錦織圭の復帰後2カ月をどう見るか?復活した好敵手デルポトロが辿る道。

錦織圭の復帰後2カ月をどう見るか?復活した好敵手デルポトロが辿る道。

 錦織圭の長年のライバルで、こちらも手首のケガから長いブランクを経て復活したフアンマルティン・デルポトロが、初春の北米シリーズで大活躍した。メキシコ・アカプルコとマスターズ1000の米国・インディアンウェルズ(BNPパリバオープン)で2週連続優勝を飾り、同じくマスターズの米国・マイアミオープンでも4強入りした。

 インディアンウェルズの決勝で敗れたロジャー・フェデラーが、こうデルポトロを称えている。

「ケガをしたり、手術を行なった選手にとって一番大変なのは自分への疑いが生じることだろう。カムバックできるか、怖さを乗り越えられるか、もう一度自信を取り戻せるか。2年前、復帰してきた彼は、優勝できないと分かっていても、スライスだけでどこまでできるか、気力でやってみようとしていた。容易にできることではない。これこそ尊敬に値する」

両手首を手術もリオ五輪で銀メダル。

 デルポトロは2009年の全米オープンで四大大会初優勝、'10年1月に自己最高の世界ランク4位をマークしたが、その後、両手首のケガに苦しんだ。'10年5月に右手首、'14年3月と'15年1月、同年6月に左手首と、手術は計4度に及んだ。右手首の故障を克服したのに、次は左手首、しかもこちらはさらに手強く、カムバックしては故障再発の繰り返し。どれだけ己の不運を呪い、自分を疑ったことだろう。

 2度の手術を行った'15年には公式戦に2大会しか出場できなかった。四大大会では'14年全仏から'16年全仏まで9大会連続欠場。'16年2月には1045位までランキングを落とした。

 '16年2月に復帰したが、フェデラーが話したように、しばらくは左手首をかばって両手打ちのショットが打てず、バックハンドは片手打ちのスライスだけでしのいだ。

 力強い両手打ちバックハンドは武器の1つだが、ブランクが長引いたため、ひとまず片翼で飛び立つことを選んだのだ。

 それでも'16年のリオ五輪では銀メダルを獲得した。サーブとフォアハンドの強打、それと勝利への執念だけでノバク・ジョコビッチやラファエル・ナダルを破ったプレーには、鳥肌が立つような凄みがあった。

14歳の錦織が「あいつ、やばいっす」。

 勝負の舞台を離れれば、「ジェントル・ジャイアント」と呼ばれるように、人柄の良さで知られる。2度目の手術を受けて最も苦しんでいたはずの'14年9月には、ともに四大大会初優勝を懸けて全米決勝を戦った同年代の2人、マリン・チリッチと錦織をツイッターで祝福した。

 14歳で国別対抗戦のジュニアデビスカップに出場した際、デルポトロの顔を見つけた錦織は、村上武資監督の前で「あいつ、やばいっす」とつぶやいたという。1つ年下の錦織にとってデルポトロは、アメリカのIMGアカデミーに在籍したジュニア時代から、ライバルあるいは目標として意識する数少ない選手の1人だったのだ。

 その2人は今、互いの力を認め、大会前の調整でボールを打ち合ったり実戦形式の練習を行う間柄だ。

 マイアミ・オープン3回戦で、錦織はデルポトロと当たり、2−6、2−6と完敗した。第1セット後半から第2セットはミスの山を築いた。

デルポトロから見た錦織の現状分析。

 体調不良で前の大会を欠場し、約1カ月ぶりの試合となった錦織の調整不足は明らかだった。予選勝ち上がりのジョン・ミルマンに辛勝した2回戦のインタビューでは「1週間半、ベッドで寝たきり」になっていたことを明かした。デルポトロとの3回戦では序盤から積極的に体を動かし、彼らしい攻めを見せる場面もあったが、徐々に失速した。

 デルポトロは「彼はまだ、以前のパワーを取り戻せていないようだ。でも彼は、その過程にある。ベストゲームを取り戻すにはもう少し時間が必要だ」と気づかった。

 錦織の復調までの道のりはまだ遠いようだ。しかし、試合序盤に見せた躍動と、ボールに食らいつくガッツは彼本来のものだった。デルポトロへの挑戦を楽しんでいるように見えたのは、筆者のひいき目だろうか。

 ただ、錦織が今、「疑い」を乗り越え、自信を取り戻す過程にあることに疑いの余地はない。

今は人生を楽しみ、世界中を回っている。

 デルポトロの復活に、「よし、錦織も」と力を得たファンも少なくなかったのではないか。彼が乗り越えたのだから、とトロフィーを掲げるデルポトロに錦織を重ねてみたくなる気持ちはよく分かる。

「こんな瞬間を想像できなかった。左手首の3度目の手術を行うまで、僕がテニスをやめる寸前まで来ているとみんな分かっていた。僕はカムバックするために努力した。最悪の瞬間もあったが、それは思い出したくない。

 今は人生を楽しみ、世界中を回っている。ファンはコート上でもコートの外でも愛を与えてくれる。これはケガをしている間、僕が望んでも得られなかったことなんだ」

 マスターズ1000初優勝となったインディアンウェルズで、デルポトロは万感の思いを噛みしめた。 錦織にも、こんな瞬間が訪れるだろうか。デルポトロは'16年の復帰から本調子に戻るまで2年もかかったのだから、焦らず、着実に前に進んでほしい。

 ライバルの轍をたどり、ただ願わくはデルポトロほど長い歳月を費やすことなく、あとに続いてくれることを願うばかりだ。

文=秋山英宏

photograph by Getty Images


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