大谷翔平の陰で牧田和久も好発進。日米の違いは「皆、楽しそうに」。

大谷翔平の陰で牧田和久も好発進。日米の違いは「皆、楽しそうに」。

 敵地コロラド州デンバーで行われたロッキーズ戦、サンディエゴ・パドレスが3点を勝ち越して5−2とした直後の7回裏、無死一、三塁のピンチを迎えたところで、パドレスのグリーン監督がマウンドに送ったのは、アンダースローの牧田和久だった。

 5番デズモンド、6番パーラ、7番バライカという打順。勝てば今季初の連勝という大事な場面で、グリーン監督は投手交代機に青島通訳を介し、牧田にこうアドバイスしたという。

「三塁走者は返してもいいからな」

 あとは言わずもがな、だ。長打を打たれたり、四球を出したりするのは絶対禁物。まずは1アウト。内野ゴロを打たせて併殺で2アウトを取れれば、1点取られて5−3となっても上出来だ。

 ところが牧田は、右飛、空振り三振、一邪飛とたった10球で三者凡退に仕留めてしまった。チームは結局、そのまま逃げ切って今季初の連勝を飾った。試合後、グリーン監督は牧田の好投について問われ、冗談半分に笑いながらこう答えている。

「三塁走者は返していいって言ったのに、俺の言うこと聞かなかったね」

 大リーグ初ホールドを上げた牧田はその数分後、自分のロッカーの前でこう語った。

「結果的にゼロで抑えられたのは良かった。あまりピンチと考えず、打者ひとりひとりと考えていたので、それがいい方向に向いたのかなと思いますね」

「落ち着いてるように見えますか?」

 日本のプロ野球からメジャーリーグへ挑戦した選手たちは総じて、落ち着いている。彼らはほぼ全員、日本のプロ野球で実績を積んでからメジャーリーグを目指すのだから、米国のプレースタイルや周囲の環境、あるいは公式球をはじめとする道具の違いに戸惑うことはあっても、フィールド上での自分のプレーそのもので困惑するようなことはない。

 牧田もまた、そんな感じでマウンドに立っている。

「落ち着いてるように見えますか?」と牧田は言う。

「緊張とかは見せないようにしてますからね。3戦目ぐらいからガムを噛むようにしているんですけど、緊張が解けるというか、余分な力が入らないというか、いい感じで投げられていると思います」

日米の文化の違いについて「皆、楽しそう」。

 目元だけに浮かべる笑み。考えてみれば彼は、キャンプが始まった時からいつも、そんな表情だったような気がする。

 投球練習で投げ込む。守備やけん制球の練習をする。ランニングをする。それらの端々にいつも、どこか涼し気で楽しそうな感じを出していた。

「それはやっぱり、この環境じゃないですかね。こっちではウォーミングアップの時から皆、楽しそうにやっている。日本だとピリピリして精神的に疲れちゃう選手も多いと思うんですけど、それが日米の文化の違いかなと思います。

 ましてやこっちの監督、コーチも友達みたいにフレンドリーに喋れる雰囲気がある。そういった意味で誰にもストレスがない。日本だとどうしても上下関係があって上からガガッと言われてストレスを抱えてしまうことが多いですから」

 ベースボールではなく、野球道。試合中はもちろん、練習でも歯を見せるなという精神論。歯を食いしばって耐えていく根性論……等々。

「あれは良くない」、「これは良くない」ともう何十年も言われ続けながら、いまだに「昔は良かった」、「今のやり方は生温い」と前に進まない。日本にいた頃の牧田のことはよく知らないが、メジャーリーグにいる牧田は、そんな古い考え方とは無縁な世界で生きている。

元首位打者や錚々たる面子を相手に快投。

 マウンド上での彼は、ここまで飄々としながら存在感を示してきた。メジャー・デビューとなった3月30日のミルウォーキー・ブルワーズ戦では、5回2死から1回1/3を投げて1四球のみの無失点。味方投手が九回に逆転を許していなければ「メジャー初勝利」を手にしていたほどの好投だった。

 4月3日のコロラド・ロッキーズ戦では9回に登板して2/3回を投げて1安打2四球1失点で回を締めずに降板してしまったが、翌4日には同じ相手にやはり9回を三者凡退。7日には敵地でのヒューストン・アストロズ戦で1回を1安打無失点に抑えている。

 その間、牧田はブルワーズの30本塁打以上コンビのドミンゴ・サンタナ外野手とエリック・テームズ一塁手、ロッキーズの通算217本塁打のカルロス・ゴンザレス外野手、2年連続24本塁打以上のトレバー・ストーリー遊撃手、元首位打者コンビのチャーリー・ブラックモン外野手とD.J.レメイヒュー二塁手、そして昨年のア・リーグ最優秀選手のホセ・アルトゥーベ二塁手やカルロス・コレア遊撃手といった錚々たる面子と対戦して、ほぼ完ぺきに抑えてきた。

「楽しんでやらないとつまらないな」

 それでも彼は「相手が誰でとかはまったく気にならない」と素っ気ない。

「日本にいる時もそうだったんですけど、いつも自分の投球をしてきた結果に過ぎないですし、いろいろ考えたって、自分の持っている以上の力は出ないと思うんです」

 自分の持ってるもの。それが最大にして唯一の武器だ。牧田にとって、それは下手投げ=アンダースローという特殊技能であり、それについては今さら語る必要もないだろう。

「社会人野球にいた頃、33、34歳と言えば大ベテランだったし、自分がまさかその年齢で野球をやってるなんて想像もしていなかった。それが今、野球をやってるどころかメジャーリーグでやっている。

 オープン戦では結果も内容も求め、内容が良くなければ抑えても自分の中で物足りないなと思いましたけど、内容が良くなくても気にしない選手が周りに多いので、もっと楽しんでやらないとつまらないなと思いましたね」

 もちろん、結果が伴ってこその「楽しい」だ。

 メジャーリーグ5試合でわずか1失点。現在、3試合連続無失点。「投打二刀流」大谷翔平が新しい環境に適応してセンセーショナルな活躍をする陰で、牧田もまた、メジャーリーグでしっかりと地に足つけて、前に進んでいる。

文=ナガオ勝司

photograph by Getty Images

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