巻誠一郎の生き様が熊本に重なる。試合も震災復興も走り続ける日々。

巻誠一郎の生き様が熊本に重なる。試合も震災復興も走り続ける日々。

 巻誠一郎は、走る。

 交代で入ってくるだけで周りの温度がグッと、ババッと引き上がる。

 184cmの大きな体躯を揺らしながら、ボールホルダーに対して迫力あるプレッシングを前後左右で発動する。追い込んでボールを奪ったら、前へ。途切れることのない荒い息遣いは、執念の証左でもある。

 4月8日、町田市立陸上競技場、アウェーの町田ゼルビア戦。

 故郷に戻り、ロアッソ熊本で5年目のシーズンを迎える37歳の巻は残り7分のタイミングでピッチに入ってきた。タッチラインで「ナイスゴール!」と得点を挙げた皆川佑介を拍手で迎え、勢いよく駆け出していく。

 大宮アルディージャを指揮した渋谷洋樹監督を迎えた熊本は、ここまでプレーオフ圏内に食い込む健闘を見せている。

 サイドの強みと皆川、安柄俊、巻と前線のエアバトルの強み。ストロングポイントを活かすスタイルそのままに、この日もゴールを奪った。

 一方、今季負けなしの町田はコンパクトな守備から執拗に裏を狙ってくる。最後まで息をのむ攻防が続き、ラストのワンプレーで熊本は同点に追いつかれた。走りまくった巻も、肩を落とすしかなかった。

 熊本サポーターの待つゴール裏に向かうと、メンバーには温かい拍手と声援が注がれた。

 何も特別ではない光景かもしれない。だが巻誠一郎は、メンバーは、この当たり前の光景を噛みしめているようにも映る。支えてくれる、応援してくれるありがたさを胸に刻む。震災以降、これこそがいつもの光景なのかもしれない。

震災でも、巻誠一郎は走った。

 2016年4月14日夜、熊本に震度7の大地震が起こった。

 そして16日未明には再び震度7の本震が起こり、熊本は甚大な被害を受けた。

 巻誠一郎はとにかく“走った”。

 避難所に救援物資を届けて回り、声を掛けて人々を励ました。全国にいる友人や知り合いに支援の輪が広がった。届いたものを、心をこめて配る。子供たちの笑顔を取り戻すために、即席でサッカー教室も開いた。

 復興支援サイト「YOUR ACTION KUMAMOTO」を立ち上げ、募金や物資の支援を呼びかけた。地震の発生からずっと困っている人たちのために彼は走り続けてきた。

巻が発表したメッセージ。

 チームが練習を再開できたのは5月に入ってから。練習を終えて、避難所に顔を出すことが巻の日常になった。

 震災後、初めての試合となった5月15日のジェフユナイテッド千葉戦以降、チームはなかなか勝てなかった。それでもアウェーに駆けつけたサポーターは、いつも温かい声援を送ってくれた。チームもサポーターも、巻も、熊本の人たちも、いかなる状況であっても前を向こうとした。

「YOUR ACTION KUMAMOTO」では巻がこんなメッセージを記している。一部、抜粋させていただく。

「わたしはスポーツから諦めない心を学びました。

1人の力は小さなものだけど、1人1人が集まれば大きな力になります。

スポーツに触れて諦めない心を感じて欲しい。

そして、これからの熊本、日本の未来へ繋げていって欲しいのです」

 諦めない心――。

 その思いを、ずっと、いつなんどきでも彼は燃やし続けている。

10分に90分のエネルギーをぶつける。

 勝ち点3を逃がした町田戦を終え、悔しそうな表情のままの巻がロッカールームから出てきた。

「一生懸命耐えていたんですけど、最後のワンプレーでやられましたね。うーん、という感じです。僕らの勝つチャンスのほうが大きかったとは思うので、その意味で僕らのほうが残念だったか、と」

 アディショナルタイムを含めれば約10分のプレーだった。それでもチームの温度を上げていけるのはやはり巻ならではだ。

 彼は言う。

「(出場時間は)5分だろうが、10分、30分、90分だろうが、同じように90分ぶんのエネルギーをぶつけなきゃいけない。だからいつも変わらず、同じ状態を保つのは意識しています。監督が常に使いやすいように、波をつくらないようにしています」

 与えられた時間ですべてを出し切る。それはこの日も同じだった。

復興支援マッチは、「注目が集まる試合」。

 15日には大事な試合が待っている。震災からちょうど2年。ホームのえがお健康スタジアムで開催される次節、東京ヴェルディ戦は「熊本地震復興支援マッチ」として開催される。

 クラブはクラウドファンディングを展開し、目標額の100万円を突破したことを発表している。OBチームによる前座試合や熊本出身・八代亜紀さんのスペシャルミニライブなど、いろいろなイベントが催される。

 熊本地震を風化させてはいけない。

 巻は今も、子供たちとの触れ合いを大切にするなど地道な支援活動を続けている。自治体とのコミュニケーションを取りながら、自分がやるべきことを常に探している。

 巻にとって、今回の「熊本地震復興支援マッチ」はどのような意味があるのだろうか。

「注目が集まる試合ですよね。ずっと支援していただいている全国のみなさんに向けて感謝の気持ちであったり、(復興への)思いというものを発信できたらなと思います。

 そして、応援してくれる方に、やっぱり勝って、勝ち点3をと思っています。これまではなかなか勝てないなかでサポーターに支えてもらってきたので、勝ちたいですよね。これからも熊本の試合を見てもらえるように、もっとお客さんにスタジアムに足を運んでもらえるように、そんな試合になればいいかなと思います」

 走る、諦めずに走り続ける。ピッチでも、支援活動でも。きょうも、あすも、あさっても。

 巻誠一郎の生きざまに、熊本の「今」が重なる。

文=二宮寿朗

photograph by J.LEAGUE

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