定が悪かったんじゃないかと思いました。ずっとコートジボワール戦に出ると言い続けてきて、結局その次がなかったんです。3試合出るとか、決勝トーナメントに出て勝つとか、そこまで強く欲しないと現実にはならないんだと学びました。悔しさというよりも僕のなかではまずそっちが頭に残っているんです」

 ならば今の目標は?

 森重はフッと笑った。

「二回りぐらい、大きめに思い描いていいんじゃないかって思っています」

 自分を変えるにはパワーがいる。森重真人はそのパワーを使って、己を変えようとしてきた。

 強く欲する意志がさり気なく、飾り気なく伝わってきた。

文=二宮寿朗

photograph by Yuki Suenaga

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