ベガルタの快進撃を支える21歳。謙虚すぎる万能FW、西村拓真。

ベガルタの快進撃を支える21歳。謙虚すぎる万能FW、西村拓真。

 昨年、ルヴァンカップのニューヒーロー賞に輝いたのは、クラブ史上初のベスト4に輝いたベガルタ仙台の20歳のストライカー・西村拓真だった。

 富山第一高校2年時に北信越勢初の高校選手権優勝を果たし、一躍注目を浴びた彼は、2015年にベガルタ仙台に入団。プロ3年目で掴んだ個人タイトルだった。

 しかし、この栄誉は彼にとって予想外なことだったのだという。

「受賞を知らされたときは正直、『なんで僕なの?』と思いました。僕の中には『(受賞は)自分だ』なんていう思いは一切なくて……気が付いたら周りが選んでくれていました。もちろんチーム初のベスト4という成績と、メディアの方々が選んでくださったことなので、物凄く光栄なことだと思っています。

 でも、僕は沢山ゴールを獲った訳でもない(10試合2ゴール)し、純粋に個の能力が評価されて獲れた訳ではないとも認識していますので。僕より相応しい若い選手は沢山いるはずですよ」

 彼の生き方には一本筋が通っていた。

 昔から、自分自身の能力をよく理解しており、コツコツと足りない能力・技術を積み重ねていける能力を持っていた。

グランパスのユースには行けないけれど……。

 彼は10代の頃、もともと目立つ存在ではなかった。

 中学まで愛知県で育ったが、「地元のグランパスのユースに行きたかったけど、僕の今の実力では獲ってもらえないだろう。でも将来にはやれる自信はあるので、グランパス(のユースチーム)と同じプレミアリーグに所属するチームに行きたい」と進路を摸索していたという。

 そんな時、彼の祖母が富山に住んでいたことから富山第一という選択肢が浮上した。「祖母の家からなら通えるし、プレミアにも高校選手権にも出たいと思っていた」ということで、彼は富山に新天地を求めた。

自分の長所を伸ばすために、別の努力を。

 富山第一ではトップ下からサイドハーフにコンバートされ、前への推進力と強烈なシュート力が効果的に発揮されるようになったという。

 高2のプレミアリーグ・ウエストで一気に才能が開花。リーグ6得点を挙げ、危うかったリーグ残留に大きく貢献すると、その年の高校選手権では唯一の2年生レギュラーとして活躍した。

 当時の彼の持ち味は縦への突破力。クイックモーションでボールを縦に運んで、そこからの右足クロス、右足の強シュートを得意としていた。

「このプレーだけを続けていると縦に来ることを簡単に読まれてしまい、自分のストロング(ポイント)が出せなくなる。そうならないためには縦だけでなく、逆の流れと言える、中に入っての左足シュートができれば、さらに縦の突破も生きてくると思った」

 そうやって磨き上げた新たなオプションが功を奏し、高校選手権でも驚くほどの活躍ができたわけだ。

積み重ねた努力で、ついにJ初ゴール。

 高3のときはインターハイ、高校選手権にも出場できず、プレミアウエストでも降格。高校選手権では優勝旗を返還するだけという屈辱の1年を味わった。しかし、プレミアウエストでは低迷するチームの中で得点ランキング4位タイの10ゴールをマーク。ひとり気を吐く活躍で、卒業後は見事に仙台入団を勝ち取った。

 ルーキーイヤーの2015年こそ出場ゼロに終わったが、「足りないのは自分の実力。もどかしさよりもプロで成功するために練習を積み重ねるしかなかった」と、歩み続けた結果、2016年にはリーグ12試合に出場を果たす。セカンドステージ第12節のヴァンフォーレ甲府戦では、プロ初ゴールを決めている。

 そして、昨年はリーグ28試合に出場し2ゴール。

 冒頭で記したようにルヴァンカップでは準決勝までの全10試合に出場し、2ゴールを挙げた。

「僕には過去に立ち返っている時間はないし」

「高校選手権優勝、ニューヒーロー賞と、タイトルを獲るということはサッカー選手にとって凄く重要なことだと思います。でも、僕は振り返ることは全くないです。選手権優勝は3年生の力ですし、ニューヒーロー賞も期待賞。凄くありがたい経験だったことは間違いありませんが、僕には過去に立ち返っている時間も暇もないんです。ただ今に集中するのみです。日々の練習にしっかりと打ち込むだけです」

 迎えた2018年。

 リーグ第4節までは途中出場だった西村は、第5節のホームでのV・ファーレン長崎戦で今季リーグ初スタメンを果たすと、31分に決勝弾を挙げてチームの勝利に貢献した。

 そこからスタメンを奪い返し、3試合連続スタメンとなった第7節のアウェー・名古屋グランパス戦。

 彼はプロ入りからずっと1つの目標にしてきたことを達成することとなる。

「複数得点はずっと目標にしてきました。やっぱりストライカーは1試合に1点ではチームを助けることができない。個人で2点以上獲るというのは凄く大事なことだと思っているので……。渡邉監督にチャンスをもらってきたのに、それができなかった自分が悔しかった」

「練習でやっていることがゴールに繋がりました」

 この試合、2シャドーの一角に入った西村は、0−0で迎えた23分、左サイドからの突破で、シュートまで持ち込む。DFにブロックされたが、そのこぼれ球をFW石原直樹が文字通り身体ごと押し込んだ。

 まずはゴールに絡んだ西村は37分、MF蜂須賀孝治がヘッドで落したところへ、走り込みながら右足を強振。今度のボールは誰にも触れることなく、ゴールに突き刺さった。

 さらに68分には左サイドでボールを受け、縦に行くと見せかけて、中央へカットインから右足を一閃。念願の1試合2得点を刻むこととなった。

 87分にDF大岩一貴が一発退場したことで、西村はここでお役御免となったが、チームは西村のゴールを守りきる形で3−2の勝利を飾った。

「練習でやっていることがゴールに繋がりました」

 試合後、彼は笑顔を見せた。1点目のシュート、そして2ゴールはすべて西村らしい、ボールをしっかりとミートした強烈なパンチ力のシュートだった。

「プロの場であまりそういうシュートを出せていなかったのですが、実は今年に入って普段の練習の中でそういうシュートが打てる確率が上がってきていたんです。なので、自分でも『(ゴールは)近づいている』という手応えは正直ありました」

「早く点が欲しい」という焦りが一切なかった!?

 オフ・ザ・ボールの動き、そしてシュートの形に持ち込むアプローチのバリエーション。彼がずっとこだわって磨き続けてきたものが、高校選手権優勝、プロ入り、ニューヒーロー賞、そしてプロ初の1試合2得点と、しっかりと結果という「果実」に結びついてきていた。

「当然、使ってもらっていて、思うように結果が出ないことは多いと思います。例えば、昨年、今年を振り返っても、僕は点が獲れるポジションをやらせてもらいながらも、周りを納得させるほど点を獲ることができなかった。でも、もどかしさよりも『日々を積み重ねよう』という想いの方が強かったので」

 彼に「早く点が欲しい」という焦りは一切なかった。

 この焦りは時にメンタルに大きな影響を及ぼし、獲れない時期が続けば続くほど、自分を見失ってしまい、よりプレーの精度を欠いていく「負のスパイラル」に陥りがちである。

 プロの世界においてその悪魔は常に近くで口を開いて待っているが、地に足がついている西村には、その存在はまったく気にならなかったようだ。むしろ「より確率を上げていこう」という思考に切り替えられたのだろう。

「今、一番言われているのはシュートですね」

「今日、目標だった1試合2得点はできましたが、まだまだ足りないことが多い。

 福さん(福永泰コーチ)と良く議論をしていて、『ボールを隠せ』、『軸足でスピードに乗れ』など、福さんの持っているドリブルの感覚を聞きながら自分のモノにしようとしています。

 今、一番言われているのはシュートですね。自分の近い位置にボールを奥と良いシュートは打てないのですが、遠い位置に置くと良いシュートを打つ確率が上がる。今日の2点目のゴールは完全にその練習の積み重ねが出ました」

「いえ、まったく何も変わらないですね」

 ひと通り話した後、彼に「この2ゴールで何か変わりそう?」と聞いてみると、予想通り「いえ、まったく何も変わらないですね」というシンプルな返事だった。

 謙虚な物言いに聞こえるが、その言葉1つひとつには確固たる自信が感じ取れた。

 彼の言葉からにじみ出る自信の裏付けとは何なのか……それはきっと「自分への大きな期待値」なのだろう。

「常に『自分はできる』と思っています。それは昔からです。もっと化けられると思うし、もっと個人で自分を上げることができると思っています。そのために日々があると思っています」

 21歳。

 これからまだまだ道のりは長い。

 だが、西村は進むべき方向と距離をよく見通している。未来を見通すその眼差しには、一点の曇りもないはずだ。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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