大谷翔平が最速“インストール”したプホルス先生の「ヒールダウン打法」。

大谷翔平が最速“インストール”したプホルス先生の「ヒールダウン打法」。

 翔タイムが続いている。

 開幕から約2週間、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平投手のメジャーデビューを追ってオークランドからアナハイムと米国を旅してきた。

 半信半疑だった現地のメディア、関係者も、打者としていきなり3連発した直後に、今度は投手として7回途中まで“完全未遂”のピッチングを見せられては、もはや二刀流を認めざるをえないのは言うまでもない。手のひらを返したように、大谷賛歌が現地を賑わせていることは読者もご承知の通りである。

 それではなぜ、ここまで大谷が絶好なスタートダッシュを切れたのか? 2週間の取材旅行の中で感じた1つの要因をここで書いてみようと思う。

オープン戦では投打に出遅れたように見えたが……。

 当初から投手ではある程度、早い段階から結果を残せるが、打者では少し苦労するのではと思っていた。

 理由は簡単で投手は自分の絶対能力で勝負できる。簡単に言えばいいボールを投げられれば、そうは打たれないということだ。しかし打者はあくまで相手の投手との相対的な勝負になる。いくら力があっても、相手にアジャストしていくのにはある程度の時間を要するのではないかということだ。

 それが如実に出たのがオープン戦の期間だった。

 オープン戦では投手でもボールやマウンドの違いから、あまりいい結果は出なかった。

 ただ、さらに酷かったのは打者である。メジャーの投手独特のテークバックの小さなフォームにタイミングが合わずに、出場11試合で32打数4安打の打率1割2分5厘という散々な成績だった。

開幕直前にちょっとフォーム修正をした!?

 ご存知のように日本ハム時代の大谷は、右足を振り子のように大きく上げてタイミングをとる一本足打法だった。

 日本の投手の多くは「一、二の三」という投球リズムが多く、「二」と「三」の間にはしっかり「の」という間がある。これだと、大谷の大きく右足を上げる一歩足打法でもタイミングが取れていた。

 ところがメジャーの投手は「二」と「三」間の「の」がない、忙しないフォームが多い。

 大きく足を上げるとどうしてもタイミングが取りづらく、構え遅れてしまっていた。これは昨年のワールド・ベースボール・クラシックに出場した日本人打者の多くが苦労していたことでもあったのだ。

 そこで開幕直前にフォームの修正を行った。開幕の3日前のロサンゼルス・ドジャースとのオープン戦で、突然、自分の「の」も省いた打ち方に変えたのである。

 一般的には「ノーステップ打法」と言われていたが、正確には「ヒールダウン打法」というのが正しい呼称のようだ。

「打ち方を変えたわけではない。一部を省いただけ」

 右足を上げる動作を小さくして、右ひざを内側に絞るようにひねりながら、右かかとをヒールアップする。

 そこから一気にインパクトに向けてかかとを踏み込んでヒールダウンする。

 今までと同じように右に踏み込む感覚は維持しながら、足の動きをかなり小さくして時間を省略できる打ち方だった。

「打ち方を変えたわけではない。一部を省いただけです」

 この修正についての大谷の説明だった。

 右足を踏み込むという基本は残して、踏み込むまでの動作のかなりの過程を省いた。日本時代からの幹は残してメジャー流に修正できた。そのヒールダウン打法が、打者・大谷の成功の秘密だった。

 そんな取材をしているときにハッとする話を聞いた。

 ロサンゼルスで一緒に試合を観戦していた野球ライターの石田雄太さんから「大谷はモノマネ名人」という話を聞いたのだ。

日本ハム時代はブライス・ハーパーを真似していた。

 大谷は、日本ハム時代から先輩投手や相手チームの投手の形態模写が得意で、ちょっと見ただけで相手の特徴をつかみ、投球フォームなどをそっくりにモノマネで再現することができるのだという。

 実は日本ハム時代の一本足打法もメジャーで憧れの打者であるワシントン・ナショナルズのブライス・ハーパー外野手のフォームを参考に(真似て)たどり着いたものだったのである。

 そのモノマネ上手の話を聞いて、もう1つ、思い出したのがエンゼルスのビリー・エプラーGMの話だった。

 同GMが大谷の優れた才能として上げていたのが高い身体表現力だったのである。

「視覚で捉えたものを身体で具体的に表現できる力が優れている」

 このモノマネの才能と身体表現力があるから、大谷は開幕直前の慌ただしい時期でも打撃フォームの修正を行えたのだろう。

大谷が真似た偉大なる“先生”は誰?

 実は明らかに今回のフォーム修正には“先生”がいる。

 直接、教えたのではないだろうが、エンゼルスのチームメイトにまったく同じ膝の使い方をする選手がいるのだ。大谷はその膝の使い方を参考にフォームの修正を行ったと想像できるのである。

 その“先生”こそ、昨年メジャー通算600号本塁打を達成し、今季はメジャー通算3000本安打にあと15本(4月12日現在)と迫っているアルバート・プホルス内野手だった。

 なぜプホルスなのか?

 チームには現在のメジャー最強打者と言われるマイク・トラウト外野手もいる。それなのになぜトラウトではなく、プホルスなのか? 

 それは2人の打撃スタイルの違いだった。

大谷の成長はなぜこれほど速いのか?

 トラウトはボールを呼び込めるだけ呼び込んで後ろ足を軸にして打つスラッガー。

 一方のプホルスはそこまでボールを呼び込むのではなく、ある程度前でさばいていくタイプの打者で、実は大谷もボールを呼び込めるだけ呼び込む意識よりも、右足を踏み込んでそのまま右軸でさばいていくタイプの打者なのだ。

 大谷のスタイルに近いのは明らかにプホルスだった。

 要は自分の打撃に合う選手を見つけて、それを参考にフォーム修正をした。

 見様見真似だが、それでも独特のモノマネセンスとそれをすぐさまやれる身体表現力があるからだったのだ。ゼロから作るのではなく、ある程度、成功している例を自分流にアレンジして形にしていく。

 だから大谷の進歩は他と比べるものなく速いのである。

ベーブ・ルースではない、完全無欠な大谷翔平に!

「まだ始まったばかり。疲労などはこれからだし、今やっていることが通用しなくなる時がくるかもしれない。そこでどうやって修正できるかが問題だと思っている」

 大谷は言う。

 今後も、おそらく様々な“先生”を見て、それを取り込んで大谷はどんどん進化していくのだろう。そうして最後にはオリジナルが出来上がる。

 それこそベーブ・ルースでもない、完全無欠な大谷翔平の二刀流スタイルなのである。

文=鷲田康

photograph by Nanae Suzuki


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