村田諒太の初防衛戦に死角はない。唯一の敵は「圧倒したい」欲だけ。

村田諒太の初防衛戦に死角はない。唯一の敵は「圧倒したい」欲だけ。

 WBA世界ミドル級チャンピオンの村田諒太(帝拳)の初防衛戦が15日に迫った。

 昨年10月、2度目の挑戦で世界王者となったロンドン五輪金メダリストは、今年に入って東京ドーム進出プランをぶち上げるなど、さらなる夢に向かってアクセルを踏み続ける。その試金石となるエマヌエーレ・ブランダムラ(イタリア)との初防衛戦を占ってみよう。

 村田は昨年、アッサン・エンダム(フランス)と拳を2度交え、5月の初戦を不運な判定で落とし、10月の再戦でTKO勝ちして王者となった。リングの上で思わず涙を流した姿に、五輪王者としてのプレッシャーがいかに大きかったかを見たものだった。

 その村田の初防衛戦の相手に抜擢されたのが、ブランダムラだ。戦績は29戦27勝5KO 2敗の38歳。KO数の少なさと38歳という年齢から、だれもが「恐るるに足らず」という印象を持つに違いない。村田本人も「自分でも下馬評は有利と思っている」と言い切っている。

 では本当に村田があっさり勝利を手にすると言えるのだろうか。村田の豪快な“KOショー”を期待していいのだろうか。そう考えるとクエスチョンマークが浮かんでくる。

山中慎介「こう試合は一番難しい」

「こういう試合は一番難しいと思いますよ」と語るのは、村田の南京都高と帝拳ジムの先輩であり、先ごろ引退を表明した元WBC世界バンタム級王者の山中慎介さんだ。

 その理由は2つある。対戦相手という外的要因と、村田の心理面という内的要因だ。

 ブランダムラは本人曰く「カメレオン」の異名を持つ。

 相手のタイプに合わせて柔軟に戦えるという意味だ。9日の公開練習を見る限り、ブランダムラはKO数の少なさ通りにパワーがなく、巧みな試合運びで勝利を重ねてきたという印象を与えた。怖さは感じないが、どちらかといえばディフェンシブで、相手をイライラさせる術に長けたタイプだと言える。

 挑戦者のパーソナリティーに目を向けると、生後8カ月で母親がいなくなり、父方の祖父母のもとで育てられ「複雑な少年時代」を送った。

 18歳でボクシングをはじめ、20年で世界挑戦までこぎつけたが、現在も生計の柱はガードマンの仕事だ。今回の試合に勝利し、人生を好転させようという意欲には並々ならぬものがあるだろう。

パワーで強引に勝負に出ると危ない。

 パワーで上回る村田が強引に勝負に出るようだと、おそらくブランダムラは「しめた」と思うはずだ。前半は目いっぱい動いて村田を空転させ、少ないながらも自らの軽打をヒットさせる。試合を終盤までもつれさせたらこっちのもの。KOが少ないということは、裏を返せばフルラウンドの攻防はお手のものなのである。

 では、内的要因とは何か。ボクシングには「初防衛戦はタイトルを獲るよりも難しい」という格言がある。その心を村田本人が語っている。

「(こういう試合では)1ラウンド目から圧倒しようという気になりがち。チャンピオンの姿を見せたいという気持ちがはやりすぎるのが、初防衛戦が難しいと言われる正体だと思う。その気持ちをどれだけ抑えた状態でリングに上がれるか、リングの上で気持ちをおさえてボクシングができるかがひとつのカギ」

「圧倒したい」という欲で崩れないために。

 村田はアマチュア時代、'11年の世界選手権で銀メダルを獲得したあと「次はオリンピックで金メダルを獲らなくちゃいけない、他を圧倒しなくちゃいけない」という気持ちに陥り、己のボクシングを崩した経験を持つ。

 昨年のエンダム第2戦でも「2試合目はもっと圧倒しなくちゃいけない」と硬くなり、必ずしもいいコンディションが作れなかったという。

 だからこそ今回は「いかに冷静に戦えるか」がテーマになる。いいところを見せようと気負うと、体が前に出すぎて距離がつぶれてしまい、思うような攻撃ができなくなってしまうのだ。

「プレッシャーをかけながらも自分が打てる距離で戦うこと。エンダムとの再戦でも1、2ラウンドは体が前に出すぎてしまった。その反省もいかして、自分の距離を保てれば、結果はついてくると思う」

現時点で死角は見当たらない。

 村田は少なくとも練習段階において「自分の距離を保つ」というテーマは十分に実行できているように見えた。スピードのあるパートナーを相手に、しっかりジャブを突き、距離を詰めすぎずにファイトする感覚を身体にしみこませた。試合2週間前のスパーリングでは、距離を取っているがゆえにカウンターもよく決まり、上々の仕上がりに見えた。

 村田は鬼門である初防衛戦のリスクを十分に理解し、そのための準備も十分にしてきたということだ。本番のリングで何が起きるか分からないという怖さはあるにせよ、現時点で死角はないように思える。

 帝拳ジムの本田明彦会長によると、村田がこの試合に勝てば、秋にラスベガスで2度目の防衛戦を行うプランがあるという。さらにその先には、3団体統一王者、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)との統一戦など、世界的にも注目されるビッグマッチを見すえる。初防衛戦はさらなる夢を語るための第一関門。村田が冷静かつ獰猛に最初のハードルに挑む。

文=渋谷淳

photograph by Hiroaki Yamaguchi

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